企業法務の地平線

第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”

法務部

シリーズ一覧全46件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
  38. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  39. 第42回 伊藤忠商事の法務だからできること - 営業部門と共に闘い成長する法務部
  40. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  41. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  42. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  43. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  44. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  45. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  46. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
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目次

  1. 国内330名・海外270名の法務が「事業会社制」を支える
  2. スピードを出すには利きの良いブレーキが必要
  3. リーガルとコンプライアンスの両面からの変革
  4. 「社員稼業」というカルチャーを法務で実践する

ビジネス環境の変化や事業の成長戦略にあわせて経営体制・組織体制を適宜改変しながら、さらなる成長を目指すパナソニックグループ。そうしたグループ改革と軌を一にして、法務のあり方もまた変化しています。グループ全体の法務に携わる梅村 昌嗣氏、佐川 雄規氏、渡邊 奈美氏の3名に、現状の組織体制や最近の取組みなどについて話を聞きました。

国内330名・海外270名の法務が「事業会社制」を支える

2022年4月、パナソニックグループは従来の社内カンパニー制から持株会社制へと移行しました。

梅村氏:
現在のパナソニックグループは、持株会社であるパナソニック ホールディングス(以下「ホールディングス」といいます)と8つの事業会社(および国内外の関係会社)で構成されています。創業以来続く自主責任経営という基本方針はそのままに、事業会社が各専門領域においてさらに競争力を高めていこうとするこの体制を、我々は「事業会社制」と呼んでいます。グループ体制の概要は以下のとおりです。

パナソニックのグループ体制

パナソニックのグループ体制

現在の法務体制はどのようになっていますか。

梅村氏:
グループの中でも、ホールディングスは、グループ戦略立案やグループガバナンスを徹底していく役割を持ち、法務は「コーポレート法務部」「グループコンプライアンス部」「グローバル取引管理戦略部」に分かれています。また、いわゆるグループ本社機能の中で法務を含めた各種オペレーション業務は、事業会社のパナソニック オペレーショナルエクセレンス(以下「オペレーショナルエクセレンス社」といいます)に集約されており、日本のほか、海外6地域にあるオペレーショナルエクセレンス社の主要海外拠点(いわゆるリージョナルヘッドクオーター)にも法務組織を置いています。
各事業会社には、事業会社CLO(Chief Legal Officer)が配置され、それぞれが数十名程度の法務チームを率いており、グループ全体としては総勢600名(国内330名・海外270名)という法務陣容です。

佐川氏:
私が所属するホールディングスのコーポレート法務部は、グループ本社の法務として、M&A等のグループの重要取引案件やコーポレートガバナンスなどを主に担当しています。

渡邊氏:
ホールディングスのグループコンプライアンス部においては、グループコンプライアンスに係る方針の策定・発信、社内通報調査制度を含むコンプライアンスプログラムの構築・徹底、重大コンプライアンス事案への対応などを担当しています。

スピードを出すには利きの良いブレーキが必要

梅村さんは長年にわたりグループに在籍し、これまでに何度も経営体制や組織体制の改変を経験されたと思いますが、今般の事業会社制への移行に伴い、法務の位置付けや役割はどう変化したと受け止めていますか。

梅村氏:
私は2001年に松下電工に入社して以来、子会社化、グループ事業の大幅再編、カンパニー制など、今回を含めて4回くらい大きな経営・組織体制の改変を経験してきました。そうした経験を踏まえると、今が最も法務の役割分担が明確になっていると感じます。たとえば、1つ前のカンパニー制時代の本社の法務部門を振り返ると、各カンパニーから相談を受けたり、グループ全体のガバナンスも担当したりと、誰のために何の業務を行っているのかを突き詰めて考えきれていない部分があったのも事実です。

現在、ホールディングスはグループコンプライアンスやガバナンスの職責を果たし、オペレーショナルエクセレンス社はホールディングスや事業会社から受託した業務に対して付加価値を提供しながら、さらなる効率化・高度化を追求するといった具合に、それぞれの役割が研ぎ澄まされています。

