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【宝生流シテ方・佐野玄宜の能楽談儀】能「経政」 短くも気品ある作品

2023年10月21日 05時05分 (10月21日 10時22分更新)
死後に堕ちた修羅道の有様を見せる平経政の霊=2016年7月、石川県立能楽堂で

死後に堕ちた修羅道の有様を見せる平経政の霊=2016年7月、石川県立能楽堂で

 武将というと、戦国武将を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、能の演目のほとんどは室町時代にできていますので、登場するのはそれ以前に活躍した武将、つまりは源平の武将になります。
 源平の武将で有名なのは、源頼朝、義仲、義経、平清盛、教経、知盛あたりでしょうか。この中で能になっているのは、実は義経だけ。その他で能になってる武将としては、源氏方だと頼政、朝長、巴御前、今井兼平、梶原景季、平家方だと忠度、清経、敦盛、経政あたり。この中で有名なのは頼政、巴、敦盛くらいで、後は知らない方も多いのではないでしょうか。
 世阿弥は『風姿花伝』の中で、「源平などの名のある人の事を、花鳥風月に作り寄せて、能よければ、何よりもまた面白し」と言っています。つまり、能にするには、戦に強いだけではなく、雅なエピソードが必要なわけです。先ほど挙げた中で、世阿弥の曲と考えられるのは義経を描いた「八島」、「頼政」と、平家方の武将を扱った演目全て。頼政と忠度は和歌に秀で、清経と敦盛は笛を好み、経政は琵琶を得意としました。いずれも人気の演目ですが、中でも「経政」は短いながら気品高い名作。
 仁和寺の守覚法親王に寵愛(ちょうあい)されていた経政は、青山(せいざん)という琵琶の名器を預けられ、愛用していましたが、都落ちの際に返します。経政はそのまま一ノ谷で討ち死にしてしまったので、青山を手向けて供養をしていると、経政の亡霊が現れるというお話。
 経政は、十六歳で熊谷直実に討たれた敦盛の兄で、同じく若く討ち死にしたので、能「敦盛」のために作られた「十六」という面を用います。清盛の甥(おい)にあたります。
 「経政」は、わりと若いうちに役がつくことの多い演目で、私も高校三年生のときに祖父の追善の会で、初めてシテをさせていただいた曲です。その曲を、今度は父が舞います。能は、同じ演目でも、演じる役者が変わると全く違って見えるのが面白いところです。父も若い頃何度も「経政」を舞っていると思いますが、年齢を重ねて演じる「経政」はまた違ったものになることでしょう。観阿弥が、年をとってから「自然居士」という能を演じたとき十六、七歳に見えたとも言います。今回は能楽美術館とのコラボ企画で、展示中の山口能装束の装束を使用しての演能となります。どんな経政になるのか私も楽しみです。(さの・げんき)
◇金沢能楽会11月定例能(11月5日午後1時から、石川県立能楽堂)
 ▽能「経政」(シテ佐野由於)▽狂言「入間川」(能村晶人)▽能「土蜘」(シテ松田若子)
 ▽入場料=前売り一般2750円(当日3300円)、若者割(30歳未満、当日のみ)1100円、中学生以下無料(問)金沢能楽会=電076(255)0075
※タイトルは、世阿弥の話を聞き書きした「申楽(さるがく)談儀」になぞらえて。毎月第3土曜日に掲載。

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