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【インサイト】日が昇る安倍政権、沈み行く成果表

安倍首相

安倍首相

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

衆院選での大勝を受け、安倍晋三首相が経済に視線を戻す体制が整った。なすべきことは山積している。約5年前にアベノミクスの3本の矢の一つとして導入された大規模な金融緩和は、日本経済をデフレから脱却させることに成功しつつある。一方、財政政策の適切なバランスを見つけ出し、広範な構造改革で経済を刷新する残り2本の「矢」は2015年をピークに失速していると、ブルームバーグ・エコノミクスの分析は示している。

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  ブルームバーグ・エコノミクスが作成した成果表(スコアカード)によれば、アベノミクスの進展は15年度のピーク後から減速している。主な減点ポイントは、遅々として進まない財政・労働市場改革、ビジネス環境と技術革新ランキングにおける日本の地位後退だ。連立与党の衆院選勝利により、安倍首相は改革の勢いを盛り上げるチャンスを得た。一方で首相の改憲への意欲が、日本の成長と債務をより持続可能な道筋に戻す政策の実施を妨げるリスクがある。

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  成果表は改革の進捗(しんちょく)状況を以下のようにして算出している。

  • 13年6月に発表された「日本再興戦略」に含まれる成果目標に加え、名目国内総生産(GDP)で600兆円、20年度までに基礎的財収支で均衡を目指す成長・財政目標を含む27項目で構成
  • 成果目標は4分野に分類し、それぞれ25%のウエートで総合成果指数に配分
    • 経済成長・財政改革(2項目)
    • 投資・インフラ(13項目)
    • 労働・教育改革(5項目)
    • 国際化・技術革新(7項目)
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  • 4つの分野の進捗状況は、成果目標に対する平均進捗状況で表される。幅広い達成期間(3年から10年)を持つ成果目標を比較可能にするため、進捗状況は目標達成に必要な年次ベースの進捗に対する割合として算出される。進捗が目標を上回った場合は100%、開始時期から後退した場合は0%とみなす。
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  安倍政権下で大きな進展を見せたのは経済成長だ。日本銀行による大規模金融緩和、円安による好調な輸出そして財政出動により、20年度に名目GDPで600兆円(12年度は495兆円)達成を目指していたが、進捗は好調だ。研究開発費をGDP算出に含める16年12月の改定も寄与した。ブルームバーグ・エコノミクスの予測によれば、名目GDPは今年度に548兆円に達する見込みだ。

  経済成長の加速による税収増加は、財政赤字削減にとってポジティブな要因だ。短期的に経済を減速させた14年の消費税率引き上げも赤字削減に寄与した。それでも財政目標の進捗は15年から滞り始め、以降改善は見られない。2回に及ぶ消費税引き上げの延期は、赤字削減のペースを減速させた。財政立て直しより教育・養育関連費の支出を優先させる安倍首相の計画により、既に非現実的だった20年度までに基礎的財政収支を均衡させる目標の先送りを明言せざるを得なくなった。

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  対GDP比で見た日本の研究開発支出は先進国でも高水準にある。こうした支出はとりわけGDP算出に含められるようになった昨年12月以降、経済成長にとってポジティブに働く。

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  安倍首相の経済活性化計画は、民間部門の設備投資促進やインフラ事業における官民連携の拡大を含んでいる。出足が遅かったこうした分野の進捗も当初よりは進んだが、まだ十分とは言い難い。研究開発支出に加え、企業統治の強化も大きな進展が見られた分野だ。一方、ビジネス環境ランキングで先進国3位以内を目指すとした目標に関しては12年の14位から、17年には25位に後退している。

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  労働・教育改革で当初ある程度の進捗が見られたものの、勢いは落ちつつある。女性の就業を増やし全体の雇用を拡大する点では進展があった。25歳から44歳の女性の就業率は12年の67.8%から16年には72.7%まで上昇した。失業期間6カ月以上の失業者は過去4年間で30%超減少した。

  一方で他の指標ではさらなる努力が必要なことが示されている。例えば雇用の流動性は当初の進展から減速した。15年に提出された要となる働き方改革の法案はいまだ成立しておらず、9月の衆議院解散によってさらに遅れている。

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  国際化と技術革新を促進する改革は当初、4つの分野で最も大きな進展を見せたが、それ以降は減速している。米国が離脱した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)における進捗の遅れが主因だ。技術革新における日本のランキングも当初の上昇後は下落に転じている。一方、対内直接投資と訪日外国人の誘致が進展しているのは大きくポジティブだ。

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  日本の生産性の過去数年間の推移を見ると、安倍首相は構造改革のためにさらなる努力が必要なことが見て取れる。日銀の推計によれば、潜在成長率は10年の0%から17年には0.8%に上昇しているが、全要素生産性(労働力・資本の指標で、どれだけ効率的にこの2つが活用されているかを示す)は同期間、1%から0.4%に下落している。

結論:アベノミクスは設備投資と雇用を促進し、経済成長を加速させることに一定の進展を見せた一方、労働生産性の向上は依然不十分だ。日本の人口減少を考えると、後者に取り組む緊急性は上昇する一方だ。

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JAPAN INSIGHT: Heat on Abe - Scorecard Shows Abenomics Stalling

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