梅村 昌嗣氏

梅村 昌嗣氏

佐川氏:
今回の体制変更のポイントは、権限委譲にあると思っています。以前のカンパニー制と比較すると事業会社の権限は広がり、M&Aや投資の費用は原則事業会社の収益から出すという方針が採用されました。各事業会社の競争力強化を図る一方で、それをグループとしていかにグリップするかが重要となり、法務は “One Legal Team” として、グループのガバナンスの一翼を担っています。「スピードを出すには利きの良いブレーキが必要」とよくいわれますが、法務の腕がこれまで以上に試されているともいえますね。

総勢600名という大所帯ですが、“One Legal Team” としてどのような目標や共通認識を持っているのでしょうか。

佐川氏:
当グループの法務では、「最高の企業法務チームになり、健全かつ持続的な成長による企業価値の向上を実現する」をビジョンに掲げています。また、このビジョンを実現するためのミッションは、パートナー(Partner)とガーディアン(Guardian)という2つの側面から整理しています。具体的には、パートナーとして「現場に寄り添い事業の健全な成長・成功にコミットする」、ガーディアンとして「『公明正大』、会社の良心の実践者・牽引役になる」ことがミッションです。
ここでポイントとなるのは「現場に寄り添い」という文言です。現場に近いところでなければ適切な経営貢献・リスクマネジメントはできないという発想が根底にあり、結果として、中央集権的な体制ではなく、事業会社にそれぞれ法務機能を設置し現場と向き合えるようにするという現在の体制に至ったと認識しています。

梅村氏:
事業会社にはそれぞれCLOを配置しています。CLOのレポート先は各事業会社のCEOですが、それとは別に、グループGC(General Counsel)の少徳 彩子へのレポートラインも設けています。これはOne Legal Teamの発想に基づくものであり、我々は「ダイレクトレポートライン」と呼んでいます。
これに関連して、グループの法務責任者からなる「ダイレクトレポートミーティング」という会議体も運営しています。国内事業会社のCLOが集まり月1回開催するものと、リージョナルヘッドクオーターのCLOも交えて隔月1回開催するものがあり、特に前者では人材育成など会社横断的な課題について話すことが多いですね。

佐川氏:
当社は法務のプレゼンスが非常に高く、法務の経営への参画は体制としても確立しています。最も象徴的なのは、グループGCの少徳がホールディングスの取締役執行役員を務めているという事実です。前GCのローレンス・ベイツも取締役を兼任していましたが、そこで終わらずに、少徳のようなパナソニックプロパーの法務人材が取締役執行役員に就任したのは、法務はきちんと経営に貢献するものだという理解と評価が得られた1つの帰結といえるでしょう。

また、各事業会社のCLOは執行役員として配置されており、取締役会や経営会議などのメンバーとして経営に参画しています。会社の決裁については、法務が合議権(拒否権)を確保しており、法務の視点から実効的な牽制がかかる仕組みになっています。

佐川 雄規氏

佐川 雄規氏

リーガルとコンプライアンスの両面からの変革

グループ全体で変革を進められている中で、法務としてはどのようなことに取り組んでいますか。

佐川氏:
競争力強化のためには、業務効率を上げ、正味付加価値を向上させていくことが大きなテーマとなります。これに関して、法務では大きく2つの施策を展開しました。
1つ目は、重要な取引案件に対するリスクマネジメントのフレームワークの構築・推進です。会社として変革を進め、大きな打ち手を進めていくためには、健全なリスクテイクのためのリスクマネジメントが重要ですが、パナソニックでは事業の多様性もあって、これまでは必ずしも取引・契約に関するリスクマネジメントのフレームワークが共通言語化されていませんでした。そこで、他部門とも連携し、以下のような考え方を基本的なフレームワークとして策定し、これに沿って検討するよう要請しています。

  1. リスクの洗い出しと、蓋然性・インパクトの両面からの評価
  2. 対応策の検討・実施
  3. 残存リスクを含むリスク情報の意思決定者へのインプットと、リスク・リターンを踏まえた意思決定
  4. 取引実行段階でのリスク情報の周知徹底と変化時の対応

2021年から取組みを進めていますが、こうした働きかけにより、たとえば会議体においてもリスク情報がきちんと議論されるようになるなど、リスク検討の意識が向上している様子がうかがえます。今年度に入って、さらにフレームワークを定着・徹底させる観点から、プリンシプル・ベースの全社規程も策定しました。

