2023.09.26

生成AIが作る「ビジネス」の新ソリューション

「Open AIのGPT-4の登場で、第4次AIブームへの流れが一気に加速しました。第3次と第4次の最大の違いは“誰でもAIの活用ができるようになった”ことです。

 プログラミング言語ではなく、自然言語によるAIへの指示が可能になったので、誰でも簡単に最新のAIを活用し、テキストや画像を生成させることができるようになりました」

 東京大学工学部三号館で行われている大学院の講義“知識社会マネジメント”(工学系研究科技術経営戦略学専攻) は、科学技術を社会に活かす意欲のある学生が参加する人気講義だ。

 開講時刻を前に席は前方から埋まっていき、定時には全席が埋まっていた。

 この日のゲスト講師は電通デジタル執行役員の山本覚氏だ。

 山本氏は東京大学松尾豊教授の下でAIについて学び、視聴率予測エンジン「SHAREST」や広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新する「∞AI(ムゲンエーアイ)」の開発に携わるAIのプロフェッショナルだ。

東京大学・松尾豊教授の下、人工知能(AI)を専攻。AIとビッグデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CRO(コンバージョン率最適化)やSEO(検索エンジン最適化)など、多数のデジタルマーケティングサービスを提供。2023年4月1日より現職。

“AIに何をやらせるか”が問われる時代に 

「本日の講義では、前半でAIの技術進歩の現在地点についての説明をし、後半で電通デジタルが開発したソフトを使い、チャットbotを作ってもらいます。GPT-4と同様、プログラミング言語は必要ありません。

 日本語や英語で話す内容、口調、キャラクター設定などを打ち込めば、AIがボットを生成してくれます」
 学生たちは「ドラえもんのようなチャットbotを作って」「困りごとを書くと、秘密道具を出してくれるようにして」と、条件を打ち込んでいく。

「これからの時代はプログラミング言語の学習に対しての向き合い方が、大きく変わってきます。プログラミングができること自体が価値を持つというより、むしろ“AIに何をやらせるか”という発想力と、AIに指示を出す言語能力が人間側に問われるようになるはずです」(山本氏)

“知識社会マネジメント”の担当教員である東京大学特任准教授の佐々木一氏は、今回の講義の趣旨について次のように語る。

「AIをはじめとしたさまざまな技術進歩によって、私たちの社会で求められる知のあり方が急激に変わりつつあります。

 AIにできることが増えたということは、それに対して“人間にしかできないこと”を捉え直して、再構築する必要があるということです。

 そうした流れの中で、以前は“正解を探すスキル”が求められていたのに対し、“問いを生み出すセンス”が必要になってきました。

今回はデジタルクリエイティブ領域における、こうした具体例を山本さんにご紹介していただき、学生に刺激として受け取ってもらいたいと考えました」


次のAI活用はクリエイター主導で進む 

山本氏に、今回の講義の狙いと、AIによって大きな環境変化を受けつつあるクリエイティブの最前線について、あらためて話を伺った。

──今回の講義の狙いを教えてください。

 現在の第4次AIブームは、これまでと異なり、プログラミングスキルが必須ではないこと、エンジニアではなくクリエイター主導で技術進歩が進んでいくことが特徴です。

 学生たちにはその点を踏まえて、「AIにどのような指示を出すかが重要になってくる」ということを実感してもらいたかったんです。

「AIをよりよく使う知のあり方とは何か?」という問いを持ち帰ってくれたら嬉しいですね。

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──AIができる仕事の範囲は、どのように広がっていくのでしょうか。

“誰がやっても同じ結果になる仕事”はかなり代替されるでしょう。

 例えば会議の議事録作成は、若手社員がやっても、社長がやっても、ほとんど同じ成果物になるはずです。

 それならAIがやるべきだし、技術的にもAIが音声や映像から作成することが可能です。

 プレゼンテーション用のパワーポイント作成も、同様です。話すテーマを決めて指示を出せば、資料を自動で作ってくれるAIが存在します。

 こう話すと「仕事が奪われる」と不安に感じる人も多いかもしれません。

 しかし、なくなるのは業務の一部だけで、職業自体ではありません。

 AIに任せる範囲が広がることは、人間が本来やるべきことを見つめ直すきっかけになります。

議事録作成は、社内の意思決定を進めるという仕事の補助業務に過ぎません。パワーポイントの作成も、目的は「相手にメッセージを適切に伝えること」のはずです。

 本来、私たちは議事録やパワーポイントの作成といった仕事の本質ではないタスクに時間を費やすのではなく、「仕事の本質的価値」である、意思決定や意見伝達の内容を考えるところに、もっと時間を使うべきなのです。

