「楽天モバイル郵便局店」での申し込みの様子。このような風景も今後は見る機会が少なくなる。
撮影:石川温
楽天モバイルが先週、これまで郵便局内に出店していた「楽天モバイル郵便局店」を合計200店舗、4月末までに閉店することを明らかにした。
80店舗は継続運営する一方、全国2万局に楽天モバイルのサービスを案内するチラシを設置するという。
展開開始直後は、「1日に100件程度の来客」と手応えを感じていたようだが、なぜここまで縮小することになったのか。解説してみよう。
郵便局に訪れる客に「認知が行き渡った」のか
楽天モバイル郵便局店のブース。
撮影:石川温
楽天モバイル郵便局店は、2021年6月から8月末にかけて10局で期間限定で出店されたのが発端だ。
郵便局内にあるイベントスペースを間借りし、簡易カウンターでの有人対応やブース内にあるタブレットを使い、オンラインで料金相談や契約ができるというものだった。
有人カウンターではその場で契約が完了し、在庫があればスマホを持ち帰れた。ブースでのオンライン契約は後日、SIMカードとスマホが自宅に送付されてくる。
楽天と日本郵政、日本郵便が資本業務提携を発表した2021年3月12日の会見に登壇する楽天の三木谷浩史会長。
出典:楽天
日本郵政が楽天に1499億円を出資した経緯もあり、「楽天モバイル郵便局店」が誕生したというのは自然な流れだった。
しかし、業界関係者の間では「いまさら、郵便局に出店しても効果は薄いのではないか」と冷ややかな目で見られていた。
例えば、旅行代理店「エイチ・アイ・エス」を親会社とする、MVNO(格安SIM事業者)のH.I.S.Mobileは、参入当初、「全国にあるHISの店舗で説明、契約できるのがウリ」としていた。
だが、数年が経過して「HISという旅行代理店に来るお客さん目的は旅に行くことであり、モバイルの契約をしたいというわけではない。客層が違うので路線変更せざるを得なかった」(H.I.S.Mobile 猪腰英知社長)という発言もある。
H.I.S.Mobileの公式サイト。
出典:H.I.S.Mobile
楽天モバイルにも郵便局店を出店する際、筆者は「郵便局に来る客層とスマホに興味を示す客層は違うのではないか」と質問したことがあった。
その際の回答は以下の通りだった。
「郵便局に来るお客さんはここに楽天モバイルがあることを知らない人がほとんど。最初のコンタクトとしてはまず知ってもらうことを心がけている。
郵便局は月に何度も訪れる人が多い。最初に来た際に楽天モバイルのカウンターを認知してもらい、その後、あらためて郵便局に来た際にお話をし、次に契約をしていいただく。
そうした環境がほかの業態とは違うのではないか」(楽天モバイル・ビジネスインキュベーション部、中村礼博部長)
それから1年半が経過し、200店舗の閉店になるわけだが、楽天モバイル関係者によれば「郵便局はリピーターが訪れる場所であり、すでにリピーターには楽天モバイルの認知、契約が行き渡った」とのこと。
これ以上、同じ郵便局に出店を続けても、リピーターばかりで、新たにアプローチできる客が皆無ということで、閉店を決めたようだ。
郵便局のイベントスペースを借りるには当然、賃料が発生し、有人カウンターであれば、人件費もかかる。1年半が経過し、戦略を見直すとともにコスト削減に着手したのだろう。
ちなみに、2022年末にはSNSなどで「街中の楽天モバイルショップが次々、閉店している」という話題が出ていた。
楽天モバイル広報によると「キャリアショップの店舗運営の方針には変更はなく、閉店したところも数は限られている。一方で新規出店しているところも多い」とのことだった。
楽天モバイルに必要なのは「起爆剤」
楽天モバイルのSIMカード。
撮影:小林優多郎
楽天モバイルは2022年の0円プラン廃止以降、ユーザーの流出が止まらない。
2022年10月以降も、MVNO関係者に話を聞くと「楽天モバイルからの流入が相変わらず多い」という。
楽天モバイルとしては弱点である「ネットワーク品質」においては、総務省の計らいで、なんとかプラチナバンドを確保できそうな雰囲気だが、全国的にネットワークを整備するには時間がかかる。
もちろん「プラチナバンドが割り当てられたから楽天モバイルを契約する」といったユーザーは全体からすれば少ないわけで、プラチナバンドはあくまで「他社と互角に戦うための道具のひとつ」に過ぎない。
やはり一度、ゼロ円プラン廃止でユーザーからの信頼を失墜させてしまっただけに、世間が再び、楽天モバイルに注目するような「起爆剤」が必要だろう。
実際のところ、楽天モバイルを見てみても、既存3社が熱心に展開している「学生向けキャンペーン」を展開できていない。起爆剤以前に明らかな努力不足が見られる。
楽天モバイルの公式サイト
出典:楽天モバイル
楽天はなぜ学生狙いキャンペーンをしない?
スマホ業界は、これから3月にかけての「春商戦」に入る。これは、9月の「iPhone商戦」に並ぶ、顧客獲得合戦が熾烈になるタイミングだ。
既存3社を見ても、NTTドコモ「ドコモ青春割」、KDDI「スマホスタート応援割」、ソフトバンク「ソフトバンク デビュー割」といったように進級や入学、就職といった学生や新社会人をターゲットにしたキャンペーン料金を展開している。
小学校高学年や中学生であれば、新たにスマホデビューするし、新社会人であれば、親から独立して自分でスマホ料金を支払うようになる。
そうしたユーザーを3キャリアでは狙い撃ちにしているのだ。このタイミングで、家族まるごと、料金プランを見直す家庭も多い。UQモバイルやワイモバイルでは、親子をまるごとターゲットにしたキャンペーンを展開する。
ところが、楽天モバイルのサイトを見ても、春商戦に向けた学生や家族を狙ったキャンペーンは皆無だ。
一方で、1人あたりの契約数を最大10回線までにして、楽天社員に事実上の契約ノルマを課しているとも報道されている。まずは「学生とその家族」に向けた施策を展開した方がいいのではないか。
さまざまなモノが値上がりする中、家族数人で高額な通信料金が家計の負担と感じている家庭も多い。いまの楽天モバイルは、そうした潜在的なユーザーにアプローチできていないのが何とも残念でならないのだ。