本文へ移動

【目で見る方言】「大判焼き」名称問題を深掘り レアな呼び名や派生品も

2022年8月14日 05時05分 (2月25日 18時59分更新)
 「大判焼き」、「回転焼き」、「今川焼き」−。
 前に朝ドラで話題になったあんこが入ったあの「お菓子」は、さまざまに呼ばれています。その地域で有名な店の商品名で呼ばれることもしばしば。今回はそのお菓子を主にどう呼ぶか、インターネットの読者アンケート「中日ボイス」で聞きました。
 「大判焼き」と回答した人が、愛知県を中心に77%と圧倒的な結果に。「今川焼き」は12%、「回転焼き」は3%でした。特徴的なのは、「回転焼き」を上回る8%の人が「その他」を選んでいたことです。「御座候(ござそうろう)」、「天輪焼き」のほか、「太鼓焼き」や「文ちゃん焼き」、「満月焼」など、地域でなじみがあったり、思い出深かったりする名前がありました。
 そもそも最初はどう呼ばれていたのでしょうか? その答えは「今川焼き」。江戸時代にあたる1777年の「富貴地座位(ふきじざい)」という資料からは、東京で「那須屋彌平」という店が「今川やき」を売っていたことが分かります。ちなみに「今川」は橋の名前に由来。現在の東京都千代田区にあった、「今川橋」という橋の近くで売り出されたことから名づけられたそうです。
 地域ごとに名前があるあのお菓子。物は同じでも、その中にはそれぞれの地域の文化や歴史が、あんこと一緒につまっています。地域で長く愛されている様子が、そのたくさんの名前に表れていました。 (松浦花佳)
   ◇

あんこの入ったあの「お菓子」、なんて呼ぶ?


 アンケートは7月19~22日に行い、1万68人にご回答いただきました。
・「中日プラス」会員の方の回答が中心で、年齢層や居住地などを考慮した通常の世論調査とは異なります。
・集計エリアは中日新聞・北陸中日新聞発行エリアの中部9県(愛知、岐阜、三重、静岡、長野、福井、滋賀、石川、富山)が中心です。
・言葉や言い方は変わることもあり、正解はありません。こんなふうに使われているんだと私たちと一緒に楽しんでくれたらうれしいです。

主な呼び名は?


 主によく呼ばれる名前は「大判焼き」という結果でした。

物心ついたときから、家族が「大判焼き」とも「今川焼き」とも呼んでいたので、二つ名前があるんだなと認識していました。私自身、気分やお店の表示に合わせてどちらも使います。社会に出ても大体この二つの名前で通じたので、ずっと二つ名前があるという認識でした。どちらかを選ぶのは難しい質問でした。(愛知県・35歳女性)

神奈川県で育った時は「今川焼き」。名古屋市に転勤して来て「大判焼き」。結婚してから現在までは、夫が言うので「御座候」。大阪府に出張して差し入れする時は「『回転焼き』いかがですか!」と使い分けています。(愛知県・57歳女性)

 このように、そのときどきで使い分けているという方も多かったのではないでしょうか?今回の結果としては「大判焼き」が多数でしたが、選ぶのが難しかった、という方も多くいたと思います。

「大判焼き」は中部で大多数



※県・地域内での回答の割合です
 県別にみると、「大判焼き」と答えた割合が一番大きかったのは愛知県。総回答数6741人のうち5579人で、約82.8%を占めています。他の県でも大勢を占め、岐阜県では総回答数1329人中992人、三重県で1026人中651人、静岡県で436人中284人などそれぞれ、74.6%、63.5%、65.1%でした。

子どもの頃からずっと「大判焼き」と言っていました。「今川焼き」を初めて出された時、「これ大判焼きやん」と言ったら、相手に「なにそれ」と返され、食べながら語り合ったのを思い出しました。(岐阜県・50歳男性)

