本文へ移動

<増える非正規雇用>前編 格差を解消するには?

2020年12月6日 05時00分 (12月7日 10時58分更新)
 非正規労働者が増え続けています。正規労働者と異なり、短い契約期間が定められ、昇給が原則ありません。今年十月には、企業で働く正規労働者との格差を巡る最高裁の判決に注目が集まりました。正規労働者と、パートやアルバイトなどの非正規労働者という線引きによって、何が起きているのでしょうか。海外に比べ、大きいといわれる賃金格差の解消に必要な視点についても考えてみましょう。 (福沢英里)

「同一賃金」遠く

 不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」が今年四月に始まって以降、初の最高裁判決。扶養手当などを認めた一方、賃金の根幹である退職金や賞与は認めず、非正規労働者の主張を退けた。
 判決をやるせない思いで受け止めたのは、岐阜大など計三校で非常勤講師として働く岐阜県大垣市の天池洋介さん(40)。年収は二百万円を下回る。授業に必要な文具や書籍代、学会の出張代は自腹を切る必要があり、食事の回数を減らす。「そもそも非正規の平均給与百七十五万円で、健康で文化的な生活が送れるのかをまず検討すべきだ」。二〇〇二年に大学を卒業。一度は企業に就職したが、激務で体調を崩し、続かなかった。「差別的な待遇の押し付けは日本経済を停滞させる。誰にもメリットがない」と憤る。
 非正規労働者はバブル崩壊後の一九九〇年代以降、企業の人件費抑制などで増えている。総務省の労働力調査(二〇一九年)によると、全雇用労働者の四割弱。今年はコロナ禍による経済の悪化で、解雇や、契約を更新しない「雇い止め」が見込みを含め約七万四千人に(十一月二十七日時点)。非正規労働者は五月末以降の数字だが、約三万五千人と半数近くを占める。

「日本型」見直し

 非正規労働者が安定雇用や昇給の恩恵を受けられない背景にあるのが、正規労働者の待遇を優先してきた「日本型雇用」とされる。大学を卒業したての若者を一括採用。多様な仕事を経験させて育て、年齢や働いた年数に応じて給料が上がる雇い方だ。正規労働者が解雇されにくい分、一括採用から漏れた人が後で正規労働者になるのは難しい。
 一方、経団連は今年、人件費の抑制を視野に日本型雇用の見直しを掲げた。仕事の内容や職種を限定した「ジョブ(専門業務)型雇用」などを提案し、一部の大企業で導入が始まっている。ジョブ型は正規雇用でも、解雇リスクや給与固定など非正規雇用のような課題をはらむ。
 若者の労働相談を行うNPO法人「POSSE(ポッセ)」(東京)の今野晴貴代表(37)は「ジョブ型の発想は男女間の不均衡をなくすなど格差の解消につながる側面はある。ただ、長時間労働や解雇など、労使間で話し合って規制を設けることが不可欠」と指摘する。

 同一労働同一賃金 パートタイム、有期雇用、派遣といった非正規労働者と正規労働者の間の、不合理な待遇差を禁止する概念。「同じ仕事をする人には同じ賃金を支払うべきだ」という考え方に基づく。パートタイム・有期雇用労働法や改正労働者派遣法は、仕事の内容、責任の重さ、転勤の有無などが正規労働者と同じなら、基本給や手当、休暇などを同等に扱うよう義務付けている。大企業は今年4月に適用され、中小企業は来年4月から。

 ここから、考えを深めるのに役立つ関連記事や「思考プロセスシート」をダウンロードできます。

関連キーワード

おすすめ情報

教育・NIEの新着

記事一覧