英移民担当相が辞任 不法入国者のルワンダ移送法案に与党右派が不満

ロバート・ジェンリック移民担当相

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イギリス政府は6日、小型ボートなどで英仏海峡を渡ってイギリスに来る不法入国者をアフリカ・ルワンダに移送する計画について、緊急法案を策定した。英最高裁は同計画が人権法に違反するとの判断を下しており、法案はこれに対応するもの。しかし、ロバート・ジェンリック移民担当相は同日、法案の内容が「十分踏み込んだものになっていない」と批判して辞任した。

物議を醸している、不法入国者をルワンダへ移送する計画は、2022年4月にボリス・ジョンソン首相(当時)が最初に発表した。以来、法的な異議申し立てに直面してきた。

英政府は、不法入国した人をルワンダに移送し、そこで亡命申請手続きを行わせるために、ルワンダ側に1億4000万ポンド(約262億5000万円)をすでに支払っている。

リシ・スーナク英首相は11月、最高裁の判断を受け、法的な異議申し立ての「堂々めぐりを終わらせる必要がある」と述べていた。

法案は、人権法違反だとする最高裁判断の適用を回避するため、人権法の主要部分の適用除外を裁判所に命じる内容となっている。また、ルワンダへの強制移送の妨げとなる、イギリスの他の法律や、難民条約などの国際的ルールについても、適用除外を求めている。

政府は緊急法案について、亡命希望者にとってルワンダが安全な国だと、イギリスの法律で明示するものだと説明していた。

しかし、与党・保守党の右派が望むほど踏み込んだ内容ではなかった。11月に内相を解任されたスエラ・ブラヴァマン氏ら保守党右派は、人権法や欧州人権条約(ECHR)、難民条約、そのほかすべての国際法を無効とすることを求めていた。

移民担当相、辞任の弁

移民担当相を辞任したジェンリック氏は、「法案に対する法的措置が延々と続き、(不法移民のルワンダ移送)計画そのものが凍結されかねない」ため、政策実施を可能にするさらに強力な措置が必要だと述べた。

ジェンリック氏はスーナク首相への辞表の中で、首相が緊急法案をめぐり「私の立場に近づいて前進した」としつつ、「それでも私には、現在の法案を下院審議にかけて通過させることはできない。計画成功にとって最善の機会をもたらす法案だとは思わないので」と述べた。

そして、法案は「経験より希望的願望が優先される」内容になっていると付け加えた。

ジェンリック氏は法案について、小型ボートのイギリス到来を阻止するため政府が「必要なことは何でもする」と国民に向けて証明する、「最後の機会」だったと述べた。

一方、スーナク首相はジェンリック氏の辞任について、「この状況をめぐる根本的な誤解に基づくもの」で「残念」だとした。

スーナク氏によると、「国際法違反だされかねない法律をもとに、イギリスがこの(移民移送)計画を実施すること」を、ルワンダ政府は決して容認しないと態度を明示している。

ブラヴァマン前内相たちの「一線」

法案は、個々のケースが検討されている間、閣僚がフランス・ストラスブールにある欧州人権裁判所からの緊急命令を無視し、ルワンダへのフライトを一時的に停止することを可能にする。ただ、欧州人権条約のすべてを拒否する権限を与えるものではない。

また、移民はルワンダに強制移送されることで深刻な危険にさらされることを証明できれば、特定の個別の理由にもとづいて合法的に異議申し立てができる。

ブラヴァマン氏に近い情報筋は、この法案には「致命的な欠陥」があり、何カ月にもわたって法廷の泥沼闘争にはまることになるだろう」と述べた。

しかし、仮に政府がブラヴァマン氏の要求に応じていれば、保守党の中道派からの反発を招いたと予想される。

100人以上の保守党議員で構成されるワン・ネイション・グループは、ECHRの無効化は多数の保守党議員にとって「レッドライン」(越えてはならない一線)だと警鐘を鳴らしていた。

同グループは「法の支配を支持するイギリスの国際公約を守り続けるという政府決定」を慎重に歓迎しつつ、懸念や法案の実用性については」法的助言を求めると付け加えた。

保守党内の空気

政府が移民問題で前に踏み出そうとしていた最中に、かつて重要な盟友だったジェンリック氏を失ったことは、スーナク氏にとって痛手となった。

最大野党・労働党のイヴェット・クーパー影の内相は、「スーナク氏がルワンダ計画の新法案を発表するために下院で着席している間にも、スーナク氏側の移民担当相が、それはうまくいかないはずだと辞任した。保守党内が完全にカオス状態にあり、スーナク氏の指導力が完全に崩壊していることの表れだ」と指摘した。

BBCのベッキー・モートン記者によると、政権幹部らは身内の間で、与党議員たちがスーナク氏に対して不信任投票を実施しても意外ではないとささやきあっている。

実際にそうした事態にはならないかもしれないが、保守党議員の多くがいかに暗い気持ちでいるかがうかがえると、モートン記者は指摘する。