「娘のため、懸命に生きる」 小倉美咲さんの母に聞く、誹謗中傷と戦い続ける理由 行方不明から4年 #ニュースその後

小倉美咲さんが行方不明になって以降、受けてきたネット上の誹謗中傷について説明する母のとも子さん=9月4日、成田市
小倉美咲さんが行方不明になって以降、受けてきたネット上の誹謗中傷について説明する母のとも子さん=9月4日、成田市

 2019年9月に山梨県道志村のキャンプ場で、当時小学1年生で7歳だった千葉県成田市の小倉美咲さんが行方不明となってから21日で4年。この間、母親のとも子さん(40)を苦しめてきたのは、愛するわが子の不在だけではない。「お前が犯人だろ」「募金詐欺」―。ネットを介して浴びせられた膨大な事実無根の誹謗(ひぼう)中傷の数々。しかし、とも子さんはそれらに屈することなく、裁判や情報発信を通じ、毅然とした態度で戦った。なぜ、過酷な状況下で、母は戦い続けることができたのか。昨年5月の美咲さんの死亡判明後、原則メディアの取材に応じてこなかったとも子さんが4年の節目に心境を吐露した。(成田支局 渡辺翔太)

 とも子さんが千葉日報社の取材に応じたのは9月4日。キャンプ場から約600メートル離れた山中やその付近で遺骨が相次いで見つかり、鑑定の結果、美咲さんが死亡したと山梨県警が発表してから約1年4カ月がたつ頃だった。

 美咲さんの発見につながる情報提供を呼びかけるため、かつては報道各社の取材を積極的に受けてきた。しかし、娘の悲報があってからは「心境を聞かれても『つらい』『悲しい』の言葉しか出ず、応じられなかった」と振り返る。

「天国にいるよ」

 美咲さんは5月13日生まれで、誕生日翌日に鑑定結果が出た。「今考えると、生まれたことに感謝し、天国にいることを教えてくれる美咲からのメッセージだったと思う」。とも子さんはそう信じている。

小倉美咲さん
2019年4月に撮影された小倉美咲さん(とも子さん提供)

 美咲さんが行方不明になってから教会に通うようになった。死亡判明後、「亡くなった子どもは天国に行き、苦しみや悲しみから解放される」との言葉に心が救われた。

考えた末、出した結論

 美咲さんの今年の誕生日を経て、中学2年の長女(14)と何ができるか考えた。「一生懸命に生きて、少しでも楽しく過ごす姿を天国にいる美咲に見せたい」。残された母娘で話し合って出した結論だ。

 「一生懸命に生きる」とは、具体的にどんな生き方か。考えた末、とも子さんは「自分の経験を世の中に伝えよう」という答えにたどり着いた。誹謗中傷に対し泣き寝入りする方が楽なのではと悩んだこともあったが、2人の娘に「正しいことを貫ける人になってほしい」と伝え続けてきたことを顧みた。「私の経験を伝えることによって同じように苦しむ人をなくしたい」と、問題の解決を強く願う。

 美咲さんが現場に向かった経緯や死因もいまだ不明。真相を知るためにまだまだ情報提供が必要で、その意味でも表に出た方が良いと考えた。

ママ友なりすまし

 とも子さんは取材を受けたり、交流サイト(SNS)で発信したりするたび、ネット上の誹謗中傷にさらされた。

誹謗中傷
SNSを介してとも子さんへ届いた誹謗中傷のメッセージ(原文ママ)

 「母親が犯人に決まっている」。美咲さんが行方不明になってから思い込みに基づく暴言を常に浴びせられた。「娘の死を利用してテレビに出ている」との理不尽な批判もあった。生中継の取材後に意識せず表情が緩んだ際には「テレビ出演して喜んでいる」と書き込まれた。

 「ママ友」へのなりすまし被害にも遭い、人間不信に陥った。行方不明の1週間後、「(美咲さんと)同じ保育園に子どもを通わせていた。(とも子さんは)いつも子どもを怒鳴っていた」とのうその書き込みがネット上で出回った。とも子さんは「友人が書いていないと分かっていても、知人に会うのすら怖くなった」。

理性働かず

 誹謗中傷をした人を相手に刑事・民事の両方で訴えを起こした。数百万円以上の訴訟経費もかかり、「裁判に勝っても利益が出るわけではない。ただ、言葉で傷つく人がいることを理解してほしいから戦っている」。刑事では「殺しに行く」との脅迫や「募金詐欺」との名誉毀損(きそん)をした2人の有罪が確定した。

 一方で民事では、ネット上で誹謗中傷した人を特定するため携帯会社などに100件近くの開示請求を行う。担当する小沢一仁弁護士は「請求したほとんどの事例で相手を特定できる」と説明する。

 開示請求された人は「傷つけるつもりはなかった」と示談を求めてくるケースが多かった。「つらいことがあり当たってしまった」との言い訳も目立った。とも子さんは「匿名のネット世界では理性が働かない人が多い」と指摘した。

最も傷つく言葉

 「親が見ていればこんなことにならなかった。美咲ちゃんがかわいそう」。とも子さんが最も傷つく言葉だ。小沢弁護士によると、行方不明という客観的事実に基づいた感想であるとして、違法性を問えない。しかし「私が誰よりもそう思っているからこそ傷つく」(とも子さん)のが現実だ。

 「現実では傷つけるつもりがなくても傷つければいじめになる。いくら傷ついた人がいてもネット上のいじめは問題になりにくい」と、とも子さんは語気を強める。

ビラ配り
小倉美咲さんの情報提供を呼び掛ける母のとも子さん=2020年10月、成田市の成田山参道

 一人で複数のSNSアカウントを持ち誹謗中傷を繰り返すケースもあり、ネット上の攻撃をなくしにくくする課題も見えた。

人に救われた

 「美咲ちゃんはとも子さんの子で幸せだったはず」「今いじめられているが勇気をもらった」―。ネットを介して届いた言葉に、とも子さんは報われる思いになることもあった。

 目の前の人から掛けられた言葉にも強く支えられた。経営するトリミングサロンの客や友人から「ご飯食べられている?」と聞かれるだけで心配してくれる人がいると実感でき、心がとても温かくなった。「人間に傷つけられたけれど、人間に救われた」。

 依然、ネット上の言葉によって自ら命を絶つ人もいる深刻な状況に変わりはない。SNSの暴言を苦に、自ら死を選ぶ著名人もいる。とも子さんは「相手がどう感じるか想像して言葉を発してほしい」と訴える。そして「ネットの言葉は確かに傷つく。ただ、それが全てではない。理解してくれる身近な人からの言葉を握りしめて生きてほしい」とも呼びかける。

 ※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です


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