香港は「恐怖に満ちた場所」に……民主活動家の周庭氏がBBCに語る
ケリー・アン、BBCニュース(シンガポール)
カナダに事実上亡命することを明らかにした香港の民主活動家、周庭氏(アグネス・チョウ、27)は、香港が現在、「恐怖に満ちた場所」になったと語った。
周氏は現在、「国家安全保障を危険にさらす外国勢力と結託」した疑いで取り調べを受けているが、先にカナダへの留学許可を得て香港を離れた。
現在、トロントに滞在している周氏はBBCに対し、香港に戻るつもりはないと述べた。
香港当局は、自首しなければ周氏は「一生追われることになる」とし、そのために「いかなる努力も惜しまない」としている。
周氏は、数年にわたる中国当局による激しい追及で、メンタルヘルス(こころの健康)に不調をきたし、頻繁にパニック発作を起こしていると話した。就職活動や、銀行口座を開くといった日常的な活動にも支障が出ているという。
BBCの取材に対し周氏は、「こんな制限の中でいったいどうやって、今後10年、20年、30年を生きろと?」と話した。
周氏は、羅冠聰(ネイサン・ロー)氏や黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏といった著名な活動家らと共に、香港の民主化運動団体「香港衆志(デモシスト)」を運営していた。2012年と2014年、2019年の大規模な反政府抗議運動でも、主要な役割を果たした。
2020年に警察本部包囲デモを扇動したとして、無許可集会を扇動した罪で逮捕・起訴され、有罪となった。2021年に出所している。
周氏は10日、ソーシャルメディアで、カナダに事実上亡命し、香港に戻らないと表明した。
周氏はトロントの大学院で修士取得する許可を得て、9月中旬に渡航。その際、大学の休暇中は香港に戻り、警察に報告する条件が付けられた。
BBCの取材で周氏は、香港に戻らないと決めたのは11月だったと話した。10月のうちに香港に戻る航空券を購入していたものの、逮捕される恐れや、カナダに戻れない懸念に頭がいっぱいになったという。
「最後の最後に決断した。再び逮捕されるリスクを冒したくなかったので。また中国大陸に送られるのは嫌だった」
香港にいる家族への影響を恐れているのかという質問には、戻らない決断をしたのは自分自身で、「安全」のためにこれ以上のコメントは控えると強調した。
「祖国に帰るのが怖い。それが悲しい」
自身の決断を表明したインスタグラムの投稿で周氏は、渡航に必要なパスポートを取得するために、8月に警官らに付き添われ、中国大陸へ行かなくてはならなかったと説明した。
中国大陸では、1970年代後半からの改革開放以降の中国の功績を紹介する展示会や、テクノロジー企業の騰訊(テンセント)本社に案内され、ポーズをとって写真を撮影するよう求められたという。
2021年に釈放されて以来、公の場で発言していなかった周氏は、この写真を「愛国心の証拠」として当局に利用されたくなかったため、インターネット上で発表したと語った。
「香港警察がいかに権力を乱用し、法の支配を軽んじているか、世界中に聞いてほしい」
周氏はさらに、香港の民主主義の現状に絶望感を示した。「民主化運動など存在せず、警察に踏みにじられていると感じる。誰かが何かをしたり、言ったりする余地はない」
中国政府は2020年6月、香港で反政府的な動きを取り締まる「国家安全法」を施行。以降、この法律は周氏のような活動家を標的として使われている。
香港で最も恋しいものは何かという質問に、周氏はしばらく沈黙した。その後、「正義と正しいことのために戦う」香港市民の団結を懐かしむ一方で、恐怖も感じていると説明した。
「この3年間で、香港は恐怖に満ちた場所になった。日常生活のあらゆる部分が当局によって完全に管理されていた」
「祖国に帰るのが怖い。それが悲しい」
一方、強制送還を恐れているかという質問には、トロントに「秘密警察」が存在することを懸念していると認めた。
人権擁護団体は、中国がカナダを含む外国で、無届けの「警察の出先機関」を運営していると非難している。中国はこうした主張を否定している。
「もちろん、外出するときは用心深く慎重になるつもりだが、香港でのこの3年間でできなかったこともやってみたい」と、周氏は話した。
周氏は現在、学業を終えて精神的な健康を取り戻すことに集中しているが、それ以上の計画は立てていないという。
「私の望みは、安全に生きるだけでなく、自由に生きること」