オラクルはコスト削減のため、比較的賃金が安い地域での採用を進めているという。
Robert Galbraith/Reuters
オラクル(Oracle)は資金の節約と人件費の削減を図るため、密かに人員削減を行いつつ、シアトル、ニューヨーク、サンフランシスコ・ベイエリアなどのテック産業の中心となっている都市での採用を控え始めている。
オラクルの採用部門の社員3人がInsiderに語ったところによると、同社の幹部の一人がリクルーターや採用責任者に対し、給与水準や生活費がより低い地域やアメリカ国外で候補者を探すように指示したという。
同社の複数の部署ではさらに踏み込んだ指示がなされているようで、以前はアメリカ国内で採用していたポジションを東欧などでの採用に切り替えるよう採用責任者に指示を出しているというのだ。採用関係者たちの話では、東欧ではアメリカ国内1人分の給料で数人を雇用できるのだという。
「給与レベルに関して、オラクルは必ずしもトップレベルでいたいとは考えていません。トップレベルの候補者を見送ってもっと安い賃金レベルの二番手を採用しても構わないと思っているのです」(オラクル採用担当者)
オラクルの全部門が、国内で高賃金の採用を抑制するようにと指示を受けているのかどうかは不明だ。しかし、同社のクラウドソフトウェア、広告・カスタマーエクスペリエンス、セキュリティ、リクルート部門の社員や最近解雇された数人の元社員は、そのような指示を聞いたことがあると話す。
オラクルの採用責任者の間では長年、安い人件費の地域、特に国外で採用を行うことがコスト節約のための戦略となっていた。
オラクルは10億ドル(約1480億円、1ドル=148円換算)のコスト削減を目指し、ここ数カ月で2度の人員削減を行っている。今回の採用地域の限定は、そういった一連の採用抑制の中で出てきた話だが、そのせいで、ただでさえ低下している社内の士気がさらに下がっているという。同社では、一部の部門では例外として重要な役職の採用は可能だが、社内の多くの部署では採用が凍結されている。
現在も採用が行われている一部部署の社員は、以前はアメリカで採用していた役職をメキシコ、インド、東欧などでの採用に切り替えるよう指示を受けたという。オラクルは昔から、人件費が安い国外の地域での採用を推進してきた経緯がある。
「アメリカ人1人を雇う金があれば、インドなら年によっては5、6人を雇うことができます。私は、ルーマニアでは1人分の給与で3~4人を雇いましたよ。チームを作るために頭数が必要であれば、そうすればいいのです」(オラクルで採用を担当していた元社員)
しかし、オラクルの本拠地シリコンバレーや他の主要なテック企業の中心地からの候補者を避けるというのは、同社にとっては新たなレベルのコスト削減を意味する、と語る社員もいる。
採用地域を限定することによって大きく影響を受けている部署の一つが、オラクルクラウド・インフラストラクチャー(OCI)だ。「OCIはかなり本気で予算を引き締めようとしています。ものすごい締め付けですよ」と、OCIの採用戦略について知るリクルート部門の社員は語る。
これらのオラクル社員の話を同社幹部のケン・グリュック(Ken Glueck)に伝えたところ、「馬鹿げた話だ」と言い、それ以上の説明もInsiderの質問に対する具体的な回答も避けた。
「オラクルは生活費や人件費の安い地域の候補者を採用するようOCIに奨励しているのか」という質問に対しグリュックは、本社をテキサス州オースティンに移転させたため「数年前と比べればベイエリアでの採用人数は減っています」と答えている。サンフランシスコ・ベイエリア、シアトル、ニューヨークなどのテック拠点以外からの候補者の採用を優先しているのかについての回答は避けたものの、こう付け加えた。
「我々はどこの人間であろうと最高の人材を採用しています。地域は全く関係ありません」
シアトルやサンフランシスコレベルの給与は払おうとしない
近年、オラクルはクラウド市場を牽引するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と並ぶクラウドプラットフォームになるのを目指していることもあり、OCIは社内でも給与や待遇が最も高い部署となっている。ただ、今やそのOCIさえもが支出を抑え、安い給与水準での採用を優先しなければならなくなっていると、同社で採用に関わったことのある社員や元社員は語る。
