年末、年始大量に発見された偽造一万円「VJ券」の鑑定
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 05年1月、初もうで客でにぎわう全国の神社などから見つかっている偽の旧1万円札は、その記番号について「VJ838046M、QY436254F、UW507740N」の3種が発見されている。1月4日現在、9都府県で計200枚以上に上っていることが朝日新聞のまとめでわかった。これらの偽造券は紙質、インク、製造方法などが異なっており、別の印刷装置あるいは別の場所(犯人?)で印刷されたものと推測される。これらの偽造券には一様にすかしがなく、印刷方法はカラープリンターによるものである。
 なかでも「VJ838046M」の出来映えは際だっており、本稿ではこの「VJ838046M」券(略してVJ券)を例にとり、その鑑定方法を考察する。

■偽の旧1万円札が発見された場所
都府県    場所 枚数 確認されている番号
岩手     中尊寺の札所や売店 11枚 QY436254F
宮城 竹駒神社、塩釜神社の露店など  100枚〜 QY436254F
埼玉    ゲームセンター 3枚 UW507740N 磁気偽造券?
東京    明治神宮、浅草寺 14枚 不明
神奈川   コンビニ、寺など 十数枚  〃
京都    伏見稲荷大社など 16枚  〃
兵庫    生田神社など 20枚  〃
鹿児島  照国神社など 十数枚 VJ838046M
(01/04現在)

偽造一万円の見つかった
30都道府県
北海道 83 山梨 1
青森 2 静岡 5
岩手 31 岐阜 5
宮城 143 愛知 46
山形 1 三重 10
福島 27 滋賀 2
茨城 116 京都 48
栃木 4 大阪 101
群馬 26 兵庫 31
埼玉 44 奈良 24
千葉 25 和歌山 3
東京 109 徳島 8
神奈川 172 香川 6
新潟 6 高知 2
富山 2 鹿児島 21
合計 1105
12/25〜1/11の読売新聞調べ

過去10年間に発見された偽造紙幣の枚数
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
10000円 171 120 150 752 2346 2394 3207 6815 6138 4222
 5000円 3 4 647 8 1051 1671 1274 754 1097 767
 2000円 - - - - - 2 4 5 99 9
 1000円 1158 28 51 47 25 190 3128 12637 9576 12481
合    計 1332 152 848 807 3422 4257 7613 20211 16941 17479
警察庁調べ(2004年は、10月までに警察が押収し、12/15までに警察庁に報告のあった枚数)


.全体写真
1)表面           
偽造券は真正券に比べ、全体にやや濃いめに印刷されている。紙質はコシが弱いものの厚みは真正券より0.01_厚い0.11_となっている。(真正券は0.1_)
 真正券では、すかしが紙の凹凸で造られているため、反射光でみた場合は画像がネガ状に白黒反転で視認される。一見、偽造券においても同様の現象が認められるのであるが、これは高解像度のスキャナを使用することで凹凸を明暗として検知し、プリントするため、外観上、微妙ではあるが真正券に似た現象、すなわち白黒反転が視認される。
 偽造券にはすかしや識別マークがないにもかかわらず、ぼんやり見えるという例はこのような錯覚が原因と言えよう。

真正券
偽造券
2)裏面

 破壊検査ができないが、偽造券に使われた用紙はほぼ純白に近い色合いである。真正券のように、生成りのきばんだ色合いにみえるのは印刷により再現しているにすぎない。
 (非印刷面の拡大写真参照)
 偽造券の印刷は表面と同様、真正券に比べ、全体にやや濃いめに印刷されている。

