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地震防災センター 新たな利用法を模索

 南海トラフ巨大地震による被害が想定される静岡県で、県民の防災知識や技術の向上を目的に設置された地震防災センター(静岡市葵区駒形通)。コロナ禍や地理的な要因で利用者数が伸び悩んでいました。そこで新たにネット上で展示を閲覧できるサービスを開設し、利便性の向上を図ります。そもそもどんな施設でしょうか。体験しながら自然災害や防災について学べるセンターについてまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

デジタル版を開設へ ネット上で閲覧、災害の疑似体験も

 静岡県は2022年度、デジタル地震防災センターをインターネット上に開設する。静岡市葵区の同センター内の展示をネット上で閲覧できるようにし、県民の利便性を高める。年度内に着手し、23年1月の開設を目指す。10日に発表した22年度当初予算案に事業費1300万円を盛り込んだ。

デジタル防災センターのイメージ(静岡県提供)
デジタル防災センターのイメージ(静岡県提供)
 県民の防災意識高揚を目指し、同センターは1989年に開設された。東日本大震災や近年激甚化する風水害などの知見を加え、20年6月にリニューアルオープンしたが、コロナ禍と重なり、新たな利用方法を模索していた。
 新たに開設するサイトでは、360度カメラで撮影した3D映像により、センター内を疑似見学できる。館内に設置した地震の仕組みや災害対策など137の解説パネルも見られるようにする。また、地震・津波や風水害などの災害を疑似的に体験できるVR(仮想現実)映像を制作する。
 同センターは静岡市にあるため、利用者が県中部地域に集中する課題を抱えていた。21年度は12月時点で中部1万505人に対し、東部5149人、西部2164人。担当する県危機管理部危機情報課は「地理的条件で気軽に来館できない県民や、高齢者、障害者など個別の事情で来館できない県民に防災について学習できる機会を広く提供したい」としている。
〈2022.02.12 あなたの静岡新聞〉

どんなところ? 体験型施設として1989年オープン

 地震防災の知識・対策の啓発や自主防災組織の活性化支援などを目的として、県が1989年4月に設置した。大規模地震の被害想定などを学べる東海地震コーナー、地震の揺れを体験できる起震装置、防災用品展示コーナー、地震防災ライブラリーなどがある。ホールや会議室で、県民向けの人材育成研修なども開催している。2014年4月に一部展示施設を改修した。静岡市葵区駒形通。

静岡県地震防災センター(2010年撮影)
静岡県地震防災センター(2010年撮影)
〈2014.07.27 静岡新聞朝刊より抜粋〉

2020年にリニューアル 風水害や噴火災害展示が充実

 県の防災情報の発信拠点「県地震防災センター」(静岡市葵区)が大規模改修を終え、一般公開を再開した。従来から力を入れてきた地震・津波に加え、近年増加している風水害と、富士山の噴火災害の展示を拡充。大型スクリーンやプロジェクションマッピングを新たに導入して体験面が強化され、現実感を持って理解しやすくなったのが印象的だ。

エントランスでは大型の本県地図がお出迎え。沿岸部には2次元バーコードがあり、読み込むと津波の高さを表示する
エントランスでは大型の本県地図がお出迎え。沿岸部には2次元バーコードがあり、読み込むと津波の高さを表示する
 地震・津波コーナーの目玉は、地震の揺れを体験する起震装置。想定南海トラフ巨大地震や東日本大震災など6種類を、実際の揺れ方を基に再現。壁一面の大型スクリーンに映し出された風景の揺れと、足元の揺れが連動する。東日本大震災の大きな横揺れや、直下型の阪神大震災の急な揺れに驚く。手すりにつかまって準備しているからいいものの、不意だったら怖いだろうと実感する。
 新設の火山災害コーナーは、富士山が噴火した時の溶岩流や噴煙などの様子を、立体模型に投影した映像で観察し、被災規模の大きさを理解できる。自分が住む地域や知っている道路が溶岩流に埋まる様子を見ると、災害への意識も変わりそうだ。
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富士山が噴火した場合の溶岩流の広がりを伝える立体模型。プロジェクションマッピングで時間を追って表示する=静岡市葵区

 自然災害の脅威を啓発する大画面シアターでは津波襲来の大きな音と共に客席の床がブルブルと震動し、臨場感がある。
 新型コロナウイルス感染症対策で注目を集める段ボールベッドや、車中泊を快適にする工夫も、実物を見て体験できる。自主防災組織の装備品や、自宅の家具の固定方法など身近な防災知識の紹介も充実している。
 センター利用者は県内外の自主防災組織や学校、消防団などの団体が全体の8割を占める。個人でも利用できる。年間利用者数は2011年の約8万人をピークに低下傾向だったが、県は改修を機にてこ入れを図る。
〈2020.06.14 静岡新聞朝刊〉

目玉の一つは「起震装置」 南海トラフなどの想定震度を体感

 地震や津波、台風などの大規模災害時、県内の外国人はどうやって命を守り、避難することができるか―。東日本大震災から10年を迎える中、外国人の増加が続く県内でも防災の知識や意識の向上、分かりやすい情報発信の在り方など、課題解決に向けた取り組みが続いている。

南海トラフ巨大地震で想定される震度7の揺れを体験する外国人ら。防災意識の向上がはかられた=6日、静岡市葵区の県地震防災センター
南海トラフ巨大地震で想定される震度7の揺れを体験する外国人ら。防災意識の向上がはかられた=6日、静岡市葵区の県地震防災センター
 緊急地震速報が鳴り響いた直後、起震装置にいた外国人は南海トラフ巨大地震で想定される震度7の揺れに足をすくわれた。6日(※2021年3月)、静岡市葵区の県地震防災センターで開かれた防災セミナー(市国際交流協会主催)。「怖かった。これまで大きな地震に遭ったことがないから不安」。同市清水区のベトナム人技能実習生レー・ヴァン・ロンさん(20)はおびえた様子で話した。
 セミナーには企業で働く人材や学校の外国語指導助手(ALT)ら約30人が参加し、防災の基本を熱心に学んだ。県によると、新型コロナウイルス感染症に伴う渡航制限がありながらも、2020年6月末の本県在留外国人数は10万237人と19年末と比べ微増。南米やアジアを中心に128の国と地域から来訪していて、多国籍化が進む。
 日本語に不慣れで文化もさまざまな外国人被災者を助けるため、県や静岡、浜松両市では発災時に「災害時多言語支援センター」を設ける体制を整える。行政が出す災害情報の翻訳や会員制交流サイト(SNS)による正確な情報発信のほか、県は各市町の相談に対応し、2市は避難所の巡回も行う。
 ただ、担当者は「通訳の要請が集中したら対応できないケースがある」(県多文化共生課)「訓練を通じて、多くの避難所に出向く難しさを感じる」(静岡市国際交流協会)と説明するなど、災害規模や状況によってはセンターが十分機能しないことが予想される。絵文字で記した案内板の用意や宗教に配慮した食料の備蓄など、各地で被災前からの対策が重要となっている。
 在住外国人が県内で最も多い浜松市の松井由和国際課課長補佐は「日々の生活から、日本人と外国人が顔の見える関係をつくることが防災上も大事になる」と指摘。言葉の壁などによって“災害弱者”となってしまう外国人と積極的にコミュニケーションを取ることで、孤立を防ぐことの大切さを強調する。
〈2021.03.14 静岡新聞朝刊〉※肩書き、年齢は掲載日時点
地域再生大賞