議員辞職のジョンソン元英首相、盟友議員2人も辞職 「パーティーゲート」めぐり

Prime Minister Boris Johnson delivers a farewell address before his official resignation at Downing Street on 6 September 2022 in London, England

画像提供, Getty Images

画像説明, 2022年9月に首相官邸前で退任のスピーチをしたジョンソン氏

英下院への虚偽答弁を問題視されボリス・ジョンソン元英首相が下院議員を辞職した中で、ほかにジョンソン氏の盟友の与党・保守党議員が2人、10日までに議員辞職した。これで3カ所の選挙区で補欠選挙が行われることになり、リシ・スーナク首相にとっては懸案が募る事態となった。

ジョンソン氏は2020年から翌年にかけて、新型コロナウイルス対策のロックダウン中に首相官邸でパーティーがたびたび開かれていた問題について、感染対策のルールとガイドラインは「常に守られていた」などと首相当時、下院で答弁した。これをめぐり、調査していた議会特別委員会が報告書をジョンソン氏に提示。事実と異なる答弁をして下院をミスリードしたとして、数十日間の資格停止手続きに入るとジョンソン氏に伝えたとされる。

これがその通り実施されていれば、ロンドン近郊にあるジョンソン氏の選挙区「アックスブリッジおよびサウス・ライスリップ」では、有権者から辞職請求が出され、補欠選挙となっていた可能性がある。

ジョンソン氏は9日、特別委の報告書草案を見たとして、議員辞職を発表した。特別委員会の対応は「魔女狩り」で、報告書は「偏見」に満ちて「間違いだらけ」、自分を「議会から追い出そうとする」一連の動きは、「事実とは関係なく私を有罪にしようとする」「いかさま裁判の定義そのもの」だとと非難した。

英下院では通常、審議中に閣僚がわざとうそをついたり、議会をミスリードしたりしたと発覚した場合、それは辞職・解任理由になる。議会をミスリードするとは、虚偽と知りながら議会に虚偽の情報を事実であるかのように提示し、誤った方向へ議会を導くことを意味する。

議会特別委は12日にも集まり、調査の最終結果をまとめ、数日中にその内容を公表する見通し。

Boris Johnson attending a June 2020 event in Downing Street

画像提供, Cabinet Office

画像説明, 英首相官邸の閣議室で開かれたジョンソン氏の誕生日を祝う集まり(2020年6月)

最大野党・労働党のアンジェラ・レイナー副党首はBBCに対して、ジョンソン氏は「逃げ出した」のだと非難。「私に言わせると、彼は卑怯者だ」と述べた。

ロックダウン中の官邸でのパーティー問題、いわゆる「パーティーゲート」は、下院の基準・特権特別委のうち、特権特別委が調査してきた。基準特別委の方の委員長を務める労働党のサー・クリス・ブライアント議員は、特権特別委の調査報告を攻撃するジョンソン氏の発言自体が、報告書の内容の「実質的な漏洩(ろうえい)」にあたり、いっそうの議会侮辱として処罰対象になり得ると指摘した。

「議会委員会への攻撃は、下院全体への攻撃に等しい」と、ブライアント議員はBBCラジオに話した。同議員は、パーティーゲートの調査にかかわっていない。

3カ所で補欠選挙へ

12 May 2022: Prime Minister Boris Johnson and Culture Secretary Nadine Dorries during a visit to a stadium in Birmingham. Picture date: Thursday May 12, 2022

画像提供, PA Media

画像説明, 首相当時のジョンソン氏と、その下で文化相だったドリス氏(2022年5月12日、バーミンガム)

ジョンソン氏が議員辞職を発表する少し前、長年の盟友でジョンソン政権下の文化相だったナディーン・ドリス議員が議員辞職を発表。続いて10日には、ジョンソン政権下で無任所大臣だったナイジェル・アダムズ議員が、辞職を発表した。

アダムズ議員はすでに次の総選挙に出馬しないと発表していた。議員辞職をなぜ前倒しにしたのかは、明らかにしていない。

ただちに議員を退くとツイッターで発表したアダムズ氏は、イングランド北部ヨークシャーのセルビーおよびエインスティ選挙区において、地元の保守党協会は補欠選挙のためすでに新しい候補者を選んだと書いた。

A Labour party activist takes a picture of Danny Beales (centre), Labour candidate for the Uxbridge and South Ruislip constituency, during a rally on Long Lane in Uxbridge, west London, where a by-election has been triggered by the resignation of former prime minister Boris Johnson. Picture date: Saturday June 10, 2023.

画像提供, PA Media

画像説明, ジョンソン元首相の選挙区で補欠選挙に向けて活動を本格化させた最大野党・労働党の候補、ダニー・ビールズ氏(中央)と支持者たち(10日、ロンドン近郊アクスブリッジ)

ジョンソン氏とドリス氏が辞職する前の時点で、保守党の下院議席は全野党よりも64議席上回っていた。2019年末の総選挙で当時のジョンソン首相率いる保守党が圧勝した時点では、保守党は野党を80議席上回っていた。

保守党内では

スーナク首相はこの件について、今のところ発言していない。ジョンソン氏を調査した下院特権特別委には保守党の委員も4名含まれるが、いずれも発言していない。

保守党関係者の多くはBBCに対して、名前を出しての発言は断りつつも、現在の混乱に困惑していると明かしている。特に、現状で補欠選挙を3カ所で行うことへの不満が高まっている。

補欠選挙にはエネルギーも資金もかかる。保守党としてはそれよりも具体的な政策課題や、2025年1月末までに行われなくてはならない次の総選挙に、努力を傾注したいところだったという意見が党内には多い。

加えて、ジョンソン氏とその仲間が下院特権特別委およびその委員たちの行動規範を非難したことに、党派を超えて議会内に怒りが広まっている。特別委の委員たちは党派性を超えて行動することが求められ、報告書の公表前に内容について公に発言することは認められていない。

一方で、ジョンソン氏が首相退任時に推挙した叙勲リスト(今月9日に発表)で「デイム」となったプリティ・パテル元内相は、ジョンソン氏を「政治的な巨人」とたたえた。

同様にジョンソン氏による叙勲リストで「ナイト爵」を授けられた、保守党下院議員のサー・マイケル・ファブリカントは、下院特権特別委によるジョンソン氏の扱いは「ひどいものだ」と批判した。

保守党議員のサー・ジョン・レッドウッドはスーナク首相に「急ぎ発言」するよう求め、「熱心なボリス(ジョンソン)ファンや強力なリズ(トラス)ファンに、今の保守党は全ての保守党支持者のためのものだと、安心させなくてはならない」とBBCに話した。

他方、保守党重鎮でジョン・メイジャー政権で幹事長だったクリス・パッテン卿は、ジョンソン氏の辞職で「イギリス政治と保守党にとっていささかみじめな時期がこれで終わる」と期待したいとBBCに話した。

さらにパッテン卿は、下院特権委の報告書が「非民主的」だというジョンソン氏側の攻撃について、「そんなことは全くない」と一蹴。

「(ジョンソン氏は)自分が批判されたと言いたいだけだ(中略)たらたら文句を言うのをやめて、明らかに自分が得意なことをどんどんやるべきだ。それはつまり、あちこちでとりとめもない演説をして回って、それで大もうけをする。それが彼は得意なんだから」