『地獄の黙示録』のセイコーとロレックス ~Actor’s Watch #12~

*出典元:https://medium.com/

映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第12弾の今回は映画『地獄の黙示録』に登場する2本の時計についてお送りしていきます。
隊員諸君!朝のナパームの匂いは格別だ!(キルゴア中佐:談)

異色のベトナム戦争映画

西洋文明によるアフリカ植民地化の闇を描いたコンラッドの小説『闇の王』を下敷きとし、ベトナム戦争に置き換えて1979年に公開された『地獄の黙示録』(原題:”Apocalypse Now”)

舞台は1960年代末のベトナム戦争後期。陸軍将校のウィラード大尉は、軍を裏切ってジャングルの奥地に王国を築き上げたといわれるカーツ大佐の暗殺を命じられます。任務遂行のため部下と共にナング河を溯っていくウィラードはその過程で遭遇するさまざまな「戦争の闇」に囚われていくのです…。

*出典元:https://cinemaunchained.wordpress.com/2019/04/05/remembering-a-masterpiece-apocalypse-now/

台風の襲来、ウィラード大尉役を演じるはずだったハーヴェイ・カイテルの降板、カーツ大佐役の大御所俳優マーロン・ブランドの我儘、俳優やスタッフが麻薬に手を出し始めるなど、ありとあらゆる困難に見舞われ、撮影期間も予算も当初予定していた3倍近くに膨れ上がった本作は、映画関係者やファンの誰もが認める「世紀の問題作」と言われております。しかし現代ではベトナム戦争の狂気を描いた作品として『ディア・ハンター』『プラトーン』などと並び『地獄の黙示録』の評価は歴史的傑作として揺るぎないものとなっています。

*出典元:https://apnews.com/

それでは『地獄の黙示録』の劇中に登場する印象的な2本の時計をご紹介してまいりましょう。

マーティン・シーンのセイコー

カーツ大佐の暗殺を命じられたウィラード大尉を演じるのはマーティン・シーン。
持病を理由にオファーを断る予定でしたが、ジャングルでの撮影は短期間で済むと説得されて役を引き受けます。しかし撮影は予定の3倍以上の61週にも及んだことで最終的に心臓麻痺を起こして生死の境を彷徨うことになり、これも本作の撮影が滞る原因となりました。

劇中で彼が身に着けている時計は「セイコー6105-8110」
時計愛好家には「セカンドダイバーズ」の後期型として親しまれている一本です。

*出典元:https://montrespubliques.com/new-1minute-reads/film-war-and-watches

ベトナム戦争当時、多くのアメリカ兵が実際にこの時計を着けていたことが知られていますが、その理由はこの時計が軍内の売店にて免税で安く購入できたためと言われております。多くのアメリカ兵に「安くて丈夫な時計」として愛されていたそうです。

この時計は冒険家の故植村直己氏が着けていたモデルとして日本では知られており、「植村直己モデル」などと呼ばれることがありますが、海外では「Captain Willard」つまり「ウィラード大尉モデル」と呼ばれて親しまれています。

*出典元:https://www.horologii.com/watch-reviews/seiko-prospex-captain-willard-spb151-and-spb153-watches-review/

同じ時計に日本と海外で異なる愛用者の名前がニックネームとして付けられている
というのは中々珍しいケースなのではないでしょうか?

この「Captain Willard」は1度目に「プロスペックス SBDX031」、2度目に「プロスペックス SBDC109(黒)/SBDC111(オリーブ)」と、2度復刻されており、いかに愛されている時計であるかが窺い知れます。

*出典元:https://www.hodinkee.com/articles/seiko-spb151-and-spb153-captain-willard-prospex-introducing

マーロン・ブランドのロレックス

もともとはスティーブ・マックィーンをイメージして作られたキャラクターとも言われるミステリアスなエリート軍人「カーツ大佐」。彼を演じるのは「20世紀最高の俳優」とも称されるマーロン・ブランド。しかし撮影現場では我儘なふるまいをすることでも知られており、本作でも「太りすぎ」「セリフを憶えない」「デニス・ホッパーとの撮影を拒否」など稀代のトラブルメイカーぶりを発揮しています。

劇中でカーツ大佐が身に着けているのはロレックス。皆さんご存知のこのモデルです。

*出典元:https://robbreport.com/style/watch-collector/marlon-brandos-apocalypse-now-rolex-gmt-master-2857936/

ご存じない?
見たことない?
実はこれベゼルが外されたGMTマスター(Ref.1675)なのです。

カーツ大佐は軍人としての超エリート街道を捨て、何もかもを断捨離してジャングルの奥地で王に君臨した男。それが高級な腕時計をしていると背景にマッチしないというスタッフからの指摘があり、マーロン・ブランドは自分で目立つベゼルを外し、ブレスレットをベルトに替え、地味な時計に見せかけて撮影に臨んだとのことです。しかし今こうやって見るとベゼルが外されたGMTマスターは、戦争の狂気に囚われ大切な何かを失ってしまったカーツ大佐の人格を表現しているようにも思えてきます。

ちなみにこの「ベゼルが外されたマーロン・ブランドのGMTマスター(Ref.1675)」は、2019年12月にニューヨークで開催されたフィリップスのオークションに出品され、なんと1,952,000ドル(約2億1000万円)の高値で落札されています。

*出典元:https://robbreport.com/style/watch-collector/marlon-brandos-apocalypse-now-rolex-gmt-master-2857936/

まとめ

「Captain Willard」は何度も復刻が行われ、ベゼルが外されたGMTマスターはオークションで高額落札されました。これはいずれも「次世代への価値の継承」であり、『地獄の黙示録』のテーマのひとつである「継承」とも合致します。映画の意味や価値が後々になって時計の意味や価値を高め、次世代への継承に繋がったと言っても過言ではありません。

古い機構を守りつつ先進性を取り込んでいく機械式時計は、まさに「継承の連続」で作られています。また、時計も映画もこの「継承」を表現することで価値を高め、次の世代を動かす原動力のひとつにしているとも言えます。

時計を選ぶとき「誰にどのような時計を継承したいか」を考えると、一味違った選択肢が見つかるかもしれません。そういう選び方はいかがでしょうか?

ではまた!

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