EUと英国、離脱交渉めぐる思惑のずれはかなり深刻?

カティヤ・アドラー欧州担当編集長

英首相官邸で開かれた夕食会の内幕について関係者らは相反する説明をした

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画像説明, 英首相官邸で開かれた夕食会の内幕について関係者らは相反する説明をした

ブレグジットの不思議な世界にようこそ。欧州連合(EU)離脱をめぐって、英国とEUはあたかも銀河が回転しては逆回転するかのように、ああ言えばこう言うお互いのかみ合わない主張を言い合っている。この銀河では最近、真理の次元は伸縮自在で、時には歪んでさえいる。

たとえば、先月26日にロンドン・ダウニング街の首相官邸で、テリーザ・メイ首相がEU委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長をもてなした夕食会について。これが完全な失敗だったのかどうかが、ブレグジット銀河の歪みを示す好例だ。

失敗だったなどとんでもない、成功だったと首相官邸は言う。

しかし、EU外交官が独紙フランクフルター・アルゲマイネに語り、その後ツイッターや英各紙の報道で広まった内容によれば、夕食会は「ひどかった。実にひどかった」ことになる。

この外交官はさらに、ブレグジットへの期待感という意味で、英政府は今やEUとは「別の銀河にいる」とさえ言った。

かなり刺激的な物言いだが、誰が本当のことを言っていて、誰が真実を歪めているのだろうか。

仏大統領選のマクロン候補もブレグジットについて考えを述べている

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正式交渉が始まる前の不安定な状況で、英国やドイツ、フランスの主要各国が選挙を控え、EUが全体として団結し存在意義や威力を示そうと努力している状況だ。その中にあって、偏った説明には極力、神経をとがらせる必要がある。

例えば、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が先週語った、英国がブレグジットについて「幻想」を抱いているという発言がそうだ。また、フランスの大統領選で最有力候補とされるエマニュエル・マクロン前経済相が、仏北部カレーのいわゆる「不法移民」をめぐる英仏合意をブレグジット後に破棄すると述べた発言もそうだ(ドーバー海峡を越えて英国入りを目指す移民は、英仏合意でカレーに留め置かれている)。

しかし、強硬に聞こえるこうした発言はせいぜい、英政府向けだというのと同じくらいに、国内向けなのだ。

とは言え、私が取材したEU高官は、彼が言う「期待感の非対称性」や、英首相官邸のブレグジット解釈が「まったく異なっている」ことが夕食会で明らかになったため、会食後の当事者たちはかなり感情的になっていたと話す。

離脱交渉に関する英政府側の発言から、EU統合の拠り所となっている基本理念や、それは変更不可なのだという点について、英政府が「よく理解していない」のが明らかになったと、この高官は言う。

確かにいくつかの課題については、EUと英国の考えの間に、銀河ひとつ分やふたつ分は距離がありそうだ。

  • 英首相官邸は、離脱交渉と並行して新貿易協定の交渉を、最初から始めると言い張っている。
  • さらに英政府は、英国内にいるEU市民の権利擁護をめぐる合意はすぐに可能だと示唆しているようだ(すぐに、とは来月予定されるEU首脳会談までにという意味らしい)。
  • 離脱前に英国が支払うべき拠出金は相当額あるというEUの主張を、英政府は認めていないらしい。

「何をたわけたことを」。英政府の言い分に、EUはいら立っている。

私が取材したEU高官は、ユンケル委員長はダウニング街に到着する前にすでにいら立っていたと話す。EU長期予算の中間見直しについて、英国が6月の総選挙が終わるまで署名しないと、直前に知らされたためだ(英国としては法にかなった判断だが、EUにしてみれば不愉快なことだ)。

加盟国全ての同意が条件となっている予算の中間見直しでは、支出増ではなく、予算の付け替えが提案されている。例えば、EUは移民の流れを止めるためのアフリカ向けの支出を急いでいる。

しかし、英国が署名するまで、見直しは凍結状態だ。

EU高官は、「(英政府は)ユンケル氏に全く予告なしに、夕食会の前夜に伝えてきた」と話した。「(EU本部のある)ブリュッセルでのことの進め方を、英政府はまったく分かっていない」。

EU代表団が全員そろった夕食会に同席していた別のEU高官にも、話を聞いた。

「『エシェック』(フランス語で破綻の意)という言葉が何度か頭に浮かんだ」とこの高官は語った。

「これまでブレグジットに関連してこの単語はあまり使われてこなかった。しかし、今では破綻の可能性も含めて準備するよう指示されている」

EU首脳の周辺では、交渉の成功確率はどの程度とみられているのだろうか。

交渉関係者は「五分五分だ。英国の総選挙後により明確になるとの期待も込めて」と話した。

EUの外交官たちは繰り返し、決して「あちら対こちら」という状況ではないと念押しする。英国を罰する意図はないし、良いブレグジットは全員にとっての利益になると。

「全ての誤解を解くのは双方にとって良いことだ」と取材先は語った。メイ首相たちも今それに気づきつつあるはずだと、消息筋は話す。

だがそれとも、我々はいまだに銀河の回転の中にいるのだろうか。(訳注:回転を意味する「spin」には、偏った説明による情報操作の意味もある)