ドイツが劇的な政策転換 「プーチンの戦争」きっかけに

デイミアン・マクギネス、BBCニュース(ベルリン)

Supporters of Ukraine demonstrate with cardboards reading "why not just peace", "stop war" and "Putin, war criminal" in Berlin, Germany, 27 February 2022.

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画像説明, 「戦争やめろ」などのプラカードを掲げ、大勢がロシアのウクライナ侵攻に抗議した(27日、ベルリン)

2月27日はドイツにとって、本当に歴史的な日だった。オラル・ショルツ首相は昨年12月に就任したばかりだが、この日1日で、現代ドイツの外交政策を一変させた。

連邦議会の緊急審議で、ショルツ首相は2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を国防費に追加し、連邦軍の装備強化などに充てると報告した。集まった議員はざわめき、一部は拍手したものの、ブーイングの声も出た。呆然とした表情の議員もいた。

議場の反応にひるむことなく、ショルツ首相は続けて、1週間前には考えられなかった大胆な措置を次々と発表した。国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約し、ドイツがウクライナに武器を直接供与する方針も示した。

これまで他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は長年、ドイツの国防費引き上げを求め続てきたがドイツはそれに応じなかった。他のNATO加盟国のこの長年の目標を、プーチン大統領は数日で実現したことになる。

戦後ドイツで外交政策がこれほど大転換したケースは、ほとんどない。

German Chancellor Olaf Scholz receives a standing ovation while addressing an extraordinary session, after Russia launched a massive military operation against Ukraine, at the lower house of parliament Bundestag in Berlin, Germany, February 27, 2022.

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画像説明, ショルツ首相が連邦議会で対ロ政策の転換を発表すると、多くの議員が立ち上がって拍手した(27日、ベルリン)

ロシアが24日にウクライナに侵攻するまで、このような軍事的姿勢は、ほとんどのドイツ人に受け入れられなかっただろう。

戦後のドイツ政府は長年、軍事力ではなく外交と対話を重視してきた。そしてロシアとドイツの間には歴史的に、深い経済と文化の結びつきがある。

多くのドイツ人はロシアが好きだし、ロシア文化に魅了されている。そのため、ロシアに関する政治議論で飛び交う意見は常に多様で、繊細なニュアンスを伴うものだった。ドイツ人の多くは、ロシア政府の視点を少なくとも理解しようと努力していた。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻はドイツの政府と有権者に、強い衝撃を与えた。政府も有権者も、ロシアが引き起こした事態に当初はぼうぜんとしていた。

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ドイツ社会民主党(SPD)の元党首で今ではロシア・エネルギー業界のロビイストとなったゲルハルト・シュレーダー元首相をはじめ、ロシア政府と親しい著名人を、国民の多くは問題視するようになった。左派党のザーラ・ヴァーゲンクネヒト副党首のようについ先週まで、ウクライナに関するプーチン氏の主張に理解を示していた政治家は今では、自分たちが間違っていたと認めている。

ロシア国民への支持は続いている。ショルツ首相が27日の議会で、反戦を訴えるロシアの人たちの勇気をたたえると、議員たちは長いことスタンディングオベーションを続けた。しかし、ロシア政府に対してわずかでも残っていた共感は、ドイツ人が「プーチンの戦争」と呼ぶようになったもののせいで、打ち砕かれてしまった。

ドイツ外交政策の劇的な転換は、現在の連立与党の顔ぶれを思えば、なおさらこれはすごいことだ。今の連立政権を担う政治家たちは、軍事予算を増やして喜ぶ、タカ派の冷戦戦士とは程遠いからだ。

Olaf Scholz seen with parliamentary colleagues in the Bundestag including Katrin Goering-Eckardt wearing blue and yellow (27 Feb 2022)

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画像説明, ショルツ首相(中央)が率いるSPDの複数議員や、連立与党・緑の党のエッカート議員(写真左)は、ウクライナ国旗の水色と黄色を身に着けて登院した(27日)

中道左派のSPDは伝統的に、ロシアとの対話の力を信じてきた。SPDは時に、ノスタルジックなまでにロシアが好きで、ベルリンの壁崩壊とドイツ再統一を可能にしたのは軍事的な圧力よりも、しつこいまでの冷戦外交だったと深く信じている。

そのSPDと連立する緑の党は、平和主義政党を自認している。党としてのルーツは1960~70年代の西ドイツで起きた平和運動にある。3つ目の連立与党、自由民主党(FDP)は企業寄りの政党で、減税と政府の支出削減、貿易拡大と経済成長を重視する。

それでも、ロシアとの外交は行き詰まったと27日についに宣言したのは、SPDから出た首相だった。そしてショルツ氏は、かつてないほどタカ派的な対ロ政策を宣言した。

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緑の党から政権入りしているアンナレーナ・ベアボック外相は議会で、ドイツは確かにウクライナに武器を供与すると確認した。リベラル派のクリスティアン・リントナー財務相は議会に、最上級の制裁が必要だと呼びかけた。たとえドイツ経済に大打撃を与えるとしても。

「それでも私たちはその代償を負わなくてはなりません。それが自由の代償だからです」と、リントナー氏は言った。

Former German President Joachim Gauck (R) hugs Ukrainian ambassador to Germany Andrij Melnyk (L) prior to a government declaration at the German parliament "Bundestag" in Berlin, Germany, 27 February 2022

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画像説明, 政府の対ロ政策発表に先立ち、ウクライナのメルニク駐独大使(背中)と、ガウク独元大統領が抱擁した(27日、ベルリン)

平和維持活動についてドイツに根強くあった政治的な固定概念には、疑問符が付き始めている。左派政治家や多くの有権者は、武器調達費の拡大に否定的だ。

それでも、ウクライナ侵攻が始まって以来、もしウクライナで成功したら、プーチン氏はそこでやめないかもしれないという気づきが広まっている。

それゆえドイツ政界の主流派は、ドイツが軍事費を増やす必要があると受け入れた。NATOの同盟諸国を守るため。そして自分たちを守るため。ウクライナはいきなり、とてもベルリンに近く感じられるようになった。

それに気づくのが遅いと批判する声は、ドイツ内外にある。しかし今週になるまで、これほど強力で大胆な行動を、ドイツではほとんどの有権者も政治家も、絶対に受け入れなかったはずだ。これほどタカ派的な姿勢をとれば、かえって紛争を悪化させかねないという心配が、つきまとったはずだ。

しかし、「プーチンの戦争」が、すべてを変えた。