木星に「太陽系最強」のオーロラが起こる理由は「衛星の火山噴火」だった

NASAのハッブル宇宙望遠鏡がとらえた木星のオーロラ。同望遠鏡による2度の観測データを合成。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡がとらえた木星のオーロラ。同望遠鏡による2度の観測データを合成。

NASA/ESA/J. Nichols (University of Leicester)

  • 木星オーロラは、太陽系内で最も強力なものとして知られる。オーロラが発生する要因のひとつは、衛星イオの火山活動だ。
  • イオの火山が噴火すると、電荷を帯びた溶岩がプラズマとなって放出され、これが木星の南北両極に到達する。
  • 科学者たちは、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを手がかりにして、木星にオーロラを発生させるプラズマの流れのメカニズムを突き止めた。

木星のオーロラは、太陽系で最も強烈であり、その明るさは地球のオーロラの1000倍を超える。そして今、新たな研究で驚異的なこのオーロラの発生源が判明した。それは、宇宙空間に放たれ、プラズマと化した溶岩だ。

木星の衛星イオは、太陽系のなかで最も火山活動が活発な天体だ。この衛星には400以上の火山が存在し、頻繁に上空数万メートルもの高さまで溶岩を吹き上げている。この噴出した溶岩が、プラズマ化して木星の軌道に捉えられる。天文学者ジェームズ・オダナヒュー(James O'Donoghue)はこのプラズマを「電荷を帯びた物質のスープだ」と説明する。

NASAの木星探査機「ガリレオ」が捉えたイオの画像。宇宙空間を背景に、火山が噴火する様子が捉えられている。1997年6月28日撮影。

NASAの木星探査機「ガリレオ」が捉えたイオの画像。宇宙空間を背景に、火山が噴火する様子が捉えられている。1997年6月28日撮影。

NASA/JPL/University of Arizona

宇宙空間に放出されてプラズマに転じた溶岩は、木星の強力な磁場に取り込まれ、この惑星の両極に導かれる。ここで、電荷を帯びた粒子が大気中のガスと反応して発光し、オーロラが発生するというわけだ。

過去20年にわたり、木星のオーロラ発生メカニズムに関してはこれが定説とされてきた。

「科学的には、この説でほぼ決着がついたと考えられてきた」と、オダナヒューは説明する。だが2016年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー」が木星に到着すると、この定説に疑問符が付いた。

木星を周回する軌道からジュノーが行った探査では、両極付近で予想される荷電粒子の流れを観測できなかったのだ。

「それからの数年にわたり、我々研究者の間では、実態を解き明かすべく活発な議論が行われてきた」とオダナヒューは振り返る。なお、彼は現在、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)で木星の上層大気を研究している(今回発表された新たな研究には関与していない)。

NASAの探査機ガリレオが捉えた惑星イオ。1996年9月7日、11月6日に撮影された高解像度画像の合成。

NASAの探査機ガリレオが捉えた惑星イオ。1996年9月7日、11月6日に撮影された高解像度画像を合成。

NASA/JPL/University of Arizona

そして、イギリスのレスター大学の研究チームはこのほど、かねてから唱えられてきた説がジュノーの観測データと矛盾なく結びつくことを示し、この説が正しかったことを裏付けた。2022年1月に発表した研究論文で研究チームは、木星のオーロラの輝度をマッピングしていたハッブル宇宙望遠鏡の観測データを集約し、これを、ジュノーが計測した木星の磁場およびその中を通る荷電粒子の流れに関するデータと比較した。

この研究を主導したレスター大学所属の天文学者、ジョナサン・ニコルズ(Jonathan Nichols)は、「両者の関連性があまりに明確であることを確認できた時、私は驚きのあまり、座っていた椅子から転がり落ちそうになった」とのコメントをプレスリリースに寄せている。

この研究結果により、イオの火山噴火、木星の磁場を通る荷電粒子の流れ、オーロラという3つの要素のあいだに関係があることが確定した。だが、ジュノーの計測データからは、オーロラ発生のメカニズムが、当初提唱されていた説よりも複雑であることが浮き彫りになった。

火山の溶岩から発生したプラズマは「来た道を戻る」

木星のオーロラを生み出す、電荷を帯びたプラズマの流れを示す模式図。

木星のオーロラを生み出す、電荷を帯びたプラズマの流れを示す模式図。

Emma Bunce/Stanley Cowley/Jonathan Nichols/University of Leicester

学術誌「Journal of Geophysical Research: Space Physics」の1月号に掲載されたこの論文は、オーロラ発生のプロセスを、木星の磁場と、イオの溶岩が転じたプラズマの間で起きる「綱引き」と表現している。

プラズマは当初、木星の磁場に押されるかたちで木星から離れていくが、遠ざかるにつれて、木星からの距離を保つだけの周回速度を維持できなくなる。するとプラズマは、木星の磁場に沿って進む。この結果、木星の南北両極に向かって降下し、木星大気の上層を循環することになる。

太陽以外の恒星を周回する惑星(その多くは木星に似た特徴を持つ)でも、オーロラが発生している可能性がある。また、こうした惑星の磁場も、木星と似たふるまいを見せるかもしれない。

火山活動が盛んなことで知られる惑星イオが、木星の表面に落とした影。2019年9月11日撮影。

火山活動が盛んなことで知られる惑星イオが、木星の表面に落とした影。2019年9月11日撮影。

NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Kevin M. Gill (CC-BY)

これまでに、太陽系内の7つの惑星でオーロラが観測されている。これらのオーロラは共通の特徴を持つように見えるが、中でも木星のオーロラは並外れて強力で、これにはイオの火山活動が一役買っているようだ。

探査機ジュノーは、現在でも木星とその衛星の周囲を周回しており、この惑星の驚異的なオーロラについて、さらに多くの事実を科学者たちに明かしてくれるかもしれない。

オダナヒューの表現を借りるなら、イオの火山と木星のオーロラの関係は、「この太陽系の中でも、最も人の興味を惹きつけてやまない側面のひとつ」だ。

[原文:Jupiter's powerful auroras form during a 'tug of war' between the planet and nearby moon volcanoes

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)

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