 技術が進歩すると、仕事の雑務はどんどんAIによって代替されます。

 そんな中で、私たちは自らの「仕事の本質的価値」について振り返る必要に迫られつつあるのではないでしょうか。


コピーもバナーも自動生成が可能に 

──AIの進歩は、御社の事業にとって、どんな影響があるのでしょうか。

 電通デジタルの事業の根本は「顧客基点の価値創造」です。

 そのためにシステム基盤やデータ環境の構築、事業成長のためのDX支援、グローバル企業のためのDX支援といった形で、多面的に企業の価値創造へのご協力をしています。

 そうした中で、デジタルを活用した顧客や生活者とのコミュニケーションプランニング、広告作成も企画・制作・運用まで一気通貫で行っています。

 AIの進歩によって、これらのソリューションが大きく進化すると考えています。

──広告業界について言うと、AIの影響はどう表れているのでしょうか。

 生成AI登場以前からテレビ視聴率の高精度な予測や、より視聴者層に合わせたCM枠の組み替えを行うAIを開発してきました。

 そして、生成AIが登場して以降は、CMのコピーやバナーまでもAIが作れるようになりつつあります。

 こうしたAIの技術的進歩により、広告業界の“人の興味に合わせたコンテンツの予測”を、かなりの割合でAIが担うようになってきています。

──ここ数年で、AIによってかなりできることが増えていますね。

 電通デジタルは、クライアント企業の事業成長パートナーとして、共に新たな価値を創造することを目標とし、その事業領域の一環として、広告ソリューション事業を行っています。

 そのなかで、最先端の技術を実装した「∞AI」を開発しました。

「∞AI」は効果予測はもちろんのこと、広告クリエイティブ制作プロセス全般の支援も可能になっており、大きく4つの機能を有しています。

 一つ目が「訴求軸発見AI」です。

 AIがさまざまなデータをもとに、顧客分析・市場分析・自社分析を行い、消費者に伝えるべきセールスポイントを新たに発見し、提示します。

 今まで、クライアント担当者や広告事業のクリエイターであっても、気づくことができなかった視点から、消費者にアプローチすることが可能です。

二つ目が「クリエイティブ生成AI」です。

 訴求軸発見AIで抽出されたキーワードをもとに、キャッチコピーを作成してくれます。
避けたい言葉の組み合わせや、NGワードを指定すれば、コピーの精度はかなり高いものになります。

 また、キャッチコピーに合わせたバナー画像も作成可能です。

キャッチコピーを入力するだけで、バナー画像を生成することも可能になりつつある。AIに「スポーティーな格好をした女性で背景はピンク」や「背景に公園を追加」といった指示をしたもの。人物や背景もAIが生成。
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三つ目が「効果予測AI」です。

