新卒マッキンゼーで起業、コロナで売り上げ20倍。イベントハブ創業者の勝算

山本理恵さん

「イベントハブ」創業者の山本理恵さん(33)は、アメリカとイギリスで幼少期を過ごし、ブラウン大学を卒業後、来日した。

撮影:西山里緒

コロナ禍で激増した「オンラインイベント」の需要。さまざまなスタートアップが成長し、日本でも類似サービスが続々と生まれている。

この市場で戦う山本理恵さん(33)は、セールスフォースとSansanから資金調達し「日本文化の特性を活かしたサービスなら戦える」と語る。業界をリードする「EventHub(イベントハブ)」の勝算とは?

企業価値6200億円の企業も

オンラインイベント市場規模

アメリカのオンラインイベントの市場規模は、2020年から2027年にかけて年平均成長率23%で成長すると予測されている。

画像:Grand View Research

2020年、世界で「オンラインイベント」は爆発的な伸びを記録した。

ロンドンを拠点とする「Hopin」は設立からまだ1年ほどにも関わらず、企業価値56億5000万ドル(約6200億円)で約4億ドル(約420億円)を調達したとも報じられた

ニューヨークで設立されたバーチャルイベントプラットフォーム「Bizzabo」も2020年、1億3800万ドル(約151億円)を調達。インドでも類似サービス「Airmeet」が3月、1200万ドル(約13億円)をの資金調達を発表した。

調査会社のGrand View Researchは、アメリカのバーチャルイベントの市場規模は、2019年の約780億ドル(8兆6000億円)から、2030年までにおよそ10倍の7740億ドル(85兆円)にまで成長すると予測している。

日本発で目立つのは、2016年に設立した「EventHub(イベントハブ)」だ。

それまで、イベントのチケット販売や参加者のネットワーキングができるサービスを手がけていた同社。2020年2月にはセールスフォースとSansanから累計2.3億円の資金調達を達成した。その直後にコロナ禍が世界を襲い、2週間で急遽「オンラインイベント配信」の機能を立ち上げた。

オンラインイベントの実施方法としては、Peatixなどのイベント管理ツールと、ZoomやYouTubeといったビデオ会議ツールを組み合わせたものが一般的だ。しかしメールアドレスの管理や参加者のフォローアップが難しいという課題もある。

イベントハブは、イベントの立ち上げから配信、参加者の交流や名刺交換、終了後のデータ分析まで「一気通貫で」管理できることが強みだという。

コロナ以降、導入企業はそれまでの約40社から、数カ月で200社以上にまで拡大。2020年4月のリリースから約半年で売り上げは20倍に伸び、累計参加人数は30万人を超えた。2021年1月には大手ECサイトの35000人規模のエキスポをオンラインで実施するまでになった。

マッキンゼー辞めても「ノーリスク」

山本理恵さん

山本さんの起業の原点は、新卒で赴任したシリコンバレーにあった。

創業者の山本理恵さんは、イギリスとアメリカで幼少期を過ごし、名門・ブラウン大学を卒業。学生時代には、1学年後輩だった世界的な俳優、エマ・ワトソンと「寮の部屋で話した」というエピソードまである、“特殊”な経歴の持ち主だ。

「日本にずっといる人が海外に出てみたいと思うのと同じような感覚で、アメリカを出てみたい、と思っていました」

2011年にブラウン大学を卒業後、新卒で入社したマッキンゼー・アンド・カンパニーでシリコンバレーに赴任したことをきっかけに、熱狂に包まれたスタートアップ業界の空気感に感銘を受けた。

Airbnb、Uber、リフト……。当時、山本さんが「カフェでエンジニアが話しているのをよく目にしていた」企業の中にはその後、大型のIPO(新規株式公開)をしたものも少なくない。

やがて山本さんは、マッキンゼーの研修制度を利用して来日、そのまま東京にとどまることを決める。

「マッキンゼーは、転職しても5年以内だったら契約をホールドして、会社に復帰できる制度があるんです。若かったこともあって、それってノーリスクだな、と思いましたね」

日本でどんなキャリアを積んでいけばいいんだろう?と「プー太郎でぷらぷら」していた山本さんの方向性を変えたのが「手伝ってよ」と声をかけた、アカツキ共同創業者の塩田元規さんだ。言われるがまま同社の新規事業立ち上げに携わり、起業のおもしろさに目覚めた。

その後友人を介して、当時東京工業大学の院生だった共同創業者の井関正也さんと知り合い、意気投合。アメリカで盛り上がっていたイベント管理サービスを立ち上げられないか、と考えたのが「イベントハブ」の前身だ。

日本ならではの“奥ゆかしさ”で戦える

Hopin

ロンドンで2019年に設立した「Hopin」は約6200億円の企業価値となり、ヨーロッパ最大のユニコーン企業になったとCNBCが報じた。

画像:Hopin

起業後もすべてがうまくいったわけではない。

元々はイベントやカンファレンスを一括管理できるアプリを開発していたが、ダウンロード数が思うように伸びず撤退。受託開発で資金を賄いながら「二足のわらじ的に」サービスを作っては改善する数年も経験した。

「今振り返ると、長く細々とやってしまって中途半端だったかな、とも思います。セールスフォースやSansanさんから(資金調達の)お声掛けをいただいたことが自信になりました」

サービスが軌道に乗った今、欧米を見れば、企業価値が1000億円以上のユニコーン企業も続々と生まれている。アメリカとイギリスにルーツを持つ山本さんは、それでも“日本発”のサービスに勝機はある、とみる。

「言葉を選ばずに言えば、海外の競合サービスはいわゆる“陽キャな人”向けに作られている。日本やアジア文化ならではの“奥ゆかしさ”を活かしたサービスなら、まだ戦えると思うんです」

例えば、著名VCであるアンドリーセン・ホロウィッツなどから1080万ドル(約12億円)を調達したサービス「Run The World」には「カクテルパーティー」と呼ばれる機能がある。

アメリカ発の「Run The World」には、「バーチャル・カクテルパーティー」と呼ばれる機能がある。

動画:Run The World

これはアプリ側で見知らぬ他人同士をランダムで選び、1対1でマッチングさせ「スピード・デートのように」ネットワーキングさせるもの。先述の「Hopin」にも類似の機能があるが、日本には馴染みにくいのではないか、と山本さんはみる。

「日本であれば、まず相手がどういう人なのかを知り、名刺交換をし、やりとりをし、それ以上話したいとなったらビデオ通話などに発展するのが通常なのではないでしょうか」

イベントハブではSansanと連携し、ネットワーキングも名刺交換からスタートさせる。登壇者とコミュニケーションを取れる機能もあるが、その起点はあくまでチャットからだ。

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