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東京五輪招致に「機密費使用」で贈答品? 馳浩・石川知事発言の晴れぬ賄賂性

2023年12月4日 05時05分 (12月4日 12時16分更新)

東京五輪招致で機密費を使ったとの発言が波紋を広げている石川県の馳浩知事=1日、県議会で

 石川県の馳浩知事が東京五輪の招致を巡り、開催地決定の投票権を持っていた国際オリンピック委員会(IOC)委員に内閣官房報償費(機密費)を使って贈答品を渡したと発言した問題が波紋を広げている。東京開催が決まった2013年当時の招致ルールでは、慣習的な「ごくわずかな価値の贈り物」は認められ、IOCもアルバムについて倫理規定に触れない認識を示す。ただ、機密費の使用、金額は専門家から疑問も出ている。

IOC「アルバムは規定に触れず」

 馳氏は11月17日に都内であった講演で、IOC委員の選手時代などの写真をまとめたアルバムを全員分作成したと話し「官房機密費使っているから。1冊20万円するんですよ」と明かした。その後、馳氏は「事実誤認がある」と発言全体を撤回したが、どの部分が誤認かなどは説明しなかった。
 一方、IOCは11月29日、「いかなる場合でもアルバムは明らかにIOCの規定に沿った感謝の印だ」との声明を出し、規定に触れないとの認識を示した。
 中京大の來田(らいた)享子教授(五輪史)によると、IOCは各国が持ってきた土産を一つ一つ、弁護士などの担当者が倫理規定に触れるか、商品のカタログまで活用しながら細かくチェックする仕組みを取っている。国によって経済状況が違うため、明確な金額基準はないが、規定に違反する恐れがあると判断された物については返却されるという。
 來田教授は馳氏発言が事実ならばと前置きし、領収書なしで自由に使える機密費を使ったことを問題視。「五輪関係の賄賂か土産代のどちらかを機密費から支出したことが、国民に認められるのか」と批判する。

識者「贈った人の立場、財源も問題」

 來田教授は、IOC委員が弁護士ら担当者のチェックを経てアルバムを賄賂性のあるものと認識せず、受け取ったとみる。「選手の写真はライセンスの関係上、一定の金額で購入する必要があり、20万円では数枚しか掲載できず大げさなものは作れない」とアルバムについて類推するからだ。
 1冊20万円という金額には「市民感覚では決して安くない。まして、そんな金額のアルバムなど想像もつかない」と強調。だが、2億円以上のカネの行方が問題となり、東京五輪招致委員会理事長だった竹田恒和氏がフランス当局の捜査対象となったことと比べて「IOCは写真数枚が入ったアルバムをもらったからといって票を動かすほどの影響力は持たないと判断したのだろう」と推測する。
 それでも來田教授は、馳氏が当時、自民党の五輪招致推進本部長で、国会のチェックを受けない機密費を財源にしていることを踏まえ「賄賂性は何を贈ったかだけでなく、贈った人の立場や財源も問題となるはず。IOCが各国内のそれらの事情まで確認するのは難しいからこそ贈る側の倫理性が問われる」と語る。

いかなる贈与もダメ でも友好の印はOK

 東京五輪招致に適用された2012年版IOC倫理規定では、序文に続くA~Gの項目の「B・高潔」の欄に「贈与は、地元の慣習に基づく名目的な価値の物のみを、敬意又は友好の印としてオリンピック関係者から受け取る、又は贈ることができる」と明記する。
 五輪アナリストの春日良一さんによると、この規定には賄賂や過剰な接待などが問題となり、一部のIOC委員が追放となった02年のソルトレークシティー冬季五輪招致活動の反省が生かされている。16年から規定がさらに厳格化され、一切の贈り物を禁じている。
 馳氏発言のアルバムについて、春日さんは「概念的に友好の印と言えなくもない」と指摘。仮に、IOC委員が選手時代に日本であった世界選手権などで活躍した写真を入れれば、彼らの人生と日本の関わりを演出することができる。
 ただ春日さんは金額に疑問を呈す。招致に関わった1998年の長野冬季五輪では、不文律として土産代が上限200ドル(1ドル149円で計算し2万9800円)と決まっていた。馳氏発言が事実なら、IOC委員は105人で計2千万円余りとなり、当時の不文律と比べ過剰とみなされる。

倫理規定、現在はより厳しく

 12年からの規定では「ごくわずかな価値の贈り物」を認める文言がある一方、五輪開催希望都市に適用される行動規範第9条には「いかなる贈与を行なってはならず」と一見矛盾するような記述があった。來田享子教授は「欧州では互いに敬意を示すためにお土産を渡す文化がある」と指摘。その枠内で招致に影響しない程度なら、違反ではなかったと考えられるという。
 16年版の倫理規定からは「ごくわずかな価値の贈り物」を認める文言が「ごくわずかな価値の感謝のしるし、または友情のしるし以外は提供することも、受け取ることもできない」と変更された。春日さんによれば、このしるしとは、五輪招致委員会が自分たちのエンブレムが入った旗や盾、ネクタイなどを用意することを想定している。
 この箇所も12年は「ギフト(贈与)」が使われていたが、16年からは「トークン(しるし)」に変わり、「ギフト」は禁じられた。「公正さと高潔性に疑いが持たれる」行為をしてはならないとの文言も加わった。
 (郷司駿成)

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