犬は人間の最も古い「親友」 DNAから判明

ポール・リンコン科学編集長、BBCニュースウェブサイト

Chihuahua standing on a Great Dane

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画像説明, グレート・デーンの上に乗るチワワ

人間の「一番の友達」と呼ばれるイヌが、人間と一番古くからのつきあいの動物かもしれないことが、最新のDNA研究で明らかになった。イヌの家畜化は氷河期末期の1万1000年前で遡れるという。

人類が初めて家畜化した動物がイヌだったことが、これで確認された。

氷河期末期、イヌ科の動物は北半球全体に生息しており、この時点ですでに5種類に分かれていたという。

欧州諸国が世界中に植民地を作っていた時代に、欧州の犬が世界各国に広がった。それでもアメリカ大陸、アジア、アフリカ、そしてオセアニアの各地域には、現在でも古代からの在来種が生き残っている。

学術誌「サイエンス」に掲載された今回の研究論文は、人間に近いイヌ科の自然史で空白だった部分をいくつか補っている。

共同著者で英クリック研究所・古代ゲノムラボ所属のポンタス・スコグルンド博士は、「あらためて考えてみれば、イヌというのはかなり奇妙でユニークな生き物だ。人間がまだまだ狩猟・採集民族だった時代に、野生の肉食動物を家畜化したのだから。世界では今なお、オオカミはかなり恐れられている存在なのに」と話した。

「なぜイヌを家畜化したのか? どうやったのか? そこが究極的に知りたいことだ」

Rhodesian Ridgeback
画像説明, ローデシアン・リッジバッグ・ドッグ

人類は家畜化したイヌと共に移動したため、イヌ科の遺伝子の一部はヒトの遺伝子パターンを模している。一方で、重要な違いもあるという。

たとえば、初期に欧州に住んでいたイヌは多様性に富んでいた。元をたどれば、近東とシベリアに生息していたまったく異なる2つの種類から、派生したと考えられている。

しかしその後、恐らく青銅器時代に、特定の種類のイヌが欧州全体で広く飼育されるようになり、欧州全土で他の種類のイヌに取って代わった。この変化には、欧州に住んでいた人間の遺伝子パターンとの対応は見られないという。

この研究を主導したアンデルス・ベルグシュトルム氏は、「4000~5000年前以上を振り返ると、欧州はイヌに関して非常に多様性に富んだ場所だった。現在、欧州の犬はさまざまな大きさや形をしているが、遺伝学的にはかつて存在した多様性のごく狭い一部から派生したものに限られている」と説明した。

今回の調査を行った国際研究チームは、さまざまな古代文明と関連する古代のイヌの遺骨から、ゲノム(細胞核に入っている全ての遺伝情報)を採取。計27件を分析した。その後、これらのゲノムを現代のイヌのものと比較した。

その結果、アフリカ南部のローデシアン・リッジバッグ・ドッグや、メキシコのチワワやショロイツクインツレといった犬種は、古代の在来種の遺伝情報を今も維持していることが分かった。

New Guinea singing dog

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画像説明, ニューギニアン・シンギング・ドッグ

一方、東アジアの犬の祖先は複雑だ。中国種の祖先はオーストラリアのディンゴやニューギニアン・シンギング・ドッグと関連があった可能性があるが、その他の犬種は欧州やロシアのステップ高原からやってきたものだという。

ニューギニアン・シンギング・ドッグは、高い音程の遠吠えが「歌う」ように聞こえることから、その名前がついた。

共著者のグレガー・ラーソン氏(英オックスフォード大学)は、「イヌは人間にとっても、最も古いつきあいの、そして最も身近な動物のパートナーだ。古代のイヌのDNAを使った調査で、イヌと人間がどれだけ長いこと一緒に過ごしてきたかが明らかになった。究極的にはいつ、どこでこの深い関係性が始まったのかを理解する助けにもなるだろう」と述べた。

イヌは、食べ物のにおいを追って人間の集落にたどり着いたオオカミから進化したのだろうと考えられている。家畜化される中で、狩猟や護衛といった役割も担うようになった。

今回の調査結果では、すべての犬種がもとをたどれば、すでに絶滅した特定のオオカミ種か、その近接種にたどりつく可能性が示唆されている。もし世界中でオオカミの家畜化が行われていたなら、他の血筋は現在のイヌのDNAにそれほど貢献していないことになる。

スコグルンド博士は、最初の家畜化がいつ、どこで行われたのかは明らかになっていないと話した。

「イヌの歴史は非常にダイナミックで、DNAを読むだけでは確信は得られない。まだ分からないことだらけだが、それが魅力的な理由でもある」

ネコなどの多くの動物は恐らく、約6000年ほど前に人類が農耕のため定住を始めたころに家畜化された。ネコは恐らく、人間の密集生活で出るごみに集まる、ネズミなどの害獣駆除に役立っていた。そのため、ネコの家畜化は農業が興った近東地域で始まった。

スコグルンド博士は、「一方でイヌはあらゆる場所に存在できたはずだ。寒いシベリアにも、暖かな近東や東南アジアにも。こうした場所全てに可能性があると考えている」と述べた。