「大判焼き」と呼ぶものだと思っており、他の地域で「今川焼き」や「回転焼き」という名前を見かけたときは、まさか同じものを指しているとは知らず、似たようなものがあるのだなぁと思っていました。福井県へ遊びに行ったときに、「今川焼き」をご当地のものだと思ってわくわくして買って食べてみて、「大判焼き」と一緒だと気づきました。(愛知県・30歳女性)

 ちなみに愛知県出身の筆者の呼び方も「大判焼き」。そのためこの記事中では「大判焼き」と書いています。
 そんな「大判焼き」の発祥は松山市。1950年代後半にヒットした、松山市が舞台の獅子文六が書いた小説「大番」に由来しています。松山市の「松山丸三」という食品製造機器や食品の材料を売る会社が、「回転焼き」より少し大きめのサイズのものを小説にちなんで「大判焼き」と名づけ、これを焼く機械を売り出したとのことです。その後独自に開発した材料も合わせたセットが、「素人でもすぐに店が開ける」と全国で買われたことから「大判焼き」の名も広まりました。
 漢字が違うのはあえてだそうで、「小説と同じ名前は使わない方がよいだろう」との考えから「大番」ではなく「大判」と名づけられました。

関東でメジャーな「今川焼き」



※県・地域内での回答の割合です
 一番初めに呼ばれていた「今川焼き」。県別にみると、「今川焼き」と答えた人の割合が最大だったのは56.9%で長野県。総回答数72人のうち、41人が答えていました。総回答数436人の静岡県では、29.6%にあたる129人が答えており、611人が答えた愛知県(9.1%)や148人が答えた岐阜県(11.1%)よりも割合的には大きい結果になりました。
 総回答数が比較的少ないことを考慮しなければいけませんが、何か傾向はありそうです。

関東育ちで、関東では「今川焼き」です。現在津市に住んでいますが、スーパーでも「今川焼き」と書いて売られているのに、関西育ちの夫に「何それ、回転焼きでしょ」と言われ、悔しかったです。(三重県・47歳女性)

 ちなみに長年の読者からはこんなお話が。

昔、中日新聞のサンデー版に連載されていた「焼けあとの元気くん」では今川焼きと言われてましたね。(岐阜県・46歳女性)

 調べてみると、実際に1984年5月6日付のサンデー版に掲載されていました。単行本では3巻にあたります。同じような出版物では、他にもまんが「天才バカボン」で「今川焼き」という名前を知ったという方もみられました。
 大判焼きの写真を撮ってくれた千葉県出身のカメラマンは「今川焼きと言います」とのこと。発祥の関東では「今川焼き」が中心のようです。
 由来は先述の通りですが、実はその時代にも今のような円形だったのかは分かりません。1777年の資料、「富貴地座位」には挿絵や形に関する言及がないからです。形が分かるのは江戸末期―明治初期の行商人を描いた「晴風翁物賣物貰盡せいふうおうものうりものもらいずくし 江戸へん」という資料。玩具研究家の清水晴風(1851~1913年)が描いたとされ、この中の「今川焼売」の絵の中では円形のものを焼いている様子が見られます。また由来の一つかは定かではありませんが、江戸時代当時は、今川義元が織田信長と戦った桶狭間の合戦にちなんで「たちまち焼ける今川焼き」という宣伝文句で売り出されていたそうです。
 ちなみに同じように、生地にあんこを入れて焼き上げた「たい焼き」は、明治時代ごろに「今川焼き」の形を変えて売り始めたものとのこと。市民の間で流行したそうです。

朝ドラで話題の「回転焼き」



※県・地域内での回答の割合です
 2021年11月~22年4月の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で話題になった「回転焼き」。関西や九州では「回転まんじゅう」とともにメジャーな名前で、縁日の屋台でも「回転焼き」と書いたのれんがかかっていたそうです。しかし今回質問した中部9県では、主な呼び名としてはあまりメジャーではないようで、ほとんどの県で10%以下という結果に。

京都府出身で、このお菓子は「回転焼き」と呼びます。滋賀県出身の夫は商品名で「しばらく」と呼びます。(滋賀県・53歳女性)

