尾道市因島出身のロックバンド「ポルノグラフィティ」のファンの若い移住者たちが、因島土生町の商店街で相次いで開業している。沖縄料理店、そしてポルノグラフィティの曲をイメージした小物が並ぶ宿。好きなバンドの出身地という「聖地」に新たな風が吹いている。

沖縄から移住 沖縄料理の店をオープン

 沖縄から移住した籾山優子さん(32)は昨年秋、広島市であったポルノグラフィティのライブの後に初めて島を訪れた。楽曲に登場する「青影トンネル」や「折古ノ浜」などの「聖地」に足を運び、地元住民が気さくに声をかけてくれる飲食店や瀬戸内海を一望できる風景に感動した。観光地とは違う島の静かな雰囲気にも引かれた。

 帰りの飛行機では思わず涙が出た。「地元に戻ってからも因島のゆったりとした時間が忘れられなかった」。そんな時に聴いていたのはポルノグラフィティの「素敵すぎてしまった」。夢を見ていたような時間を振り返って涙する歌詞に自分を重ねた。

 30年ほど前までスナックだった38平方メートルで昨年12月、「沖縄料理ぐすく」をオープンした。飲食店で働いていた経験を生かし、沖縄そばやチャンプルーなどを提供している。店の前の階段には琉球石灰岩をはめ込み、店内には三線のBGMを流してシーサーを飾る。

 開店初日は地元客でにぎわい、準備していた3日分の食材が尽きた。その後もお客が絶えない。「商店街の人たちも応援してくれる。因島に来て本当によかった」。感謝を胸に、仕込みに奮闘している。

古里の島に戻り、宿泊施設を運営

 会社員などを経て島に戻った松本恭平さん(31)は、定員4人の宿泊施設「HUB INN(ハブイン)」を経営している。ポルノグラフィティが2018年に開いた地元凱旋ライブで、全国のファンに島を自慢する姿に心を打たれた。古里の島に帰ったのは、ライブのあった翌月のこと。独立を見据えながら、尾道市本土側の宿泊施設で働いて修業した。

 ハブインはファンが来てくれることを見込んでいたが、口コミなどで一般の観光客も増えて2店目「ハブイン離れ」を計画。宿のはす向かいで10年ほど空き家になっていた元美容院を借りた。13平方メートルの一人用の宿で洗濯機などを備え、長期利用も想定する。

 内装は意外にも、あまりポルノグラフィティを感じさせない。ファンにはわかる仕掛けがあるというが「誰にでも楽しんでほしいし、飾らない因島ありのままの魅力を感じてほしい」と落ち着いた室内を眺める。独自に島の観光スポットを紹介するマップも作り、チェックインの際にお客に薦めている。

行政も後押し 空き店舗を活用した再生策

 この2人が利用したのが、尾道市の補助事業だ。