2つ目は、法務業務の標準化・効率化です。具体的には、法務が見るべき契約とそうでないものを明確に区分する審査基準を策定することで、より重要性が高い契約にリソースを集中できるようにしました。また、2023年1月からは新しい契約審査・契約管理システム(MNTSQ)を国内グループ共通で導入し、契約管理の効率化と膨大なナレッジの積極活用を図っています。
今回、契約審査・契約管理を一元的なシステムとしたことにより、ナレッジ共有や契約書の見える化が進んできているという手応えを得ています。

このほかにコンプライアンスについての変革や注力している取組みがあれば教えてください。

梅村氏:
グループの組織改変に先立って、グローバルコンプライアンスプログラムの再構築を強力に推し進めてきました。これは、2018年の当社グループにおけるFCPA等の違反事案の反省をレバレッジとして、米国当局のコンプライアンスプログラム評価ガイダンス等の視点で、当社の従来のコンプライアンスの枠組みを刷新してきた変革の取組みとなります。
まずは、グループ内に120くらい乱立していたホットラインを1つに統合し、社内のネーミングコンテストを経て「EARS(Ethical Action Real Solutions)」という名称でグローバルホットラインを浸透させ、スピークアップカルチャーを促進してきました。
また、グローバル贈収賄・腐敗行為防止プログラムも導入しています。グローバルに一律に適用される規程を導入・推進し、新たに設置したコンプライアンス監査部門がチェックする仕組みを設け、また、新たに構築したグローバルITプラットフォームを用いて、効率的・効果的に、取引前の贈賄リスクデューデリジェンスを実施できるようにしました。
グローバルでの周知徹底にあたっては、文書での通知だけではなく、eラーニング、啓発動画・アニメーション・マンガ、ポスターなどさまざまな形でアプローチし、あわせて多言語対応にも努めています。たとえば、コンプライアンス教育マンガは最大25言語で作成してグローバルの従業員に配布・配信しました。

渡邊氏:
ホットラインは31言語対応です。グローバルでスピークアップできなければ意味がないので、可能な限り従業員が母国語で通報できるようにという意図です。グローバルホットライン導入時点と比較すると、通報件数は大幅に増加しており、これは、スピークアップ文化が浸透してきた証といえます。
通報は世界各国でなされるため、通報調査対応窓口は、リージョナルヘッドクオーター等でも担ってもらいながら、効率的・効果的に調査を進めています。先日も、北米のリーガルチームと共催でInvestigation Workshopを開きましたが、継続して、調査スキルの標準化にも努めていきたいと思います。

渡邊 奈美氏

渡邊 奈美氏

「社員稼業」というカルチャーを法務で実践する

グループ全体でDEI(Diversity, Equity & Inclusion)活動を推進しているそうですね。

渡邊氏:
創業者の松下幸之助は、人はそれぞれ異なる特質や能力を持っており、それを十分に活かすことが重要というDEIの根本となる思想を持っていました。そうした思想を受け継ぎながらポリシーを定め、社員1人ひとりがその個性を存分に発揮できる環境づくりを進めています。

法務部門におけるダイバーシティとしては、他部署に比べて女性管理職が多いことが特徴といえるでしょう。先ほども話に出たように、グループGCは女性の少徳が務めていますし、事業会社のCLO、リージョナルヘッドクオーターのCLO、グローバル取引管理戦略部の部長等のキーポジションでも女性が活躍しています。グローバル取引管理戦略部長は外国人で米国にいます。

梅村氏:
性別以外の多様性の観点でも、ダイレクトレポートミーティングのメンバー20名のうち、6名は非日本人ですし、キャリア採用者も多く、4名はここ1年ほどの間に社外から法務トップとして入社・就任した者など、多様性あるメンバーで構成しています。「言うべきことを言い合う」というパナソニックの経営理念、カルチャーも相まって、かなり刺激的な議論ができています。

渡邊氏:
身近なところでは、グループの法務は優秀な人が多く、しかも気さくで良い方ばかりなので、一緒に働いていて日々たくさんの学びがあります。私は2021年にキャリア採用で入社しましたが、プロパー社員との垣根もなく、とても働きやすいと感じます。
また、当グループはグローバルに幅広い事業を展開しているがゆえに、法務がカバーする領域もまた広範多岐にわたります。何かチャレンジしたい業務領域や修得したいスキルなどがあれば、必ずグループ内にそれを実現できる場所が見つかると思います。

