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日米貿易協定で最終合意、自動車は追加関税回避-共同声明発表

更新日時
  • 米国産農産品の関税をTPP水準まで引き下げ
  • 将来的な自動車・同部品の関税撤廃を明記、為替条項言及せず

安倍晋三首相とトランプ米大統領は25日午後(日本時間26日未明)、ニューヨークで開いた首脳会談で日米貿易協定締結で最終合意し、合意確認文書に署名した。日本は米国産農産物の関税を撤廃・削減する。懸念事項だった日本製自動車・同部品への米国による追加関税は当面発動されないことになった。

  トランプ米大統領は署名に際して、今回の貿易協定を「第一段階」と位置付けた上で、「米農家にとって重要なものだ」と評価。さらに「かなり近い将来最終的な包括協定にしたい」との期待を表明した。安倍首相は「これは両国の消費者全ての国民に利益をもたらすウィンウィンの合意になった」と評価した。

US-POLITICS-GENERAL ASSEMBLY-DIPLOMACY

署名後に握手を交わす安倍首相とトランプ大統領

  合意内容を盛り込んだ共同声明によると、日本側はコメの無関税輸入枠導入を見送った一方、米国産の牛・豚肉は環太平洋連携協定(TPP)と同水準の関税に引き下げる。米国側は産業機械や化学品、鉄鋼製品など自動車を除く工業品について関税を撤廃、削減する。両国の国内手続き終了後、30日で発効するとしている。米国側は来年1月1日までの発効を見込んでいる。

  ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は両首脳の会談後、「現時点で日本車に追加関税を課す意図はない」と表明、自動車は今回の日米合意に含まれないと説明した。

  声明では、「協定が誠実に履行」されている間、「共同声明の精神に反する行動を取らない」としている。安倍首相は記者会見で、「日本の自動車あるいは自動車部品に対して追加関税を課さないという趣旨であることは私からトランプ大統領に明確に確認をし、大統領もそれを認めた」と述べた。為替条項は共同声明で言及されなかった。

  みずほ総合研究所政策調査部の菅原淳一主席研究員は、米国の自動車と日本のコメといった「お互いの重要品目を対象から事実上外してしまい、スピードを重視した結果、中身的には限定的」とし、第一段階は日米にとって引き分けだと指摘。ただ「日本の手持ちカードがなくなってしまった中で、米国に自動車・同部品の関税撤廃や、232条を引き続き発動しないよう求めていくのは、かなり難しい」と予想、「第二段階は日本にとって相当厳しい交渉になる」との見方を示した。

車関税の撤廃

  日本側が求めていた自動車・同部品の関税撤廃については、米国の譲許表に「さらなる交渉による関税撤廃」と明記されたものの、具体的な撤廃時期や原産地規則は協定では規定されていない。

  茂木敏充外相は、具体的時期が明示されなかったことについて、「車業界は電動化、自動走行など変革時期にあり、部品構成や重要度が変わっていく可能性が高い。そうした状況に応じて協議するのが適切と判断した」と説明した。

Industrial Landscapes and Shipping Activities at Nagoya Port Ahead of Japan Trade Figures

将来的な自動車関税撤廃を明記

  日米両国政府はまた、デジタル分野におけるハイレベルなルールを示した日米デジタル貿易協定締結でも合意、同分野での国際的なルール作りに主導的な役割を果たしていくと表明した。協定には電子的な送信に関税を課さないなどが規定されている。

  共同声明ではこのほか、今後の交渉対象分野を4カ月以内に絞り込んだ上で、貿易促進に向けた関税や他の貿易上の制約、サービス貿易、投資への障壁などについての交渉を開始することが盛り込まれた。

約7800億円相当

  USTRの発表文によると、日本は約72億ドル(約7760億円)相当の米農産物について関税を撤廃ないし削減。関税撤廃は13億ドル相当で、アーモンドやブルーベリー、スイートコーンなどが含まれるという。トランプ大統領は日本との合意は米農業にとって「大きな勝利」だと表現し、「米国の農家や畜産業者にとって実に莫大(ばくだい)な利益になる」と記者団に語った。

