南棟内部。1階から4階まで広い吹き抜けとなっており、普通教室は全て4階のフロアに集められている。上り専用のエスカレーターがある
フジテレビの顔 三宅正治
岩田英憲
岡崎耕治
栗栖健一
基町高校校章
(写真 全6枚)

入社面接でカープ初優勝の実況再現

 午前5時27分。テレビ画面に時計のキャラクターが現れて、番組の開始を告げる。「めざましテレビ、始まるよ」。フジテレビ系列の生放送の情報番組「めざましテレビ」。メインキャスターを務めるのが三宅正治(56)だ。スポーツ中継で鳴らし、「プロ野球ニュース」のキャスターを経て7年前から担当している。

 中学1年からアナウンサーに憧れた。きっかけは広島東洋カープの初優勝を伝えた中国放送、上野隆紘アナのラジオ実況中継。その瞬間をテープに取って繰り返し聞き、ついに暗記した。基町高では「夢を実現する方法を自分で調べ」それに向かってまい進した。マスコミへの近道と考えた早稲田大への進学を目指し国語、英語、日本史に絞って猛勉強。現役で合格した。

 フジテレビの面接試験では、求められもしなかったのにカープ初優勝の実況をしてみせた。“フジテレビの顔”として、母校の後輩には「かなえたい夢を見つけ、一歩踏み出す3年間にしてほしい」と語る。

 マスコミにはほかにNHKエンタープライズの丸田智子(54)や、元中国放送アナで現在フリーの桑原しおり(47)がいる。丸田は映像バイヤーとして韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」を買い付け、韓流ブームの仕掛け人と呼ばれた。

 広島市の中心部、広島城の北に位置する基町高。1998(平成10)年、総合選抜制から単独選抜制入試に移行。進学校として、また美術専門の創造表現コースがある学校として、評価を高めている。南棟と西棟は京都駅などを手掛けた原広司の設計。1階から4階まで明るい吹き抜けの南棟は映画「君の名は。」で作画の参考となった。卒業生は2万7千人を超える。

 音楽ではパンの笛の第一人者、岩田英憲(78)が演奏歴40年を越えた。出発点は高校2年の2月。受験科目に苦手の数学がない大学を―と考えて音楽大進学を思い立ち、フルートを習い始めた。練習の場は所属していた水泳部部室。当時の水着だったふんどしがずらり干してあったという。

 1浪して国立音楽大へ、さらにオーストリアの大学へ進み、パンの笛と出合った。「探し求めていたのはこの音だと思った」。以後広島文化学園大などで教えながら各地で公演。NHK「新日本探訪」などの番組でテーマ曲を演奏した。

N響ファゴット奏者。「継続は力なり」

 岡崎耕治(70)は高校1年の時、テレビでNHK交響楽団の演奏を聞き、それまでのサクソフォンからファゴットに転向。父親と同楽団を訪ねて大阪在住の奏者を紹介してもらい、毎月レッスンに通った。2年生の時からはNHK広島放送管弦楽団の演奏会などに学生服姿で客演した。

 卒業後は武蔵野音楽大を経てN響の首席ファゴット奏者に。今も同大教授やエリザベト音楽大講師を務める。「基町高のサブモットー『継続は力なり』の通り目標に向け、一つ一つ努力を積み重ねるのが良い結果を生み出すことを身をもって経験した」と言い、「世界のトップクラスの音楽家とご一緒していますが、彼らは人間性も人生観も素晴らしいですね」と話す。

 栗栖健一(46)は航空自衛隊航空中央音楽隊のトランペット奏者で空曹長。初の作曲作品が全日本吹奏楽コンクールの課題曲に採用され作曲活動も。母校の器楽部創部50周年には記念作品を委嘱されマーチ「蒼桐(あおぎり)」を書いた。「本当にうれしく名誉なことだと思った」

 吹奏楽の全国大会へ出場したくて基町高へ進んだトロンボーン奏者でエリザベト音楽大教授の若狭和良(51)をはじめ、音楽界で活動する卒業生は多い。

 神園さやか(33)は基町高へ入学したばかりの2002(同14)年4月、日本クラウン創立40周年記念新人オーディションでグランプリを獲得、その年の8月に上京して転校した。「その後は学業と仕事の両立でしたので基町高に通った3カ月間はかけがえのない思い出。校則がなく自分の行動に責任を持つ基町で学んだ精神から、夢を追いかけて転校したことや自分の信じた道を突き進めている今を誇りに思っています」。演歌からポップスまでこなす実力派歌手だ。=敬称略(客員編集委員・冨沢佐一)

メモ

<校名>広島市立基町高等学校

<所在地>広島市中区西白島町25の1

<校長>板倉宏治(18代目)

<クラス数>1年は9クラス、2、3年は10クラス

<生徒数>1089人

<校名の変遷>1942(昭和17)年、広島市立中学校として発足▽48(同23)年、広島市立城北高等学校▽49(同24)年、広島県広島基町高等学校▽80(同55)年、広島市立基町高等学校(基町の校名になって今年で70周年を迎えた)

<校章>校庭の梧桐(あおぎり)の実と葉を三つずつ組み合わせ「高」の字を配した。梧桐は伝説の鳥・鳳凰(ほうおう)がすむとされ、この鳥のように気高く心身の錬磨に励んでほしいとの願いを込めた。梧桐の実にうろこ状の模様が入ったパターンなどもある

 次回は15日に掲載します。