 各種プラットフォームの出稿データやクリエイティブを構成するさまざまな要素と、出稿効果の関係性を学習したAIで、出稿前の段階で出稿効果を予測できます。

「クリエイティブ生成AI」で作ったキャッチコピーやバナー画像をもとに、どの案で進めるかといった判断ができるため、もっとも効果的な出稿判断が可能になります。

 四つ目が「効果改善AI」です。

 どのクリエイティブを改善したら出稿効果が改善されるのか、広告出稿後にAIが判断し、フィードバックをしてくれます。

 例えば、「背景色を暖色にしましょう」「製品画像をもっと小さく」「コピーの位置を変えましょう」といった具体的な提案をしてくれます。

 ネクストアクションをAIがすぐに出してくれるため、迅速に出稿内容や出稿戦略の見直しにつながります。

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変わるソリューション提供のあり方 

──クリエイティブ人材が果たす役割は大きく変わりますね。

 そうですね。

 ただ、私個人はクリエイティブ人材の役割が変わるというより、幅広い分野で原点回帰が進んでいくと考えています。

 広告事業に関して言えば、「仕事の本質的価値」は、生活者のインサイトを正確に把握し、切り口をどう立てて課題を解決するかだと思うんです。

 AIの発達によって、ユーザーの選定、予算配分、コンテンツの作成という業務の負担がかなり軽くなりました。

 その結果、マーケティング担当者もクリエイティブ担当者も、“生活者のインサイトをつかむ”“情報発信の切り口を考える”という業務によりリソースを割けるようになったと感じています。

 社員全体で取り組んでいる業務のレイヤーが、一段階上がったという印象です。

──電通デジタルの強みをあらためて教えてください。

 電通デジタルには、先ほど挙げたAIのような技術を最大限に引き出す強みが3つあると思っています。

 一つ目は、マーケティングに関する過去の実施データが膨大にあることです。

 電通デジタルにはAIの活用を支援する、幅広い領域のデータがあります。蓄積しているパラメーターの多さによって、AIへの指示出しが的確にできます。

 二つ目はBtoBに対する知見の深さが活用できることです。

 これまでは、広告実績に関する定性的な知見は、部署や個人のノウハウとして蓄積されて、情報がサイロ化していました。

 そのため、横断的に知識や経験を活用するのが難しかったのですが、生成AIの活用により、社内の議事録やデータを横断的に要約することが可能になりました。

三つ目がクリエイティブ人材の層の厚さです。

 AIに学習させた事実に基づき、アイディアを出していきながらも、AIに何を聞き、どうアウトプットを出させるかは、人間の経験が物を言います。

 どんなにAIに情報を入れ込んでも、国籍や文化といった情報の理解や、人間の感覚的部分への配慮などには限界があります。

 AIに任せる範囲が広くなったからこそ、長年の情報や経験を持つクリエイティブ人材を多数抱える総合デジタルファームとしての役割が重要になってくると思います。

──AIに関連する強みは、幅広い場面で活かせそうですね。

 電通デジタルは総合デジタルファームとして、広告事業だけでなく、AIを活用したさまざまなソリューションを提供しています。

 電通デジタルの事業の軸は、クライアントの本質的な課題を見つけ出して、解消していくための方法を提示すること。

 最近ですと、AIによって人間味のある革新的なデジタル体験を提供する「Humanized Digital Experience」というコンセプトに基づいたカスタマーセンター支援サービスの提供を開始しました。

 ChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)を活用し、これまで企業においてオペレーターが担っていたカスタマーサービスでの顧客応対を、自社や顧客の情報管理を担保しながら、AI自身が相談受付から必要手続きまでを完了させるところまで一貫して行うことが可能になります。

 また、「HUMAnalytics(ヒューマナリティクス)」というソリューションでは、AIとデータ分析の力を活用し、企業の人的資本データを収集・可視化することで、企業戦略と人事戦略の橋渡しを可能にしています。

──幅広いソリューションがあるのですね。

 そうですね。

 しかし、単にソリューションをメニューとして提供するのではなく、コンサルティングから解決策の提示、提供まで一貫して行えるのが、電通デジタルの強みだと思っています。

 AIはあくまでも人間を観察・模倣しているだけであり、人間に「共感」することはできません。AIがいくら進歩しても、顧客基点で一緒に課題を考えることは、人間にしかできないのです。

 電通デジタルは「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」というパーパスを掲げています。

AIが進歩しても、人をワクワクさせたり感動させたりするものを作るのは、最後は人間の仕事です。

 生活者理解に長けた経験豊富なクリエイティブ人材が持つ力と、最新のAIの力を活かして、電通デジタルのパーパスを体現し、企業の新しい事業を切り開くパートナーとして、ご一緒させていただけたら嬉しいですね。

(制作:NewsPicks Brand Design 執筆:青木優海 撮影:岡村智明 デザイン: TCP inc. 編集:金子祐輔 ) 

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