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激変する弁護士業界をしなやかに渡り歩く、北周士弁護士の発信力

激変する弁護士業界をしなやかに渡り歩く、北周士弁護士の発信力

「仕事の9割は、極めて普通の弁護士業なんですよ」。笑顔でそう話す北 周士弁護士。だが、その活動範囲の広さは「普通の弁護士業」の枠には収まらない。ベンチャー企業や中小企業の顧問として、日々、経営者や企業の発展を支える一方で、弁護士をはじめとする士業の開業・経営支援、飲食店や美容系店舗を対象としたキャンセル料回収代行サービスの運営、YouTubeの動画配信など、多岐にわたる取り組みをおこなっている。着想を得たきっかけは?反響についてどう捉えている?質問を重ねる中で見えてきたのは、自身が関わる人、そしてその先にいるより多くの人を「助けたい」という強い意志だった。多方面で活躍し続ける北弁護士に、それぞれの取り組みに対する思いや今後の展望を聞いた。

「独立を目指す若手を応援したい」


ーー士業の開業や経営支援をはじめたきっかけは何でしょうか。

2013年に『弁護士 独立のすすめ』という若手向けの開業の本を出版したことがきっかけで講演依頼をいただくようになり、年に数回、開業支援のセミナーを開催するようになったんです。講演活動をする中で個別にも相談が寄せられるようになってきて、「需要があるならやってみよう」と思い、開業や経営のコンサルティングもはじめました。

そもそも開業の本を出版したのは、私自身が開業を検討していたときに参考になる書籍がなかったからです。開業準備をはじめた2010年当時も弁護士向けの開業の本はありましたが、その多くが、比較的上の世代を読者層として想定していました。ある程度キャリアを積んだ中堅と若手とでは、経験も、開業にかけられるコストも違います。「売上はこのくらいを目指しましょう」「こういう設備が必要です」と言われても、自分の状況とかけ離れていてリアリティが感じられませんでした。

「早期独立を目指す若手が本当に知るべき情報をまとめた本がほしい。自分が読みたい本はきっと他の人も読みたいはず」。そう考えて、早期独立の事例集を企画していくつかの出版社に持ち込みました。その中でOKを出してくれたのが第一法規さんで、2013年の出版につながったんです。

ーー出版後はどのような支援活動をしていたのでしょうか。

基本的には開業や経営に関するセミナーの開催がメインで、要望があれば個別のコンサルティングにも対応するという形です。コロナ前は多いときで月に3回くらいセミナーを開催していましたが、現在は減っていますね。

ーーコロナ禍が原因で減少したということでしょうか。

それもありますが、個人的には、弁護士の独立需要そのものが低下し、開業や経営の情報を求める弁護士が減っているのではないかと感じています。司法修習でいうと60期台後半くらいから、弁護士業界は売り手市場になり、優秀な弁護士を獲得するために給与や福利厚生などの待遇を充実させる事務所が増えました。事務所の待遇がよく、案件を十分に担当させてもらえるなら、あえて独立する理由がないーー。そう考える若手が増えたのかもしれません。

独立需要が減っている他の要因としては、ウェブ集客の難易度が上がり、独立後の集客が難しくなったことも考えられると思います。

10年くらい前は、ウェブ集客に真剣に取り組んでいる弁護士はまだそんなに数がいなくて、「地域でウェブ広告を出しているのは自分の事務所だけ」といった状況がざらにありました。どこかのポータルサイトに掲載するだけで、ひっきりなしに問い合わせが来ました。そして皆さんご存知のように、そんな幸福な時代は過ぎ去りました。

今は競争相手が多すぎて、ポータルサイト数社を併用したり、広告を充実させたり、お金をかけないことには勝負になりません。独立したばかりでは広告にかけられるコストが限られるため、集客においてどうしても不利です。そういう意味でも若手が独立する難易度は上がっているのではないでしょうか。

こうした現状も踏まえて、2021年に、『弁護士 独立のすすめ』の続編を出版しました。2013年とは状況が大きく変わっている中で、今のリアルな独立の状況がわかる事例を豊富に掲載しました。今後独立を考えている方のヒントになればと思います。

ーー若手に独立を勧めたいと思いますか。

必ずしもそうは考えていないですね。主体的に独立したいと思っていて、開業方法や経営の情報を求めている方には参考情報を提供しますが、弁護士は必ず独立しなければならないとは思いません。

ただ、独立するからこそのメリットはあると思います。事務所から振られた仕事をひたすらこなすことは、その仕事にものすごく面白みがあれば別ですが、選択肢もなければ拒否権もないので、何年も続けるうちに辛くなってくる方もいると思います。やりたいことが明確にあり、仕事の量や内容をある程度コントロールできる状況で仕事をしたいなら、独立するかパートナーになる道を考えてもいいのではと率直に思います。


キャンセル料回収代行、美容業界に意外なニーズ


ーーキャンセル料回収代行サービス「ノーキャンドットコム」の着想は何だったのでしょう。

経産省のレポートで、無断キャンセルによって飲食店が被る損害が年間2000億円にものぼるというデータを見たことがきっかけです。

もともと外食が好きだったので、この事実を知って非常に胸が痛みました。無断キャンセルによって損害を負った店を助けるためにできることはないかと考えた結果、キャンセル料の回収を代行するサービスの提供に思い至りました。

このアイディアを得た後、月に数万件単位で少額債権回収を手がける先生と飲む機会があり、「それだけの数をどうやって督促しているんですか」と質問してみたんです。すると、電話・手紙・メールに加えて、携帯電話のショートメッセージを自動送信していると聞き、「これだ」と思いました。

