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パリ最新情報「パリ・オペラ座、シャガールの天井画が取り外しの危機に。隠された絵画が再び蘇る?」 Posted on 2023/04/19 Design Stories  

 
パリのオペラ座には、世界的に有名なシャガールの「天井画」がある。
『夢の花束』(1964)と題されたこの天井画は、当時の仏文化大臣アンドレ・マルロー氏の依頼により制作された。
今ではオペラ座のトレードマークにもなっているシャガールだが、実はこの天井画を取り外し、元にあった歴史画を復活させたいという相続人たちの争いが、現在のフランス国内にて勃発している。
 

パリ最新情報「パリ・オペラ座、シャガールの天井画が取り外しの危機に。隠された絵画が再び蘇る?」



 
パリ・オペラ座の天井画が二重構造、というのは一般的に良く知られた話だった。
先に描かれていたのはフランスの歴史画家、ジュール=ウジェーヌ・ルヌヴー作の『昼と夜のミューズと時間』である。
1872年から1964年にシャガールに代わるまでの92年間、オペラ座の天井に設置されていた。
新しい天井画を描いてみないか、とシャガールに打診したのは、文化大臣でありオペラ座の舞台監督でもあったアンドレ・マルロー氏だった。
 

パリ最新情報「パリ・オペラ座、シャガールの天井画が取り外しの危機に。隠された絵画が再び蘇る?」

※左、現在のシャガール。右、ルヌヴー作の隠れた天井画。仏紙Le Figaroより

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巨匠シャガール、77歳の時の出来事だった。
しかし完成し披露された天井画『夢の花束』は、「オペラ座の調和が乱れる」として世間から大きな批判を浴びてしまった。
そのあまりの辛辣さに、当時のシャガールは引きこもりがちになってしまったという。

マルロー大臣も「念のため」を用意していた。シャガールの作品『夢の花束』が、万が一不評だった時にルヌヴー作品に戻せるように“取り外し可能”としたのだ。
つまりシャガールとルヌヴー、この2つの作品の間には10cmほどの隙間があり、両作は楔によってただ繋がれているだけなのである。
しかし『夢の花束』公開から60年経った今では、誰も「ルヌヴー作品に戻すべき」と言わなくなった。
むしろオペラ座の観劇とシャガールの天井画はセットとして親しまれている。
 

パリ最新情報「パリ・オペラ座、シャガールの天井画が取り外しの危機に。隠された絵画が再び蘇る?」



 
ところが今回、ジュール=ウジェーヌ・ルヌヴーの相続人たちが声を上げた。
相続人らの要望は、シャガールの天井画を取り外し、元にあったルヌヴー作品『昼と夜のミューズと時間』を再び設置すること。
彼らは相続人が行使できる“所有権の不可侵”、つまり著作権侵害を主張しているというのだ。
(1923年にオペラ・ガルニエ宮にて契約が交わされていた。シャガールの天井画の撤去を要求することができるのは、ルヌヴーの相続人と、オペラ座を建築したシャルル・ガルニエの相続人のみ)
しかしなぜ今になって取り外しを要求しているのか。
これは今年1月まで開催されていた、ルヌヴーの回顧展が仏国内で大成功を収めたことが背景にあった。
フランスの美術評論家たちがルヌヴー作品を手放しで称えたことが、相続人たちが声を上げるきっかけになったと仏紙ル・フィガロも述べている。
 

パリ最新情報「パリ・オペラ座、シャガールの天井画が取り外しの危機に。隠された絵画が再び蘇る?」

 
今回、パリ・オペラ座の副総監督であるマルタン・アジュダリ氏は取材に対し、「オペラ座の象徴であるシャガール作品を取り外しどこかに寄贈するというアイデアは、深刻な問題を引き起こしかねない」と明言を避けている。
しかしルヌヴーの相続人とは、今年5月に仏文化省の立会いのもとで会談することが決まった、とアジュダリ氏は取材時に付け加えた。

技術的には、シャガールの天井画は非常に解体しやすい状態だという。
「おそらく無傷であろうルヌヴーの天井画は、再び見えるようになるタイミングを待っているに過ぎない」とするのは彼の相続人たちだ。
2023年前半に起きた仏美術界の大きな事件。
文化省と相続人の会談は3週間後の5月9日に予定されている。(オ)
 

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