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広末涼子さんの交換日記、仮に裁判になったら「不倫」の証拠になる? 徹底分析
広末涼子さん(写真:REX/アフロ)

広末涼子さんの交換日記、仮に裁判になったら「不倫」の証拠になる? 徹底分析

女優の広末涼子さんが、レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作さんとW不倫関係にあることを認め、謝罪しました。

週刊文春(6月22日号)では、2人の手紙や交換日記の内容が報道されました。交換日記には大好き、愛してるなどの言葉が並んでおり、2人の関係性が伝わってきます。

ただ、男女・離婚問題にくわしい中村剛弁護士は「このようなメッセージのやりとりがされていても、裁判においては不貞行為が認められないことがある」と話します。

一体どういうことなのでしょうか。解説してもらいました。

⚫︎交換日記で不貞行為が認められるか?

——今回暴露された交換日記で、広末さんたちは不貞行為を認めることとなりました。仮に、不貞行為の慰謝料請求や離婚の裁判において、相手が不貞行為を否定しているときに、この交換日記が証拠として提出された場合、不貞行為は認められるのでしょうか。

裁判で必要なのは「愛し合っていること」ではなく「肉体関係を持ったこと」です。

週刊文春(6月22日号)に掲載されている交換日記の内容を読むと、大好き、愛してるなどの言葉が出てくるようです。

これらの内容を読めば、2人が愛し合っているのではないかと感じるのはもっともかと思います。しかし、訴訟において立証しなければならないのは、「2人が愛し合っていたこと」ではなく、「2人の間に肉体関係があったこと」です。いくら愛し合っていたとしても、体の関係が何もないのであれば、不貞行為は成立しません

訴訟においても、LINEやメールのやりとりが提出されることはよくあり、そこにお互いに愛し合っている様子がわかる内容もあります。しかし、肉体関係があったことがわかる内容ではないと、不貞行為が認められないのです。そこをまず間違えないようにしなければなりません。

——仮に、今回の交換日記や、同じような内容のLINEやメールなどしか証拠がない場合、肉体関係があったことまで認められるのでしょうか。

もちろん、実際の訴訟においては、担当裁判官によって変わったり、他の証拠との関係もあったり(広末さんのケースでも、ホテルに入る写真があったようです)、これを提出することによって相手方が不貞行為を認めたりしてくれることもあるので、一概には言えません。

仮に、この交換日記や、同じような内容のLINEやメールしかないと仮定して、私の経験上のお話をさせていただきたいと思います。

私が見る限り、『週刊文春』の記事に記載されていて、肉体関係をうかがわせる内容としては、次のようなものがありました。

(1)「求め合った」ということが書いてある部分     
(2)「くっついてくれた」「入ってくれた」「気持ちよくしてくれた」ということが書いてある部分       
(3)「二十四時間抱き合っていたい」(でもそれができない、という内容に続いています)と書いてある部分

私が記事を見た限り、肉体関係を窺わせる内容として証拠となりそうなのは、以上の3つくらいでした。逆に言えば、それ以外は、愛し合っていることはわかるものの、訴訟においては、肉体関係を窺わせるとまではいえない、とされる可能性が高いと思います。

しかも、上記3つも、訴訟における証拠としては、若干弱いと思います。

(1)の「求め合う」というのは、肉体関係を窺わせる一つの内容ではありますが、単にお互いを愛し合うという意味にも取れなくはないので、訴訟になると弱いと思います。

また、(2)の「くっつく」「入る」「気持ちよくする」も、肉体関係を窺わせる内容ではあるものの、必ず性行為を意味するとまで言えるかというと疑問です。単に抱き合っていただけという程度の可能性もあり、それであれば不貞行為とまで認められない可能性が高いと思います。

(3)の「二十四時間抱き合っていたい」というのは、抱き合っていたことを認めるものではなく、本人の願望を伝えているだけ、と捉えることもできます。

もちろん、「そんなわけない」と考える方も大勢いらっしゃるでしょう。しかし、訴訟における立証とは、「普通そうだよね」というレベルではなく、「ほとんどの人が疑いなくその事実で間違いないと言える」レベルが要求されます。そのため、一般の人が不倫だと考える場合よりも、相当高いハードルがあるとお考え下さい。

⚫︎過去の裁判例は?

——過去の裁判ではどのように判断されているのでしょうか。

参考までに、過去に問題となった同じようなケースを見てみましょう。以下のような場合であっても、不貞行為は否定されています。

ケース1(東京地裁判決平成28年7月28日)
まず、この事案では、同じバンドメンバー内(Y1、Y2が被告)での不貞行為が疑われた事案でした。こちらでは、以下のような内容のメッセージが送られています。

はやく逢いたいなん!    
いってらっしゃい!愛してるよ!E!ちゅ!(互いにD・Eの愛称で呼び合っていた)    
私も愛してるよ!行ってきます!ちゅ!

また、Y2がY1の誕生日に贈ったメッセージブックには、次のような内容のメッセージがありました。

大好きだよ!Y1くん   
愛してるよ!心から愛してる!

この事案においても、「被告らの不貞行為の事実を推認するに足り」ないとされ、原告の請求は棄却されました。

ケース2(東京地裁判決平成28年9月13日)
次に、この事案では、以下のような内容のメッセージが送られていました。

でも私はわがままで、あなたに会いたい。   
あなたを愛することを止められない。   
あなたのキスが欲しい

このような内容があっても、裁判所は、不貞行為を推認することはできない、と判示して請求を棄却しました。

ケース3(東京地裁判決令和3年1月27日)
こちらの事案は、よりディープな内容が送られています。以下のような内容のメッセージが送られていました。

お互いを思いやる愛情と信頼でのみつながっている私達の儚い関係を思えば、せめて、理由を聞かせてほしいとは思わないでしょうか。   
お互いにかけがえないと奇跡のように心から愛しあって、愛おしく大切に思ってきて、何に負けてしまったんだろう。   
…貴方が、私への愛情から難しい状況の中でふたりのために精一杯努力して、出来る限りのことをしてきてくれていたこと、ずっとずっと有難くて本当に嬉しく思っていたよ。    
ねぇY 僕達まだ遅くないよ。だって、今でも心から愛してるから。   
いつも君を愛おしく思っているし、繋がっています。   
君の隣で空気を吸いたい…   
貴女を思ってます!   
Huluで失楽園を見てしまい、更に貴女を思い焦がれてしまっております…   
もちろん!将来は君と僕で”人で幸せに暮らすぞ~!   
顔見て、頬ずりして君の手を触って隣にいたい。君とただただ寄り添っていたい。

かなり直接的な内容のように思えるのですが、このようなやりとりがなされていたケースにおいても、「被告とAが、非常に親密な関係にあり、また、会うことがあったことは認められるものの、それを超えて不貞行為を行っていたことまで推認できるとはいえない」と判示されて、請求が棄却されました。

もちろん、メールなどでのメッセージのやりとりで不貞行為が認められた例もありますが、「意外に裁判所が不貞行為を認めるハードルは高い」というのが事件をやっていての実感です。

このようなメッセージのやりとりがされていても、裁判においては認められないことがあることを考えると、広末さんのケースで、不貞行為の存在を否認していたら、判決において不貞行為が認められない可能性も十分にあるのです。

プロフィール

中村 剛
中村 剛(なかむら たけし)弁護士 中村総合法律事務所
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。

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