真正券
偽造券
3)非印刷面の拡大写真 真正券 偽造券
 当然ながら、真正券の非印刷面にインクは見られない。対して偽造券では赤、青、黄(印刷面には黒あり)の3色が、カラープリンターの出力と思われる微細な点状に印刷され、いわゆる生成りの色を再現している。
×40倍
.微細印刷(拡大写真)
真正券 偽造券
1)マイクロ文字(表面)
 真正券ではマイクロ文字「NIPPONN GINKO」が連続印刷されている。偽造券においては何やらとぎれがちな点線状の印刷が見られるが、文字と視認できない。「原版」をもたないカラープリンターなどの簡便な印刷では、マイクロ文字の再現は不可能である。
さらに拡大↓
真正券 偽造券
2)微細集合線の印刷
 真正券は画線彫刻凹版印刷という紙幣にしか用いられない版式で印刷されており、画像は微細かつ立体的な線の集合で印刷されている。
 対して、偽造券ではカラープリンターならではの微細な点の集合で印刷されている。

 ただし、当該偽造券はカラープリンターによる出力であるが、極めて精緻な出来映えと言える。
さらに拡大↓
さらに拡大↓

×120倍
3)マイクロ文字(裏面)
真正券 偽造券
 裏面に印刷されているマイクロ文字は表面のそれと同様「NIPPONN GINKO」が連続印刷されている。しかしながら波状に連続しており、表面のマイクロ文字とはおもむきを変えている。
 偽造券においては何やらとぎれがちな点線状の印刷が見られるが、文字と視認できない。「原版」をもたないカラープリンターなどの簡便な印刷では、マイクロ文字の再現は不可能である。
さらに拡大↓
.透過光写真
 透過光によるすかしの視認鑑定は最も簡単で基本的な鑑定方法である。ところが、相手の目の前ですかしてみるのは失礼にあたるとの思いもあってか、実施できない場合も多いようだ。
 このような向きには写真店でよく見るバックライト(フィルムなどを見るのに使う)を利用するのとよい。バックライトは価格も数千円程度で、紙幣サイズのものもあり、大手の電器店であれば大体取り扱っている。

※ただし、過去にはすかし入りの偽造券も現れているので、すかしの有無のみで判断してはならないことを申し添えたい。
真正券
偽造券
真正券 偽造券
 1)すかしの拡大
 一万円札(日本円)のすかしには極めて美しい階調(グラデーション)が見られ、その技術は世界でも有数といわれている。
 紙の抄造工程の中、凹凸で表現する真正券のすかしは、偽造券ではその存在がない。
真正券 偽造券
 2)識別マークの拡大
 識別マークも目視での鑑定ではすかしと同様の方法で鑑定が可能であり、むしろ印刷と重なる部分であるため、すかし以上に、偽造券による再現は極めてが困難な部位である。
 有力な鑑定ポイントと言えよう。
さらに拡大↓
 3)グラデーションに注目
過去に発見された偽造券では識別マークの階調までを再現したものは皆無である。
 鑑定に際しては有力なポイントとなる。
4)識別マークの触感鑑定
旧紙幣の識別マークはいわゆる点字の一種で凹凸があるわけだが、目視が可能な健常者の多くは表面側を親指の腹でさわる場合が多い。 識別マークは構造上、裏面側に中央部分が凸状になっており、人差し指で軽く触れると凸状の感触を得やすい。意外に簡単にできる効果的な鑑定方法と言えよう。
偽造券にはグラデーションは見られない。





←印刷と識別マークがほとんど重な
らない五千円札の例




←裏面から人差し指でさわってみる。
5)識別マークの断面イメージ図 表面側(親指)
←断面イメージ図
裏面側(人差し指)
.紫外線写真(蛍光反応)
1)用紙(紙質)
 偽造券においては紙質の差異に配慮を及ぼさない場合が多く、紫外線をあてると右下写真に見られるように著しく青白発光する。
 ところが、当該偽造券ではそのような特徴は見受けられない。その意味で偽造としては紙質を吟味して使用した可能性が考えられる。
真正券
偽造券
2)鑑定の要領
紫外線による蛍光発光の視認鑑定では1枚だけで行うよりも数枚単位で行う方が視認しやすい。
 ただし採光のよい場所や明るい室内では遮光や照度を落とすなどしないと視認が困難な場合もある。