彼らによると、オラクルの前会計年度末である2022年5月から、「レベル1」(ベイエリア)や「レベル2」(シアトル、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、ワシントンD.C.)と同社が呼ぶ地域の候補者の採用を控えるよう指示があったという。
OCIの採用活動について知る社員は、「社内の採用状況を確認したところ、予算を大幅に上回っていたことが明らかになりました。それはひとえに、いわゆるレベル1やレベル2にあたるトップクラスの候補者をずっと採用していたからです」と語る。
その後、OCIの幹部は採用担当者に対し、もっと低い、3〜5レベルの候補者を優先するよう指示したという。
オラクルはこのレベル分けの仕組みを使い、地域に基づき社員の給与範囲を決めているという。Insiderが確認した内部文書によると、レベル4にはアリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州、ミシガン州、ハワイ州、ネバダ州、ノースカロライナ州、コロラド州(デンバーとボルダーを除く)、ニューヨーク州(都市圏以外)、コネチカット沖に位置する夏休みの穴場スポット、フィッシャーズ・アイランドが含まれる。レベル5にはアーカンソー州、アイダホ州、モンタナ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、オハイオ州など20以上の州が含まれる。
一部の採用責任者はすでにレベル4や5の地域から採用することを本格的に検討し始めている。
「レベル1と2の候補者の採用は考えていません。給与レベルが高すぎるので、人件費や生活費がもっと低い他の地域で探しています」(OCIのリクルーター)
OCIの社員と元社員によると、OCIが初期に採用した人材の多くはシアトルのアマゾンやマイクロソフトからの引き抜きだったという。
「アマゾンからキーパーソンを引き抜くため、必要な額はいくらでも払っていました。そういう人を確保してしまえば、あと必要なのは現場の人間だけです」とある元社員は語る。「これは理にかなっています。大金を払わなければならないキーパーソンは何百人も必要ないですからね」
レベル4や5の地域では優秀人材はなかなか手に入らない
とはいえ、採用プロセスに関わる社員たちは、レベル1や2以外の都市で人材を探さなければならならず、そのプレッシャーに対して不満を漏らす。
「リクルーターたちは、レベル4や5の地域で優秀な人材を見つけるのは至難の業だと考えています」とある社員は語る。
オラクルのレベル分けでは、同社が最近節税のために本社を移転したテキサス州オースティンはレベル3に該当する。同社が広大な社屋を建設中のナッシュビルを含むテネシー州は、レベル5だ。
しかしオラクルの幹部には、現場の採用担当者が抱く懸念が伝わっていないようだとの指摘もある。
小さな都市の給与もシリコンバレーの水準に追いつきつつある
人員削減、雇用凍結、賃金の安い地域での採用などで人件費削減を図っているテック企業はオラクルだけではない。
Insiderは2022年10月、メタ(Meta)が内部査定プロセスの業績評価方法を変えようとしており、それが数千人規模の人員削減につながる可能性があると報じた。同社は人件費の安いシンガポールへの請負業務移管を進める中で、2022年中にアメリカ国内で数百人の業務委託者との契約を終了すると見られている。
テック企業の間では、パンデミック中にリモートワークが浸透するにつれて、業務をシリコンバレーより賃金の低い国内外地域へと移す傾向が強まっている。
アメリカ国内のテック人材の求人市場の中で、2022年に最も給与が高かったのはベイエリアで、平均給与は17万5909ドル(約2600万円、1ドル=147円換算)となっている。2位はシアトルで17万1432ドル(約2500万円)、3位はニューヨークで16万2261ドル(約2400万円)だ。
とはいえ、こうした中堅都市でもテック人材の給与はシリコンバレーの水準に急速に追いつきつつあるようだ。
オースティンにおけるテック人材の平均給与は15万7612ドル(約2300万円)だ。フィラデルフィア、ダラス・フォートワース、デンバーなどの都市でも、2022年はテック人材の給与が過去最高の伸び率を見せている。
(編集:大門小百合)