大分県生まれの父に、最期に「回転焼きが食べたい!」と言われましたが分からず、「回転焼きって何?」と母に電話で聞いて「大判焼き」だと判明しました。この時初めて別名があると知りました。(愛知県・56歳女性)

 「回転焼き」の由来はやはりその焼き方から。回転させて焼くという様子がそのまま名前として定着したようです。
 また「大判焼き」、「今川焼き」と違い、「回転焼き」だけでなく「回転まんじゅう」と答えていた方がかなりいたことが特徴的でした。由来を調べきれませんでしたが、あんこが詰まっているお菓子、という点から「焼き」でなく「まんじゅう」と呼ばれ始めたのかもしれません。

「御座候」に「天輪焼き」、地域でいろいろ


 「主な呼び名は?」で「その他」を選んだ方は789人。回答人数としては「回転焼き」の317人よりも多くなっています。そして「その他」を選んだ方にも、どう呼んでいるか選んでもらいました。

友達に御座候の作り方の動画をよく見ると話したら「御座候って何?」と尋ねられました。YouTubeで動画を見せたところ「ああ今川焼きのことね」とのこと。友達は宮崎県出身で私は愛知県出身なので、地域によって呼び名が違うんだと驚きました。(愛知県・18歳女性)

子供の頃は「東海道」と呼んでいましたが、大学生の時に旧街道の東海道と勘違いされてから「大判焼き」と呼ぶようになりました。実家では「東海道」が商品名という認識はなく、今でも「御座候というお店の大判焼きがあるよ」という意味で「御座候の東海道あるよ」みたいに言ったりします。(愛知県・49歳女性)

高校まで三重県松阪市で、「天輪焼き」だと思っていました。大学で滋賀県彦根市に行って、知り合った女の子に「暫まんじゅう食べに行こ」と言われ、頭の中が「?」に。店で実物を見て、「なんだ、天輪焼きか」と言ったら、「なんだそりゃ?」と返されました。(三重県・63歳男性)

 選択肢は、地域に根付いたお店の商品名です。「御座候」は兵庫県、「東海道」は愛知県、「天輪焼き」は三重県松阪市、「あづま焼き」は浜松市、「暫」は滋賀県長浜市、「じまん焼き」は長野県や山梨県を中心にそれぞれよく知られています。

結婚して静岡県磐田市に来ました。「おいしい『あづま焼き屋』があるが何味がいい?」と問われましたが、最初はなんのことか分かりませんでした。こちらでは「あづま焼き」が主流で「大判焼き」とはいわないようです。(静岡県・48歳女性)

滋賀県の出身です。子どものころ、親が「暫買ってきたで」とよくこのお菓子を食べさせてくれました。売っていたお店の看板やメニュー表にも、当たり前のように「暫」と書いてありました。子どものころの絶対的な呼び名が、ローカルな呼び名とは。大人になって世界が広がるというのは、きっとこういうことなんですね。(愛知県・46歳男性)

SNS(交流サイト)でこれの呼び方について定期的に話題になっていますが、「じまん焼き」と呼んでいる人を見たことがないので、この辺りだけなのだと驚きました。(岐阜県・14歳女性)

 さらにこんな思い出がある方も。

結婚したばかりのドライブデート中「回転焼き」の看板を見つけ、回転焼きを知らなかった私が夫に聞くと「『御座候』みたいなもの」とさらに知らない名前が!
そこで「御座候」を買ってもらったら「今川焼き」でした。「今川焼きなら知ってるよ」と言うと、夫は「あんが違う」とのこと。
不穏な空気になってきたので帰り、調べてみると何と同じもの!!夫に話すとえぇー!!と驚いていました。夫の餡が違うという発言も、「今川焼き」を初めて食べた時に抹茶やクルミなどの特殊な餡を食べたそうで、中身が違う物だと思っていたそうです。
結局笑い話で終わり、それからわが家では「御座候」と呼ぶことになりました。今でも御座候を食べると思い出します。(三重県・36歳女性)

「その他」ではくくりきれない!