ワークライフバランスという観点ではいかがでしょうか。

渡邊氏:
子育て中のメンバーが多く、私自身2児の子育てをしながら働いています。フルフレックス制を採用しているため勤務時間を柔軟に設定できますし、在宅勤務も可能なので、仕事と家庭の両立がしやすい環境です。

佐川氏:
私のチームもメンバー全員が保育園や小学生の子どもを持っていますが、問題なく勤務できています。私も基本は在宅勤務で、出社するのは週1回程度。とはいえ、日比谷オフィスに出社しても上司や部下の大半は大阪・門真市のオフィス勤務なので、基本的にはオンラインでのやり取りがメインです。
ちなみに、事業会社制への移行プロジェクトは、コロナ禍ということもあってすべてオンラインで行われました。それができたのなら何でもオンラインで対応できるだろうという自信につながりましたね(笑)。

梅村氏:
たしかに、在宅勤務もオンラインももはや日常の風景です。個人的には、海外とのコミュニケーションも日常になりつつあるなと感じています。たとえば、「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」を昨年4月1日に公布・発信しましたが、その策定に向けて1年ほどのグローバルプロジェクトを立ち上げました。そのプロジェクトを進める際に、米国や欧州など海外のメンバーと週1回のTeamsミーティングを設定しましたが、オンラインベースでの濃密な議論を経て、オペレーショナルエクセレンス社の社長賞を獲得するほどの非常に良いプロダクトを作ることができ、時差の壁や距離の壁があっても何とかなるものだなと思いました。

最後に、チームとして大切にしている価値観と求める人材像についてお聞かせください。

梅村氏:
パナソニックグループでは、松下幸之助が用いた「社員稼業」という経営理念が浸透しています。これは、1人ひとりが自らの仕事の主人公であり経営者として、高い使命感と責任感を持って仕事に取り組むという考え方です。法務に置き換えると、経営や事業の当事者として、自律的に、具体的な課題を特定し、それに対し付加価値のある解決策を提案し、課題解決まで導いていくというマインドセットがある人材が望ましいと考えています。また、この前提として、常に変化に対しアンテナを張り、専門能力を磨いていく姿勢も重要です。

佐川氏:
私は以前法律事務所で勤務していましたが、その頃よりも今のほうが社内のさまざまな情報に直接・積極的に触れることができ、よりプロアクティブに課題を特定し解決・改善に向けた動きをしやすいですし、「社員稼業」の風土のおかげでそれを好意的に評価してもらえると感じています。

ありがとうございました。

プロフィール

梅村 昌嗣氏(ニューヨーク州弁護士)
パナソニック ホールディングス株式会社 グループコンプライアンス部長
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コンプライアンス部長
2001年松下電工株式会社入社、法務部にて国内法務・海外法務・コーポレートガバナンス業務に従事。2013年ノースウェスタン大学ロースクール修了、2014年米国ニューヨーク州弁護士登録。帰国後、事業会社法務、本社経営企画部を経て、2017年10月より本社コンプライアンス部門。2020年10月コンプライアンス部長就任。

佐川 雄規氏(弁護士・ニューヨーク州弁護士)
パナソニック ホールディングス株式会社 エグゼクティブリーガルカウンセル/コーポレート法務部 事業法務課長
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 法務部 法務1課長
2009年弁護士登録。森・濱田松本法律事務所に入所し、M&Aを中心に幅広くコーポレート案件に従事。2016年コロンビア大学ロースクール修了、2017年米国ニューヨーク州弁護士登録。2019年パナソニック株式会社(現パナソニック ホールディングス株式会社)入社。2020年7月事業法務課長就任、2023年4月エグゼクティブリーガルカウンセル就任。

渡邊 奈美氏(弁護士)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コンプライアンス部
パナソニック ホールディングス株式会社 グループコンプライアンス部
2016年弁護士登録。大阪の法律事務所に入所し、幅広く企業法務案件に従事。2019年ロサンゼルスに移住。2021年パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社に入社。

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS編集部)

シリーズ一覧全46件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
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  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
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  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
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  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
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  40. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  41. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  42. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  43. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  44. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  45. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  46. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
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