11月1日、Amazon Music Primeは大幅リニューアルを果たした。
撮影:小林優多郎
アマゾンがプライム会員向けの音楽サービス「Amazon Music Prime」を11月1日に大規模リニューアルした。
これまで200万曲だった聴き放題の楽曲数を、1億曲以上に拡大。あわせてオリジナルや独占配信など、ポッドキャストの番組も強化する。
ただ、今回のリニューアルは、単純なサービス強化とも言い切れない。
再生方法が基本的に「シャッフル再生」となり、一部を除いて曲やアーティストを指定した再生ができなくなる、というある種の制限も入るからだ。
狙いは「弱点」の克服とUnlimitedへの入り口に
リニューアルの狙いは何か。
アマゾンジャパン デジタル音楽事業本部ディレクター&ジェネラルマネジャーの島田和大氏は「もっと多くの曲を楽しみたいという、お客様のニーズに対応するもの」だと説明する。
アマゾンジャパン デジタル音楽事業本部ディレクター&ジェネラルマネジャーの島田和大氏。
撮影:小林優多郎
「Amazon Music Prime」は「Amazon Prime Video」と同じく、アマゾンのプライム会員向けに提供されているサービスだ。
プライム会員は追加料金なしに楽しめるが、島田氏によると「現状ではAmazon MusicよりPrime Videoの方がより多くのユーザーに利用されている」。
その要因のひとつとして指摘されていたのが、「200万曲」という楽曲数の少なさだった。
対して、リニューアル後の「1億曲」は、月額980円(プライム会員は880円)のサブスクリプションサービス「Amazon Music Unlimited」と同じ水準。ただし、その再生方法は、前述の通りプレイリストのシャッフル再生に限定される。
リニューアル前に自分で作成したプレイリストは保持できるが、再生方法はシャッフルのみとなる。既存のユーザーにとってはデメリットもあるが、島田氏は「そこを乗り越えていかないと新しい提案はできない」と話す。
「メディアの楽しみ方には、アクティブなリーンフォワード型(聴きたい曲を能動的に選ぶ)と、ゆったり構えて楽しむリーンバック型の2つのタイプがありますが、新しいAmazon Music Primeは、後者のお客様により豊かな音楽体験を提供するものになる」(島田氏)
リニューアルにあわせて、ELLEGARDENとコラボレーションした特別配信も実施。11月11日からトリビュートアルバムを独占配信するほか、「Amazon Prime Video」でも、ドキュメンタリーを独占配信する。
撮影:小林優多郎
新しいMusic Primeは聴きたい曲をピンポイントで再生することは難しい。
だが、好きな音楽のジャンルや類似するアーティストなど、指向性に合わせたプレイリストが楽しめ、家事などの作業をしながら、Amazon EchoでBGMを楽しむのには向く。今まで知らなかった楽曲に出会える楽しさもあるという。
「専門のキュレーターがアレンジしたプレイリストを、リコメンデーションしています。
聞いていくうちにだんだん、自分にあった楽曲が集められ、パーソナルライズされたプレイリストが再生できる。そういう新しいデジタルミュージックの体験をしていただける」(島田氏)
これまでも「Amazon Music Prime」で音楽のストリーミング再生を経験し、その体験がより深まっていく中で「Amazon Music Unlimited」へアップグレードするという流れはあった。
だが、楽曲数が増えることで「初めて体験いただく入り口のサービスとして、より有用なものになる」と島田氏は言う。
日本で定着が進まないポッドキャストにも注力
Amazon Musicのポッドキャスト戦略。
撮影:小林優多郎
Amazonプライム会員の魅力を高めるとともに、「Amazon Music Unlimited」のユーザー増にも貢献し、アマゾンの音楽サービス全体として底上げを狙う。さらにビジネスの観点では、今回コンテンツを強化するポッドキャストにも期待を寄せているという。
「アメリカではすでに大きな広告市場となっていて、音声メディアの中でも注目度の高い分野。
今後広がってくる日本の市場の中で、Amazon Musicとしてしっかりとしたポジションニングを築いていくためにも、有力なコンテンツをそろえて、まずお客様に聞いていただける環境を整えていきたい」(島田氏)
ポッドキャストと言えば、アマゾンのもうひとつの音声系サブスクリプションである「Audible(オーディブル)」でも提供されている。どう住み分けていくのか。
アマゾンジャパン シニア・コンテンツ・アクイジション・マネジャーの今井陽子氏。
撮影:小林優多郎
ポッドキャストを担当する、アマゾンジャパン シニア・コンテンツ・アクイジション・マネジャーの今井陽子氏は、「お客様にとって多くの選択肢があるということ(がメリット)」だとする。明確な住み分けは意図しない、ということだ。
今回のリニューアルにあわせてAmazon Musicで配信が開始される番組には、タレントの木村祐一氏が吉本興業の芸人にインタビューする「ワレワレハワラワレタイNEXT」ほか、ラジオ番組のスピンオフなど、Amazon Musicだけの独占配信をそろえた。
アマゾンでポッドキャストを扱うサービスとしては、Amazon MusicとAudibleがある。
撮影:小林優多郎
「どのような形で出していくかは、コンテンツの内容や特性次第。ニーズとのバランスを見ながら選択していきたい」(今井氏)という。
一方で「ポッドキャストは、まだこれから認知度を高めていかなければならないメディア」とも今井氏は語る。
日本ではラジオのようなトーク番組が多いが、アメリカではドキュメンタリーやドラマ、ホラーなど多彩な作品が展開され、市場が拡大している。「日本でもリスナーに刺さる多様なコンテンツがそろってくれば、大きく花開く可能性がある」と、今井氏は見ている。
島田氏と今井氏。
撮影:小林優多郎
島田氏は構造的な課題もあると指摘する。
「ニワトリと卵の議論になりますが、日本では音声メディアの市場規模が小さく、ポットキャストをつくっても広告が入らない。
一方で、多くの人に聞いてもらわないと、メディアバリューにはつながりません。
コンテンツに投資をしていかない限り、お金が回っていくポジティブな循環はできないし、市場も育たないということ。これはAmazon Musicとして、今後取り組んでいくポイントになると思います」(島田氏)