 今回「その他」の自由記述欄で最も多く見られた回答は「太鼓焼き・太鼓まんじゅう」。約40%の方が答えていました。

※それぞれの名称は表記ゆれを考慮して集計。例えば太鼓焼きは「太鼓焼」「たいこ焼き」「太鼓まんじゅう」などを含む。

子どもの頃、家の近所にあった甘味屋さんで、母親からよく「太鼓焼き買ってきて!」とおつかいを頼まれました。成長するにつれて「太鼓焼き」という名前では聞かなくなり、「今川焼き」や「大判焼き」として売られているそれらが同じ物であると知ったのは、だいぶ大人になってからでした。自分としては、その形からしても「太鼓焼き」が一番しっくりくるのではないか?と思います。(愛知県・57歳男性)

ある日妻と買い物中、孫のおやつに「太鼓まんじゅう買って行ったら?」と妻に話すと「ええっ?太鼓まんじゅう?」と分かってもらえませんでした。ちなみに妻は名古屋市出身。私は岐阜県中津川市出身です。(愛知県・75歳男性)

 他に多く見られたのは「文ちゃん焼き」、「満月焼」など。これらはそれぞれ愛知県豊田市、岐阜県関市のお店の商品名です。

豊田市では、名鉄豊田市駅前のあづまやで昔から「文ちゃん焼き」として販売していたため、「文ちゃん焼き」と呼ばれています。ちなみに「文ちゃん」は創業者の名前からとっています。(愛知県・66歳男性)

関市出身です。関市本町の満月堂さんが、「満月焼」として出していました。祖父が大好きでずーっと買っていたため、「満月焼」の認識しかなかったです。廃業されて「満月焼」は二度と食べられませんが、いまだに「今川焼き」などの名前の方が違和感があります。(岐阜県・43歳男性)

 自由記述欄の回答では、「あけぼの」や「ふうまん」、「小判焼き」など本当にたくさんの、多岐にわたる名前が挙がっています。集計エリア外の名前も多く、山形県の「あじまん」や愛媛県の「日切焼き」、北海道の「おやき」などがありました。
 よく呼ぶ理由としては「お店の商品名だった」というものが多く、慣れ親しんだお店の味がそれぞれにあることがよく伝わる結果でした。

次によく呼ぶ名前は?


 さらに気になったので、「主な呼び名は?」で「大判焼き」、「今川焼き」、「回転焼き」を選んだ方に聞いてみました。それは「2番目によく呼ぶ名前はどれか」ということ。上のグラフの通り、「大判焼き」と「今川焼き」を併用している方が多いという結果になりました。場面や相手に合わせて使い分けているようです。また「大判焼き」と主に呼ぶという方で、次によく呼ぶ名前に関しては「特になし」を選んでいるという方も多く、今回の集計エリアでは言い換えの必要がそれほどあるというわけではないのかもしれません。

名前も思い出も人それぞれ


 今回取り上げた呼び方以外にも、「大判焼き」の呼び方は地域ごとに実にさまざまです。富山県の「七越ななこし」や静岡県藤枝市の「黄金まんじゅう」、奈良県の「夫婦めおとまんじゅう」、広島県では「二重焼き」など、数え始めればきりがありません。それこそが先述の通り、地域で愛されてきた証しといえます。また今回、思い出深いエピソードを非常にたくさんお寄せいただいており、どの年代の方にとってもなじみのある、身近なお菓子であるということを再確認しました。
 さかのぼれば江戸時代からあるものですが、最近でも大判焼きの人気は衰えることなく続いています。今年4月にはコメダ珈琲店を展開するコメダが「大餡吉日」という大判焼き専門店をオープン。現在は名古屋市内の1店舗のみですが、将来的には多店舗展開も視野に入れているそうです。
 普通のあんこに白あん、クリームのほかカレー味もあるというあの「お菓子」。形や味が変わっても、身近なお菓子であることは昔から変わりません。方言がなかなか使われなくなってきている現代でも、そのたくさんの名前がなくなることはなさそうです。(松浦花佳)
おすすめ情報

中日ボイスの新着

記事一覧