伝統的な建築様式×現代の技術が融合。宙に浮くレジリエンス(適応)住宅
アメリカ西海岸の避暑住宅のシーランチや関西の屋根形式である大和棟など複数の要素を踏襲した外観。高床住宅は洪水時の備えにもなる
2022.04.20

伝統的な建築様式×現代の技術が融合。宙に浮くレジリエンス(適応)住宅

古くからある集落に建てた、高床式住宅。日本の風土で培われてきた木造建築の技と太陽光発電をはじめとした 現代技術のかけ算で生まれた防災・復旧を叶える家

TRIP
119

Nさんは長年、日本の民衆文化や世界各国の建築物を専門としてきた歴史研究者。東日本大震災以降は、さまざまな人々が千年単位で居住した可能性のある地域を調べるようになっていた。その中で出会ったのが、茨城県郊外のとあるエリアだ。人里としての歴史の深さとともに、果てしなく広がる田園風景に魅了されたという。東京から移住し、ここで培われてきた営みを体験していこうと決めた。

物件データ 所在地/茨城県
面積/82.81㎡
築年月/2021年3月
設計/福島加津也+中谷礼仁
千年村計画
mille-vill.org
福島加津也+冨永祥子建築設計事務所
ftarchitects.jp

古今東西の建築に造詣のあったNさんには、建てたい家のイメージがあった。特に外せなかったのが、木造の高床構造であること。高い位置に居室があると、いろいろなものを俯瞰できて気持ちがいいというのが理由だ。「稲穂がそよぐ田んぼを眺めたり、コオロギの鳴き声を聞いたり。毎日、違う風情を味わっています」(Nさん)

室内は正方形を 9 分割にした間取り。勝手口を入るとすぐキッチンで、生活動線に沿ってダイニングやバスルームなどが配されている
遠景から近景までを望む開口部。昔の民家に倣い、半屋外の土間を出入口に。バーティカルブラインドとよろい戸で目隠しと防犯対策

メイン設計を託したのは、研究活動を共にし、同じような知見を持っていた建築家の福島加津也さんだ。高床式の木造住宅を建てる場合、建物底面と地面の間に満遍なく柱を立てて支えるのが一般的だが、福島さんは類のない発想をした。中央部に太い柱を4本立て、複数の斜材を立体的に組み合わせて耐久性を確保し、宙に浮かせたような形にしたのだ。「柱を集約させたことで、地上に開放的な空間が生まれました。心理的なのびやかさがあり、格好のコミュニティーの場になるでしょう」(福島さん)

開放感あふれる吹抜けの広間。北側の天窓には乳白フィルムを貼り、柔らかな日差しが注ぐように。冷暖房は床下エアコンと壁付けのエアコンで行う

この家のもう一つの特長が、災害から生活を守る防災機能を備えていること。電気自動車の蓄電池を活用した太陽光発電システムを完備し、万一のときはエネルギーを自給自足できる。しかしNさんは、防災に必要なものは、設備や機能だけではないという。 「太古から続く集落は、一見、目立たないものですが、欠点になり得る地盤や地形を使いこなし、協力して物事を乗り越える知恵と文化を育んできました。その宝物に触れられたら、こんなにうれしいことはありません」

柱と斜材は、通路をじゃましない位置に配置。民家の田の字型の間取りから着想し、一部の部屋は薄暗くして過ごし方に変化が付くようにした
太陽光発電システムは、環境エンジニアの協力を得てオリジナルで製作。三角屋根に設置された太陽光パネルから、蓄電池に電気が送り込まれる

いつか自宅で寺子屋教室を開けたらと語るNさん。旧来の建築様式から導いた新発想の住まいは、未来への期待をも表している。

各国の建築手法や文化的なモチーフが融合した N 邸。書斎は住宅風仏堂にヒントを得て一段高く
text_ Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

HOMETRIP Styles of living

  • <
  • /
  • <
close
prev
next
athome
このサイトに掲載している情報の無断転載を禁止します。