No.127 ナマケグマ – おもしろ哺乳動物大百科 75 食肉目 クマ科

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ナマケグマ属

ナマケグマ属は1属1種で、インド、スリランカを中心とした地域にナマケグマが分布しています。

ナマケグマ

ナマケグマはヒマラヤ、アッサムの低地からインド南端のケープコモリン、及びスリランカに分布していますが、インド北西部の砂漠地帯には生息していません。2亜種に分類され、一つは、インド、ネパール、ブータン、バングラデシュに生息する亜種、もう1亜種はスリランカに生息している亜種で、若干小型です。インドでは岩場が露出している森林や、湿度の高い地域から乾燥地の森林、サバンナ、草地、川で水に流されてできた沖積層など広い範囲に生息しています。主に標高1,500m以下の地域にいますが、まれに2,000m程度のところまで見られます。ネパールではオスのほうが高地に生息しています。スリランカでの生息域は標高0~300mの低地の森林地帯に集中しています。他のクマに比べて夜行性傾向が強いようですが、これは日中の暑さを回避するためと考えられ、日中は地上の涼しい巣穴で過ごします。ネパールでは、日中と夜間の双方で活動しますが、夜間の活動の場合、メスや子ども、亜成獣は夜行性のトラや他のクマに殺されないように注意しています。発情期のつがいと子連れの母子以外は通常は単独で生活し、冬眠はしません。行動圏はスリランカでは狭く、メスはわずか2km²、オスで4km²です。ネパールではメスが約9km²、オスで約14km²と同様に狭いのですが、インドでは広く100km²以上という報告があります。また、食べ物が多い所では行動圏は重複しています。木登りは上手で、また、他のクマのように水の中に入ることはほとんどありません。外敵に対してはうなったり、吠えたり、キィキィかんだかい声をだします。

からだの特徴

他のクマと比べると、毛が長いでしょう。写真家 大高成元氏 撮影

体色は普通黒色ですが、他にも茶、灰色の混ざった個体や、シナモンや赤褐色の個体もいます。胸部にはツキノワグマに似たVやそれに近い形の白や黄色、茶色の部位があります。毛の長さは他のクマより長く、頸部、肩部、背中は15~20cmで、耳にも長い毛が生えています。下毛はなく、腹部の毛はまばらです。足の裏は他のクマとはちがい毛がありません。他のクマに比べると、鼻口部は長く、短い毛が生えています。鼻孔は自分の意思で閉じることができます。上顎の中央部の門歯2本が欠如し、前歯に隙間ができて口蓋がくぼんでいます。唇は突き出すことができ、長い舌と一緒に円筒状のようにして、土やごみを吹き飛ばし、それから中にいるシロアリを吸い込みます。動物園では牛乳を飲ませていましたが、ズーズーと吸い取って舐める音がクマ舎の外まで聞こえるほど大きな音を立てて吸います。長さが6~8cmになる前肢の爪は強力で、地上のアリ塚を壊し、地面を60cmから1~2mも掘ることもできます。また爪を枝にひっかけてぶら下がることもできますが、その姿が中南米に生息するナマケモノに似ていることが名前の由来となったという説もあります。後肢は短く内側に曲がり、内またで歩き、爪も長くありません。歯式は、門歯2/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて40本、臼歯が小さく果肉や昆虫を食べるのに適応しています。乳頭は2対です。嗅覚はよく発達していますが、視覚と聴覚が鈍いため人間を察知するのが遅く、不意に出会うとびっくりして攻撃するためトラブルの原因となっています。

えさ

シロアリ、アリなどの昆虫とその幼虫及び果物や茎、花も食べ、ハチミツも好物です。他にもわずかですが小型の哺乳類、卵、死肉なども食べます。果物が豊富に実るころは、南インドでは少なくとも10科の果物を食べ、その割合は全体の食事量の90%に達し、スリランカで約70%と主な食料源となっています。ネパールでは約40%と少ないのですが、生息地によって好物の果物が少ないことによると考えられます。果物は木に登って採るより落ちたものを拾って食べます。果物がない時期にはネパールでは約95%、インドやスリランカでは75~80%が昆虫、とりわけシロアリが多くなります。