  トランプ氏は来年11月の大統領選に向けて、米中貿易摩擦やTPP・日欧経済連携協定(EPA)の影響が一番出ている農業で実績を誇示するため、日米貿易協定の早期発効を目指しており、議会手続きを簡略化する貿易促進権限法(TPA)法に基づき、同協定に近く署名する意向を議会に通知した。このため、日本が今秋開会予定の臨時国会で協定案の承認を得れば、発効することになる。

日本側の成果米国側の成果
  • 自動車・同部品は、米譲許表に「さらなる交渉による関税撤廃」と明記
  • 協定履行中は、通商拡大法232条による自動車・同部品への追加関税課されない。数量制限、輸出自主規制も課さないと閣僚間で確認
  • 産業機械、化学品、鉄鋼製品など一部工業品の関税を撤廃・削減
  • コメの無関税の輸入枠導入見送り
  • TPPワイドの関税割当枠数量が設定されている33品目に新たな米国枠設けない
  • 牛肉や豚肉、小麦、ワインなど米国産農産品72憶ドル相当の関税をTPP水準まで削減・撤廃
  • 牛肉はTPPと同様に、関税を38.5%から9%まで段階的に削減。緊急輸入制限(セーフガード)の発動基準数量を20年度24.2万トン、33年度29.3万トンに拡大
  • 豚肉はTPPと同様に、従価税部分の関税撤廃、従量税部分は1キログラム当たり50円まで削減。従量税部分のセーフガードはTPP全体の発動基準数量とし、22年度9万トン、27年度15万トン
  • 小麦や大麦はTPPと同様に、政府が輸入する際に徴収している差益(マークアップ)を45%削減。小麦の米国枠19年度の12万トンから24年度に15万トンに拡大

原則合意からの道のり

  日米両首脳は8月の会談で両国貿易交渉で原則合意し、9月末に協定の署名を目指すことで一致。日本は牛肉や豚肉など米国産農産品の関税をTPP水準まで引き下げる一方、その時点では、米国に求めていた自動車・同部品への関税撤廃は見送られ、追加関税の回避すら確約されていなかった。またトランプ大統領は、米国産の小麦とトウモロコシを日本が大量に購入すると言及していた。

  米国は輸入している乗用車に2.5%、トラックに25%、関連部品に2.5%の関税をそれぞれ課しており、米国が離脱する前のTPP合意では自動車部品の8割以上で即時撤廃、乗用車は段階的に引き下げて25年目で撤廃することになっていた。

  藤崎一郎元駐米大使は25日のブルームバーグ・テレビで、「日本人が最も懸念しているのは、米国が通商拡大法232条を導入することだ」と語り、米国から自動車に対する追加関税を導入しないという確約を得ることが重要だとの見解を示した。

日米貿易交渉を巡る動き

2017年
1月 トランプ大統領、TPP離脱の大統領令に署名


4月 麻生副総理兼財務相とペンス副大統領、日米経済対話の初会合

2018年
3月 米国、鉄鋼・アルミ製品への追加関税適用(通商拡大法232条)
5月 トランプ大統領、自動車輸入の調査を指示(通商拡大法232条)
4月 安倍首相とトランプ大統領による首脳会談、自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)開始で合意
8月 茂木前再生相とライトハイザーUSTR代表によるFFR交渉が開始
9月 首脳会談、日米物品貿易協定(TAG)交渉開始で合意、共同声明
2019年
4月 茂木前再生相とライトハイザー代表によるTAG交渉、初会合
5月 トランプ大統領、自動車追加関税発動を180日延期
8月 首脳会談、日米貿易交渉で原則合意
9月 閣僚級協議で交渉終了、首脳会談で共同声明に署名
(識者のコメントを6段落目に追加して更新しました.)
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