ショートメッセージなら、携帯電話の番号さえわかれば送れますし、自動的に送信するシステムをつくることもそう難しくありません。一度システムを構築すれば1人でも負担なく運営でき、完全成功報酬にしてもビジネスとして成立すると考えて、システム開発をおこなう企業に相談し、2019年の夏から正式運営をはじめました。

ーー請求を受けた方は、素直に支払いに応じるのですか。

反論してくる方は数十人に1人くらいですね。「事情があってやむをえずキャンセルしたのに、料金を請求するなんてひどい」「金額の根拠がわからない」などと理由をつけて支払いを逃れようとします。

支払いを拒否し続ける場合、依頼者が希望すれば、訴訟を起こすことも可能ですが、そこまでいくことは稀です。頑なに拒否し続ける方でも、内容証明郵便を送れば支払いに応じることがほとんどです。また、訴訟する場合は着手金をいただきますから、回収できる金額より弁護士費用の方が高くついてしまい、店側のメリットがあまりないんです。飲食店からの回収依頼は1600件近く受けてきましたが、内容証明郵便の発送まで発展したケースは1~2件です。

ーー飲食店に加えて、ネイルサロンなど美容系店舗のキャンセル料回収もおこなっています。この美容版の登録店舗数は飲食版より100件多い程度ですが、回収の依頼件数は約5倍にのぼっていますね。

はじめるまでは、美容系店舗からの需要がここまで高いとは思いませんでした。

飲食版をはじめたところ、美容院やネイルサロンから「うちでもやりたい」と問い合わせが来るようになったんです。システムは変わらないのでとりあえずホームページをつくって運営をはじめると予想以上の反響で、今では飲食版を凌いでメイン事業になっています。

需要が高い理由はいくつか考えられます。

飲食は、当日予約なしで入る人も一定数いるので、お客さん全体における予約の割合がそれほど高くありません。一方、美容はほぼ逆です。美容院に当日予約なしでいきなり飛び込む人はなかなかいないですよね。恐らく、美容系店舗では予約の割合が高く、無断キャンセルが発生するリスクも高いのだと思います。

もう1つは、予約が容易なことです。今は24時間いつでもネット予約ができて便利な反面、予約したこと自体を本人が忘れてしまうケースも多いと思います。特にネイルやまつ毛エクステのようなパーツを扱うサロンは、必ずしも同じ店に継続的に通う人ばかりではなく、初回限定クーポンに惹かれた一見さんが気楽に予約して忘れてしまうという状況が発生しやすいのではないかと推測しています。

「私一人にできることはとても限られている」情報発信に込めた思い


ーーYouTubeでは、様々な分野で活躍する弁護士の方へのインタビュー動画を配信しています。

労働事件や刑事事件など各分野で活躍している先生方にインタビューし、経歴や仕事術、事務所経営などについて語っていただいています。企業の経営者や他士業の先生へのインタビューも実施しています。弁護士や士業が仕事や経営をする上で役に立つ情報を伝えたいと思い、2018年から配信をはじめました。

冒頭に述べた弁護士の開業・経営支援にも関わるのですが、私一人の手が届く範囲はとても狭いんです。

私がどれだけがんばっても、企業であればせいぜい50社をサポートするのが精一杯でしょう。でも、50人の弁護士が1人50社ずつ支援すれば、2500社を助けられます。企業の経営が安定すれば、従業員も、整備された環境の中で個々の能力を十分に発揮して働くことができます。各社に従業員が50人ずついるとしたら10万人以上を助けられるわけです。

私が1人で50社を助けるよりも、他の弁護士を助けた方が、多くの企業や従業員を助けることにつながります。活躍している先生方が考えていることやノウハウを共有することで、動画を観た方が日々の実務や経営に意欲的に取り組めるようになれたらと考えて、動画の配信をしようと思い立ちました。

弁護士や士業だけではなく、一般の方にもぜひ動画を観ていただきたいですね。「こんなにユニークな活動をしている弁護士もいるんだ」「この弁護士の話は面白いな」と思ってもらい、弁護士との距離が少しでも縮まれば嬉しいです。実際に、インタビューした先生のもとに、動画を見た方から問い合わせが来るケースもあると聞いています。

「仕事の9割は普通の弁護士業です」


ーー開業・経営支援やキャンセル料回収など多岐にわたって活躍されていて、大変お忙しいのでは?

よく「いろいろやってますね」と言われますが、9割方は極めて普通の弁護士業をやっています。経営支援はほぼ趣味で、稼ごうとは考えていません。「ノーキャンドットコム」やYouTubeの配信など、発信が多いので目立つのだと思いますが、普段は普通の弁護士として顧問先の契約書をチェックしたりしています。

ーー今後の展望を聞かせてください。

ここ5〜6年ほど、ベンチャー企業の顧問業務に力を入れてきたのですが、そろそろ若い世代に引き継いでいった方がいいなと思うようになりました。

クライアントと年齢が近いと、文化的背景にも共通認識があり、阿吽の呼吸というか、相手の考え方やビジネスをすっと理解でき、スムーズに仕事を進められます。ベンチャーの経営者は比較的若い方が多いので、クライアントの満足度を高めるためにも、若い世代の弁護士にバトンを渡すべきではないかと考えています。

あとは、若手の弁護士ともっとつながりたいです。今年で弁護士16年目に入り、若手弁護士と関わる機会が減ってきました。若い弁護士がどういう考えを持っていて、この業界をどう見ているのか、ぜひ知りたいのです。

同業者に限らず、世の若者が今何にハマっているのかいちいち興味があります。でも、20代の若者と全然関係ない領域の人間がつながるのはハードルが高すぎるので、新人弁護士や修習生を集めてコミュニケーションを取る機会をつくれたらいいなとは考えていますね。

(「FIVESTAR MAGAZINE 」2023年1月号掲載」)

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