乱闘でも実は冷静だった策士『星野仙一』 「秀吉も家康も、あの時代でよかったな…星野がおったら、天下をとっとる」
2023年1月4日 11時45分
◇増田護コラム
前編では、ある組織の事務所に単身乗り込んだ星野仙一の話を書いた。まだ監督になるはるか前、投手として現役ばりばりだったころである。
重なるのは中国・戦国時代のエピソード。呉に呉起という将軍がおり、兵の中に膿(うみ)で苦しむ者がいると、自ら吸い出してやった。それを伝え聞いた兵の母は泣きだしたという。感動したのではない。「これで息子は命を惜しまずに戦い、戦死するでしょう」と覚悟したからだった。戦死した夫もやはり膿を吸い出してもらっていたからである。
おそらく呉起はそこまで計算して行動したわけではないだろう。密室で命のやりとりさえ覚悟した星野もしかり。見え透いた行動は、逆効果なのだから。
もっとも、現代の平和なスポーツにおいてパフォーマンスは重要な要素。虚実が入り乱れてイメージは作り上げられた。
例えば乱闘。熱くはなっても、実はいつも冷静だった。中日の監督時代、巨人の王監督の目の前にこぶしを突きだし、非難されたことがある。死球をぶつけた宮下がクロマティに殴られ、両軍入り乱れた中での行動だった。真実はこうだ。
「これ(こぶし)で殴ってはいかんでしょう、と言ってこぶしを見せただけなんだよ。それが王さんに殴りかかろうとしたと言われてな。そんなことをするはずがないだろ」
その流れで話は脱線した。先輩記者から、筆者が会社の上司とやりあうことがあると聞いていたようで、「ええか、目上の人とけんかしてもいいんだ。どんどんやれ。声を荒げたっていい。でも絶対に敬語を使えよ。そうせんといくら正しくても、ただの無礼者で終わるからな」と言われた。学ぶことは多かった。
現役時代、星野が降板後にナゴヤ球場のベンチで湯飲みをよく割った話は有名である。おそらくあれも計算ずく。監督だった近藤貞雄さんにこう聞いたことがある。
「セン(星野)には参ったよ。もう代えてくれ、という合図がくるんだ。それでマウンドに行くだろう、そうすると、なんで代えるんだという態度で悔しそうにベンチに下がるんだからな」
それくらい演出があっていいと思う。その方がチームに刺激を与えるし、強気な姿を見せることで次の対戦にもいい影響を与えるだろう。ファンだって喜ぶ。
最後は忘れられない言葉でしめくくりたい。確か監督就任2年目、デーゲームが終わった東京のホテルだった。巨人に勝って機嫌がよかったのだろう。突然筆者にこう言った。
「秀吉も家康も、あの時代でよかったな」
なんですか、それ? そう聞くと星野は笑って言った。
「星野がおったら、天下をとっとる」
熱くて、クールで、そして何より言葉の天才だった星野仙一。1月4日は彼の命日である。(敬称略)
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