セールスフォース(Salesforce)がコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じて出資してきたクラウドソフトウェア企業が軒並み株式市場の低迷の影響で苦しんでいる。
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米顧客情報管理システム大手セールスフォース(Salesforce)のベンチャーキャピタル部門はこれまで、クラウドソフトウェア分野の前途有望なスタートアップに資金を投じ、利益を生み出し続けてきた。
ところが、年初来のバリュエーション(=企業価値評価)低下の波は上場、非上場を問わず多くの企業を飲み込み、クラウドソフトウェア分野も大きな打撃に見舞われている。セールスフォースの投資先もその例に漏(も)れず、同社のボトムライン(=最終損益)にしわ寄せがおよぶ可能性が出てきている。
セールスフォースは米証券取引委員会(SEC)に提出した最新の年次報告書(2022年1月末までの1年分)に、投資先の企業価値が10%下落すると、同社の投資ポートフォリオが最大1億6500万ドルの毀損(きそん)を受けるおそれがあると記載している。
この問題について、JMP証券アナリストのパット・ワラベンスは最近の顧客向けコメンタリーで、セールスフォースのベンチャー投資を通じて得られる収益は現在の市況を踏まえると目減りする可能性が高く、他の収入源を探す必要があると指摘する。
Insiderは最近の記事で、セールスフォースが一部のポジションについて採用の先送りや募集の一時凍結を決めたことを報じたが、それも含めてワラベンスは以下のように分析する。
「景気後退入りが間近だと分かれば、営業部門向けのソフトウェア銘柄は手放し、エクスポージャー(=特定のリスクにさらす資産の割合)を分散させるのは当然で、もちろん一部の支出を取りやめるのも理にかなっています。
この環境下で自社の株価を引き上げようと思うなら、まずは利益率を上げることです」
セールスフォース・ベンチャーズ(Salesforce Ventures)は2009年の設立以来、ビデオ会議ツールのズーム(Zoom)、電子署名のドキュサイン(DocuSign)、統合データ分析プラットフォームのデータブリックス(Databricks)、ビッグデータ保管分析サービスのスノーフレイク(Snowflake)など、エンタープライズクラウド企業400社以上に資金を提供してきた。
2021年、セールスフォースは戦略的投資を通じた利益として12億ドルを計上。その前年の2020年は、前出のスノーフレイクとクラウド型統合融資プラットフォームのエヌシーノ(nCino)上場の追い風があり、21億7000万ドルを計上している。
セールスフォースの戦略は、投資先企業の上場や買収時に得られる利益次第と言える。年次報告書の記載によれば、同社はそうした利益で投資資金を回収し、その資金をより多くの企業に再投資する戦略をとっている。
セールスフォース・ベンチャーズは基本的には創業間もないスタートアップやアーリーステージの資金調達ラウンドへの投資に重心を置くものの、近年は前出のズームやスノーフレイク、チーム管理ソフトウェアのマンデードットコム(monday.com)など、新規株式公開(IPO)後の企業にも資金を投じるケースも出てきている。
上記のような上場企業の株価はここ数カ月軒並み下落が続いているが、セールスフォースは損失を回避するため持ち分の売却を進めてきた。
2020年はズーム株を売却、2021年はスノーフレイク株の大半を手放している。後者については2021年末時点でも発行済み株式の5%にあたる3500万ドル分を保有していたが、スノーフレイク株の32%下落を受け、2022年第1四半期に残る保有分も売却した。米CNBCがセールスフォースのSEC提出書類をもとに報じた。
同書類によれば、セールスフォースは投資アプリ運営のロビンフッド(Robinhood)、前出のマンデードットコム、エヌシーノなど上場企業5社の株式を保有しているが、いずれも目減りが際立つ。
例えばマンデードットコムの保有株式数は48万3871株、2月のSEC提出書類では時価1億4938万ドルだったが、CNBCが引用した5月の提出書類では保有数は変わらず、時価だけが7648万ドルに下落している。
予測不可能な株式市場に揺すぶられて上場企業の混乱が続く一方で、非上場企業もまた苦境にあえいでいる。
パンデミック下ではクラウドソフトウェアの開発販売を手がけるスタートアップに資金が集中して「不況知らず」などともてはやされたが、昨今の景気後退入り予測を前にして資金を引き上げる投資家があとを絶たない。
セールスフォースは前出の年次報告書で、投資先の未公開企業の簿価は「当該または類似の証券に目立った価格変動があった場合」、またはバリュエーションに影響を与えるその他外的要因があった場合、それに応じた修正を行うとしている。
他のベンチャーキャピタルも苦境はセールスフォース・ベンチャーズと同様だ。
Insiderは2月時点ですでに、低迷する株式市場の状況から類推してスタートアップのバリュエーションが低下し、資金拠出の基準を見直すベンチャーキャピタルが出てくると報じている。
セールスフォースが2022年1月期通期決算で見せた圧倒的な利益体質は、ここまで見てきた戦略的投資によるところも大きい。しかし、昨今の市場環境の変化は、同社に戦略変更を促すことになるかもしれない。
JMP証券のワラベンス(前出)はこう語る。
「これまでのような投資利益はもはや期待できないでしょう。だとすれば、投資家の期待する利益を実現するためには、経費節減に動くしかないのかもしれません」
(翻訳・編集:川村力)