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星野仙一さんも見惚れた”ブチ2世”楽天・下妻 8年目のプロ初本塁打

2020年9月25日 06時00分

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楽天の監督時代の星野さん

楽天の監督時代の星野さん

◇24日 楽天3―0ロッテ(楽天生命パーク)
 プロ8年目の苦労人の打球が描く放物線は、願いが通じて左翼席に到達した。楽天の下妻貴寛捕手(26)が2回に放った待望のプロ初本塁打。悠然とダイヤモンドを1周する姿をテレビ画面で見ながら、6年前を思い出した。
 目の前をノソッと動く「39」の背中を見送った後、その表情がフッと緩んだ。「アイツは若い頃のブチを“ほうふつ”とさせるなあ」。2014年、楽天を率いていた星野仙一さんが細めた目の先にいたのが、山形・酒田南高から入団して2年目の下妻だった。
 186センチ、85キロ。少し猫背の巨体にイメージを重ねた「ブチ」とはもちろん、田淵幸一さん。星野さんは「まだまだ時間はかかるけどな」と取材陣にクギを刺しながらも、成長を心待ちにしていた。
 この前年、楽天は球団創設初のリーグ優勝と日本一を成し遂げていた。嶋基宏が不動の正捕手として君臨し、指揮官も日本シリーズ制覇の立役者と称賛した絶対的な存在だった。その一方、すでに“後継者”の育成にも目を向けていた星野さんが、「候補の1人」と見込んでいたのが「39」だった。
 嶋は昨年オフに楽天を去った。近年、故障がちでもあった嶋に代わり、多くの捕手がマスクを被ってきた。今季は大卒2年目の太田の起用が増えているとはいえ、誰もが認める正捕手という段階には至っていない。
 もう、6年が過ぎた。田淵さんの若き日を“ほうふつ”させていた下妻は2018年オフに戦力外通告を受けて育成選手となり、背中の数字は「39」から「139」とケタが増えた。昨年はBCリーグ・武蔵(現埼玉)に派遣される辛苦も味わい、「今までとは野球に対する打ち込み方が変わりました」という。
 失って初めて気づくことがある。ほとんどの選手は“手遅れ”になってから後悔する。下妻にとって幸運だったのは、たとえ奈落の底に突き落とされても、現役の道を完全には断たれなかったことだろう。その一筋の糸をたぐり寄せたのは、もちろん本人の努力にほかならない。
 かつての“ブチ2世”は今春に支配下選手に返り咲き、1軍で3年ぶりの安打をマーク。この日はプロ1号に加え、スタメンマスクで5投手による完封リレーをリードした。
 自らの力で「候補の1人」としての資格を取り戻した下妻はお立ち台で胸を張り、背中の「67」をピンと伸ばしていた。天国の星野さんは、今も目を細めているだろうか。(井上学)

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