繁殖

発情期は5月から7月の間で、オスは発情したメスを巡って闘います。発情はわずか1~2日ですが1週間続くこともあります。1回の交尾は2~15分間続きます。出産時期は11月から1月で、妊娠期間は着床遅延があるため4~7ヶ月間です。出産するのは自然にできた穴か母親が掘った巣穴で、通常は1~2頭まれに3頭生まれます。クマの中では珍しく子どもを背に乗せて移動するので、3頭を無事に育てるのは難しいのでしょう。肩部から背中にかけての長い毛は子どもが掴み易くなっています。背中に子どもがいる母親はゆっくり歩きます。生後2~2.5ヶ月齢で巣穴から出てきます。やがて生後6~9ヶ月齢頃になると地面に降りることが多くなります。外敵に襲われると母親の背中が避難場所となるので、子どもは1.5~2.5歳まで母親の行動圏内に留まり、その後母親と別れます。そのため出産間隔は2~3年です。
飼育下の記録では、1966年1月5日の横浜市立野毛山動物園の出産例によれば、「出産時の赤ちゃんは体長約20cm、顔、4肢、腹部は赤みを帯び、ほかの部位は灰色(ネズミ色)で、よく鳴いていた。生後1ヶ月齢で母親から離れる回数が増加し、体色も黒身が強くなった。生後64日齢の計測によれば、性別はオス、体重3.4kg、頭胴長45cmであった。生後3ヶ月齢で固形物を食べるようになっており、ほぼ離乳していた。生後14週齢のときプールに転落したが、自分で泳いで岸にあがった。生後17週齢ころから親の背に乗りはじめたが、親の毛が長く子が隠れて見えにくかった」と報告しています。
長寿記録としては、横浜市立野毛山動物園で1988年3月23日に死亡した個体(メス)の飼育期間32年9ヶ月、推定年齢33歳4ヶ月という記録があります。

生息数減少の原因

森林の開発による生息地の消失と分断化、それに伴いかつての生活圏に作られた畑の果物や農作物を食べるようになり害獣として駆除されたこと。また、人と不意に出会うと攻撃するので危険なものとして殺されたこと、さらに体の各部が肉用や薬用として流通するので密猟が後を絶たないこと。これらのことが重なって、過去30年の間に生息数は30%以上減少したといわれています。外敵としては、トラ、ヒョウ、ドールなどが挙げられますが、彼らの餌食になるのはごく稀との報告があります。インドでは、175ある保護区や国立公園内では生息数は比較的安定しているようですが、保護区外では保護も行き届かず憂慮される状態です。スリランカでも生息数の約半数は国立公園の中で保護されていますが、それでも1990年の報告で、生息数は300~600頭と推定され、絶滅が心配されています。
正確な生息数は不明ですが、ナマケグマが生息する5ヶ国での総計は10,000~20,000頭と推測されています。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 インド、ネパール、バングラデシュ、ブータン、スリランカ
体長(頭胴長) 140~190cm
体重 オス70~145kg(まれに190kg)
メス50~95kg(まれに120kg)
尾長 10~13cm
肩高(体高) 60~90cm
絶滅危機の程度 生息地の減少や密猟などにより、生息数の減少が続いていることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981.
川口幸男 4.クマ科の分類,In.世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
小柳 正雄
守山 浩
ナマケグマの繁殖  どうぶつと動物園,
18巻2号(財)東京動物園協会1966.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
Ratnayeke, S., Wijeyamohan, S. and Santiapillai, C.
(柴山哲也訳)
第3章 スリランカのナマケグマの現状. In
アジアのクマ達―その現状と未来―
:日本クマネットワーク編,日本クマネットワーク, 2007.
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