現地からの声:ハイチの現状
1等陸尉 関口 忠雄
1.ハイチの環境
ハイチはどこにあるのでしょうか? あまり馴染みのない国名なので分からない人も多いでしょう。ハイチは、北米大陸と南米大陸の間にあるカリブ海に、ドミニカ共和国と隣接して存在します。気候の季節変化はあまりなく、一年中暑く感じます(1月現在の最高気温35℃)。
雨季は4~6月と8~11月の2回で、この時期に併せてハリケーンに見舞われることもあります。日本とは時差がマイナス14時間、公用語はフランス語及びクレオール語で、英語やスペイン語を話すことができる人は大学もしくは独学で習得した人と言えるでしょう。
水道水は衛生状態が悪く、食器を洗う際などは使用しますが、通常はボトルに入った水を購入して調理及び飲用に使用しています。電気については停電が時折起こり、電力供給不足に対するデモすら起きています。また、ハイチでは衛生環境に対する意識が低いのか、路上は必ずゴミであふれ、地震後に水の流れなくなった川などは絶好のゴミ捨て場と化しています。したがって、雨季ともなると上流のゴミは下流に押し流され、特に下流地域に至っては衛生環境が悪化するのは言うまでもありません。
避難民キャンプ前のマーケット
路上マーケット
現在、ハイチの治安状況は全般的に安定していますが、802か所、約58万人が生活する避難民キャンプではギャング団の影響により犯罪が増加しています。特に、祝い事の多い年末年始の時期についてはたくさんのお金が必要となるため、地域を問わず子どもの誘拐事件が多発しています。
川がゴミ捨て場と化す。辺りは異様な光景、そして臭い
路上マーケット 野菜、果物、菓子類、服等が売られている。
卵や生肉まで売られていたのは信じられなかった
交通機関は、自動車やバイクが主であり、鉄道は走っておらず、航空機は国内線はあるようですが、フライト・スケジュールは定まっていません。道路交通状況はというと、交通マナーがひどく、信号が設置されているところも少ないので、渋滞や無謀な割り込み、追い越し、過積載及び路上駐車等は日常茶飯事です。交通ルールは無に等しいといっていいかもしれません。
トラックも重要な移動手段の一つ
車線がないので急に車列が増える。
2.司令部要員(兵站幕僚)の業務
私は、2011(平成23)年9月よりハイチの首都ポルトープランスのデルタ・キャンプにある国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)軍事部門司令部兵站部において「兵站幕僚」として勤務しています。編成は7名、国籍はチリ、ブラジル、アメリカ、ヨルダン、フィリピン、ハイチそして日本とバラエティに富んでいますが、これだけ異なる国が揃うと仕事のやり方もそれぞれ異なることは言うまでもありません。兵站部では、具体的にはCOE(派遣国保有装備品)及びUNOE(国連保有装備品)の定期的な現況調査、使用弾薬の管理、国連車両の管理、派遣部隊に対する任務支援(主に輸送任務)、補給品調達及び生活環境の構築・改善等を行っています。2010年10月よりコレラの流行が問題となり、特に生活環境(汚水処理施設やゴミ処理方法)については適時確認、改善させる等、万全の態勢で臨んでいます。私のこの他の任務としては、MINUSTAHと日本隊との連絡幹部的役割を担ったり、本邦とMINUSTAH関連情報のやり取りを実施しています。
実際、こうして他国の人たちと勤務をしていると、国の習慣なのか国民性なのか、なかなか円滑に業務を進めることができない場合があります。例えば、通常何らかのプロジェクトを進める場合、事前に担当者間で会合の場を持ち、その後段階的なスケジュールを組んでその進捗率を監督し、何か問題が起こった場合の対応措置を事前に見積るかと思いますが、ここでは計画や業務予定表などは存在せず、さらには何か問題が起きた場合には「そのとき何とかすればいい。何とかなる。」的な考えを持っているようで、日々不安を抱きつつマイスケジュール帳の下に業務を実施しています。
勤務風景
もう一つは、国連車両に関する業務です。車両に不具合が生じた際、修理工場へ修理を依頼しに行くのですが、日本であれば後日、事務担当からどこが悪い、修理に2、3日かかりますといった通知が来ますが、ここでは全くそのような知らせはなく、「修理が終わったら電話する」の一点ばり……。こちらから聞いて回答が返ってくればいい方です。そのような対応をする勤務員の修理作業をいまいち信用することもできず、修理後にユーザーが最終点検をしなければならない状況です(実際、定期点検に出したにもかかわらずオイルやクーラント(エンジンの冷却材)の入れ忘れ事例あり)。お客様の立場になって……ではないですが、こちらの業務に来す支障も考慮して、もう少し責任をもって勤務してほしいものです。
余談ですが、日本人は、非常に勤勉で淡々と仕事をきっちりやり遂げるというのが、他国の抱く印象であり、東北地方太平洋沖地震の際、常磐自動車道が6日間という驚異的なスピードで復旧したことに対して驚愕したそうです。こちらに来て何度も耳にしましたが、「MADE IN JAPAN」と呼ばれるほど、いまだ日本製、いや日本人に対する期待が高いようです。
軍事部門司令部の建物前に並ぶ参加国の国旗
キャンプ・ゲート付近に立つ国連旗(左)とハイチ国旗
3.最後に
新たな年を迎え、任務も折り返し地点を過ぎました。文化及び国民性の違いからちょっとしたストレスを感じることも多々ありますが、ハイチは少しずつではありますが復興しつつあります。ハイチ政府に対する復興への一層の努力を期待するとともに、残る期間も気を引き締めて勤務に励みたいと思います。
兵站視察での集合写真
COE検査実施時の様子
平成24年1月
ハイチにて