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県知事選 リーダー像を訊く 落語家 春風亭一之輔さん

2021年5月24日 05時00分 (5月24日 05時01分更新)
選挙のたび、弟子に必ず「投票に行きなさい」と厳命するという春風亭一之輔さん=東京都千代田区で

選挙のたび、弟子に必ず「投票に行きなさい」と厳命するという春風亭一之輔さん=東京都千代田区で

 落語の中じゃ、いわゆる「リーダー」があまり出てこないかと思いきや、結構出てくるんですね。職人の世界かな。演目で言うと、「大工調べ」とか。面倒見が良くて、下が困ったことがあれば身銭を切って助けたり、もめごとを仲裁したり。まず自分が動く。当人の腕がよくて、貫禄もある。この人ならついていってもいいな、と思える。
 意見の違う人たちにも気を配れるのが、本当のリーダー。まあ、理想論なんですがね。現実は、そういう人はなかなかいない。今はむしろ、味方にだけいい顔をする。それで別の意見の人をちょこちょこ反撃したりね。なんか、みっともない。トップはね、何も言わないぐらいの方がいいんですよ。どんと構えて。
 でも、言葉を尽くした方がいいときもある。
 緊急事態宣言でね、しっちゃかめっちゃかですよ。僕らが出る寄席にも「無観客開催」の要請があって。無観客じゃできないですからね、寄席。無理だから。現実を見てくれてるのかな、と思っちゃいますよ。すべてを説明するというのは大変でしょうけど、なんか血が通ってない。上っ滑りしてる。

◆血が通った言葉こそ

 言葉に熱がある、ハートがある。それはリーダーに問われる資質だと思いますよ。うそでもいいから、そう聞こえるようにしてもらいたい。いや、もちろん気持ちが乗ってなきゃだめなんだけど。落語家と政治家で、近いところもあります。大勢の前で、たった一人でしゃべる。それでどれだけ引き付けられるか。
 高座では自分の間(ま)、自分の言葉がすごく大事です。大事なお金を人にあげちゃう人情噺(ばなし)の「文七元結(ぶんしちもっとい)」。なんでそんなことするかな、と疑問を感じながらやっているとだめ。でもその感覚が分かると、すっとできるようになる。自分の腹に入る。覚えてるだけじゃなくて、登場人物の気持ちが分かるという。それが聞き手にもすっと伝わる。
 同じ文面でも、自分の中を通過させて、しゃべる。そこに体温が乗る。制度とか法律とか、理詰めで考える中にも、人の気持ちがその後ろにあるっていうのを考えてもらいたいものです。今はどこを見て政治をしているかが伝わってこない。僕らの方をちゃんと向いて、一人一人の思いをもっと想像して話してもらいたいし、行動してもらいたい。まあこれ、政治の基本なんですけどね。
 弟子には選挙のたびに必ず「投票に行きなさい」と言います。僕ら上に文句言うような商売ですから。投票もしてないのに文句は言えない。翌日に確認しますよ。「行ったか」「はい」「いつ行った、ほんとか」「ほんとです、ほんとに行きました」「証明書持ってこい」って、そこまでは言いませんけどね。
 投票率が上がんないと、どうにもなんないですよね。なめるからね、上の人は。クーデター起こせば捕まります。意思表示ができるのは投票ですよ。静岡県の皆さんもね、行ってください。私が政治家になる予定ですか? それはないです。ないですよ。もしなる、って言い出したら、皆さん止めてください。必ず。

 <しゅんぷうてい・いちのすけ> 1978年、千葉県生まれ。日本大芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きで真打ちに昇進。NHK新人演芸大賞など受賞歴多数。著作に「まくらが来りて笛を吹く」など。43歳。


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