従来の偽造券では右図のように
用紙が蛍光発色を示す場合が多い



        別の偽造券の例→
真正券 偽造券
3)印影「総裁之爾」の蛍光反応(インク)
 真正券では赤い印影が橙(または黄)色に蛍光発色する。偽造券では蛍光インクが使用されていないため変色することはない。

 ただし、平成5年12月以前に発光された紙幣では、真正券ではあるものの、この偽造対策は施されていないため、紫外線をあてると偽造券と同じような反応を示すので注意を要する。
 めやすとして、当時の紙幣記番号は黒なので、この場合は真正旧券とみなすことができる。
さらに拡大↓
.赤外線写真(インクの透過反応)
 従来のプリンターによる偽造券の多くはインクジェットのカラープリンターが用いられる場合が多かった。
 インクジェットプリンターの出力偽造券では印刷画像はすべて赤外線を透過するため画像が消えたように見える。 しかしながら、当該偽造券では印刷画像は消えずに視認できることから真正券と同様、赤外線を吸収するインクが使用されている。
 この点から、使用されたプリンターはカラーレザープリンター、または一部のメーカーが最近販売を開始した耐性インク使用のインクジェットプリンターなどが推定されるのである。
真正券
偽造券

05/1/11、韓国ソウル、ホテル内のカジノで発見された偽造一万円券には、年末年始に国内で発見されたものと同じ記番号の偽造券が含まれていた。新聞等によれば消費者金融の会社社長が善意で所持し、ウオンへの両替やゲーム用チップに換金されていたとの報道がなされている。

これまで、年末年始に国内で発見された偽造一万円券は、初詣という日本ならではのタイミングをとらえた国内的犯罪と解されていたわけであるが、ここに来て海外でも発見されたことから、舞台は一気に大規模・広域化し国際犯罪の様相を呈する至っている。

ところで、今回の偽造券事件についてはその印刷の出来映えから判断し、使用された機材としては耐性インクジェットプリンターやカラープリンター(例:エプソンの強インク、キャノンのトナー式カラーレザープリンター)が使用された可能性が高い。近年、技術革新によりその精度は「写真画質」にまで向上し、低価格化したカラープリンターやスキャナーはパソコンの周辺機器として急速に普及し、入手も容易になっている。

従来、偽造券の製造は高精度・大量印刷のため商業印刷の設備であるオフセット印刷装置が必要であり、オフセット印刷では相当高価な印刷機材とベテラン技術者(印刷職人)が必要である。そのため、お金に困った印刷業者を巻き込むなど、大がかりな手配が必要とされることから組織暴力などの限られたグループしかできない犯罪であった。


今回多発した偽造一万円の例では、入手の容易なスキャナやプリンターを悪用することで、高精度の偽造印刷が素人あるいは素人集団でも容易にできることになり、多くの模倣類似犯を生む結果となっていると言うことができる。今やスキャナやプリンターの無防備状態は社会問題であり、各メーカーには紙幣データ検知ROMを組み込むなど、早急な偽造対策を求めざるを得ない。自動車が使用方法(違法運転)によっては走る凶器となるのと同じように、スキャナやプリンターも悪用すれば偽造の凶器となるのである。偽造防止対策は印刷装置としてはカラーコピー機ではすでに実現されている技術であり、民生機器スキャナやプリンターにおいても技術的に対応は可能なはずである。

そして、身近に偽造の凶器があれば、景気の低迷で失業やリストラ増大する中、ごく普通の人が偽造実行犯に変身する動機付け(誘惑)は生活の中にあふれていると言えよう。


1万円の偽札について1/15のKBS夜9時のニュースで報道されている。見つかったのは420枚でシリアル番号は下記の5種類である。
KZ669328B
UF083976N
VP308422S
VJ838046M
KZ069327B

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