小さな歯車 大きな力に 造形作家・水越亘将さん(富士宮市)【表現者たち】
全長約40センチのタイが載った木製のオブジェ。大小13個の歯車が収まる装置のハンドルを回すと、カタコトと鳴る木の音に合わせてタイの口や尻尾、ひれなどがゆったりと動く。
木で作った海の生き物を滑らかに動かすのは造形作家の水越亘将[のぶまさ]さん(66)=富士宮市=。日本や西洋のからくり人形で一般的に使われるモーターや金属部品を使わず、木だけで完成させる独自の造形を「ウッドメカニカル」と名付けた。「目指しているのは機能性とデザインが融合したサイエンスアート」。思わず笑みがこぼれるタイのとぼけた表情など、遊び心をしのばせる。
同市で生まれ育った。22歳から市の生涯学習指導員としてクラフト講座を担当。木彫や石彫、空間デザインなど、興味を持ったものは貪欲に学んだ。
現在の作風の端緒をつかんだのは44歳の時。新たな創作を模索して画帳に好きなこと、関心があることを単語で書き連ねた。線で結び付けると、木で作る海の生き物やロボットを歯車で動かすアイデアが浮かび上がった。
創作は、頭の中に物語の世界を構築することから始める。「キャラクターの輪郭が明確になって、作り手として感情移入できる」。海の生き物をテーマにしたのは「人間の社会に似ていると感じたから」という。泳ぎを止めると死んでしまうマグロはサラリーマン、その横を悠々と泳ぐマンタは気ままな自由人、アンモナイトは変化を好まない頑固者、深海魚は闇の世界で暗躍する人-。
8月、作品を一堂に集める個展を初めて開催する。「現代は中の仕組みが見えない製品があふれている。小さな歯車が噛[か]み合って大きな力を生む構造から、創作の豊かさや奥深さを感じてほしい」
(教育文化部・柏木かほる)
個展は8月5日から9月3日まで御前崎市の静岡カントリー浜岡コース&ホテルで開かれる。