「人と暮らせない」「食事も料理も嫌い」 女優・吉行和子が明かす「おひとりさま生活」の楽しみ方

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残酷すぎる現実

 自宅介護だった母は冗談半分で「私にはあなたがいたからよかったけれど、あなたはどうするんでしょうね?」なんて憎まれ口を叩いていましたが、認めざるを得ない残酷すぎる現実です。

 もともと私は物に執着する性格ではありませんから、アクセサリーも洋服も、舞台や映画の台本だって、ほとんど処分してしまっている。だから、もし私が死んでも遺品整理なんかでご迷惑をかけることは、たぶんない。だけど、死んだ後に誰にも見つけてもらえなかったらどうしようって、今はそれだけが心配。自分の体は事前に処分するわけにもいきませんからね。

「老い」のバロメーター

 でも、すでに対策は講じてあるんです。親しくしているお友達に、毎朝1回ラインで連絡をちょうだいってお願いをしていて。昼間になってもそれに返信がなければ、しかるべきところに連絡を入れてもらうことになっている。

 それから、私くらいの年齢になると、毎日、何かしらできないことが出てきますから、自分の能力を過信しないことも大事ね。いつまでも若い感覚のままでいると、思わぬケガにつながります。

 私も数年前、雨で濡れた路面をヒールで歩いているときに転んでしまい、大腿骨を骨折する大ケガをしたことがありました。シャクだから、そのときに持っていたヒールの靴は全て捨ててしまいましたが、できなくなったことを受け入れることも必要です。

 あと、うちでは飲料用にウオーターサーバーを使っていましたが、水の入ったボトルをひとりで持ち上げることができなくなり、蛇口に取り付けるタイプの浄水器に変えてしまいました。うんと昔に購入したパソコンも、これで原稿を書けるようになりたいって努力を続けたんだけれど、このあいだ処分。いくら練習しても、頭で考えたことをそのままタイピングするのがどうしてもできないの。紙に書き出してから打ち込むんじゃ二度手間じゃない、と思って捨ててしまいました。

 そうやって「老い」と折り合いをつけている最中の現在、一つのバロメーターにしているのは、ごみ捨てです。今は週に何度か、自分でごみ袋を抱えてマンションのごみ置き場まで持って行っていますが、これができなくなったら、今の生活を少し見直さないといけません。

 ひとりで生活することが困難になったときのために、介護施設選びもしているんですよ。学生時代の友人たちがわざわざ私の代わりに見学に行ってくれて「ここ最高よ!」なんて薦めてくれたこともありました。映画館や百貨店が近くにある施設の資料を取り寄せて「ここなら退屈しなそう!」とか、自分でものんきなものだと思いますが、備えておくに越したことはありません。

 でも、目標はあくまでも「生涯現役」。足腰が衰えないよう、今でも1日5千歩くらいは外を歩くようにしています。

 昔は海外旅行が好きで、毎年のように外国に出かけていたこともありましたが、コロナ禍でそれも難しくなった。今ではデパートに行くことがもっぱらの楽しみで、「世の中にはこんなものがあるのか」と驚きながら、運動もかねて歩き回っています。そうそう、このあいだは半世紀以上ぶりにひとりでプラネタリウムにも行ってきました。

 ひとりでいると、できなくなっていくことの多さに絶望することも多い。でも、それは仕方のないこと。どうなっちゃうのだろうと、むしろ興味を持っている方がいいと思っています。

吉行和子(よしゆきかずこ)
女優・エッセイスト。1957年、舞台「アンネの日記」でデビュー。「折り梅」で毎日映画コンクール田中絹代賞を、「東京家族」で日本アカデミー賞優秀主演女優賞をそれぞれ受賞。代表作に「愛の亡霊」「佐賀のがばいばあちゃん」「おくりびと」「人生、いろどり」「燦燦」「家族はつらいよ」など。

週刊新潮 2023年1月5・12日号掲載

特別読物「『生涯独身』『死別』『離婚』著名人が明かす人生100年時代の『実録・おひとりさま』日記」より

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