アマゾンは、海外市場により注力すべくプライム(Amazon Prime)チームの指揮系統を再編していることがInsiderの取材で分かった。
アマゾンのインターナショナル・コンシューマー部門のバイスプレジデントであるラッセル・グランディネティは10月末、社内向けの電子メールの中で、ワールドワイド・プライム・アンド・マーケティングのシニア・バイスプレジデント、ニール・リンジーからチームを引き継ぐと発表した。Insiderが確認した電子メールのコピーによると、リンジーは2021年内に、アマゾンのコンシューマー事業内で新たな役職に就くことになる。
今回の再編で、アマゾンのプライム・メンバーシップ・プログラムのバイスプレジデントであるジャミル・ガーニとそのチームは、グランディネティの直下に置かれることになる。さらに、イギリス市場とヨーロッパ市場でプライム事業を率いているリサ・レオンは、担当領域を広げて会員数増加にも取り組むこととなる。一方、プライム会員プログラムの担当には年内に別の役員が就く予定だ。
グランディネティは電子メールの中で、「プライム・プログラムは引き続き海外での成長拡大の主な手段。自分のチームがプライムに関われるのは個人的にもうれしい」と書いている。アマゾンの広報担当者は、組織変更は認めたものの詳細についてはコメントを控えるとした。
今回の動きは、アメリカ市場でアマゾンのプライム会員プログラムが飽和したタイミングでの再編となる。
プライム会員プログラムは、年額または月額の会費で、お急ぎ便、動画視聴サービスをはじめとする特典が受けられる。また今回の動きからは、アマゾンが海外での売り上げ拡大を目指すなか、海外市場でより積極的にプライムの販売促進をかけたいという狙いがうかがえる。
調査会社エバーコアISIが2021年5月に発表した報告書によると、アメリカ市場におけるプライムの浸透率は2020年の67%から2021年には77%と、記録的な水準となった。エバーコアISIの概算によると、これは過去10年で最大の伸び幅であり、2013年の浸透率25%から急増している。
アマゾンは2021年、プライム会員数が世界で2億人を突破し、2018年の1億人から倍以上になったことを明らかにした。
また今回の再編からは、プライムを中心に海外で事業拡大したいとのアマゾンの思惑が見える。というのも、会員プログラムは、顧客がアマゾンで頻繁に買い物をする強いモチベーションになることが分かっているからだ。エバーコアの調査によると、プライム会員は非会員と比べ、アマゾンで3倍近い金額を使い、購入頻度もかなり高い。
ブライアン・オルサフスキー最高財務責任者(CFO)は10月28日に行った第3四半期の決算発表で、プライムの会員特典はアメリカ以外の市場で「かなり強力な顧客吸引力」になっていると発言した。とりわけ動画配信に関しては、動画を視聴するプライム会員の割合が海外市場の大部分で高くなっており、多くの国でプライムへの「入口」になっていると述べた。
しかしオルサフスキーによると、こうした特典は、コンテンツ費用として2021年に上乗せされた10億ドル(約1100億円)を含め、アマゾンにとって多額の先行投資となる。
海外部門は5四半期連続で黒字となったが、これはある意味、コロナ禍に後押しされて売上が急増したためで、事業としては主に大幅な損失の元凶となっている。直近の四半期では、海外部門の売上高291億ドル(約3兆2000億円)に対し9億1100万ドル(約1000億円)の営業損失を計上した。
また海外部門の売上高成長率は、2020年の37%、前の5四半期平均の46%と比べ、直近の四半期ではわずか16%と鈍化した。だがアマゾンは海外市場に投資し続ける予定だ。同社は先ごろ、ポーランドやスウェーデンなど新たな市場でプライム・プログラムをスタートさせており、エジプト市場にも参入して営業を開始している。また、インドに80億ドル(約8800億円)以上投じるとの公約もした。
オルサフスキーは今回の決算発表で、「長期的には海外で黒字化できる」と述べている。
(翻訳・松丸さとみ、編集・常盤亜由子)