賭け屋 スポーツ界標的 大谷元通訳 違法賭博問題 スターの資金力目当て 信用取引で借金漬けに【表層深層】

 米大リーグのスター、大谷翔平選手を巻き込んだスキャンダルに発展した元通訳の水原一平氏による違法賭博問題。沈黙を守っていた大谷選手が25日、口を開いた。問題の背景には、大金が動くスポーツ界を違法ブックメーカー(賭け屋)が標的にする構図が浮かぶ。米メディアによると、大谷選手の口座からの送金先となった胴元は、3年前の同様の事件で捜査の延長線上に浮上。持ち金以上を「信用取引」で賭けさせる手口で、水原氏を借金漬けにした。

違法スポーツ賭博と捜査の焦点
違法スポーツ賭博と捜査の焦点


 大谷選手は「送金してくれと頼んだことも、許可したこともないです」と、関与を全面否定。自身の口座から少なくとも6億8千万円に上るとされる金を盗まれた被害者の立場を強調した。しかし、質疑応答はなく、水原氏がどのように送金したか、なぜ当初大谷選手と一緒に送金したとうそをついたか、などの疑問は解消されなかった。

 ■成長が必要
 スポーツ専門サイト「アスレチック」のファビアン・アルダヤ記者は「次の焦点。実情が分かれば、何が起きたかより正確に分かる」。全国紙USAトゥデーは「暗い秘密が暴露されることもなく、刺激的な告白や謝罪もなかった」と物足りなさを強調した。
 水原氏は通訳にとどまらず運転手や練習相手、さらにマネジャーの役割も担い、公私で支えた。口座の管理まで委ねられていたかどうかは現時点で不明だが、米国ではこうした特殊な関係が今回の事態を招いたとの指摘もあり、大谷選手に対し「成長が必要」(ロサンゼルス・タイムズ紙)との厳しい声もある。

 ■雪だるま式
 水原氏と違法賭博の胴元マシュー・ボーヤー氏が出会ったのは、2021年。米メディアによると、ボーヤー氏は当時エンゼルスで大谷選手とチームメートだった内野手と、球団宿舎でのポーカーに参加していた。
 大谷選手の関与についてボーヤー氏の弁護士は「連絡したこともない」と否定。その一方でワシントン・ポスト紙の取材には、借金が雪だるま式に膨れ上がった水原氏に、賭けを続けさせたのは「大谷選手の親友だったから」と説明した。野球界のスターの資金力を目当てに、極めて関係が近い元通訳をかもにした。
 複数の報道によると、今回の捜査は約20年間スポーツの違法賭博に手を染め、21年に逮捕された元野球選手のウェイン・ニックス氏の摘発に端を発した。米プロバスケットボールNBAの元スター選手、ピッペン氏や、元ドジャース選手のプイグ氏らスポーツ界の大物も顧客に含まれ、当局が捜査を進める中で水原氏につながった。胴元同士の接点も浮かんだ。

 ■厳格な姿勢
 大リーグ機構(MLB)も実態解明に乗り出している。1919年にはワールドシリーズで「ブラックソックス事件」と呼ばれる八百長事件があり、人気が大きく低下した苦い記憶がある。野球賭博には厳格な姿勢で、通算4256安打の大リーグ記録を持つピート・ローズ氏が89年に永久追放処分を受けた。
 ただ米国ではスポーツ賭博の合法化にかじを切る州が増え、賭け自体への抵抗感は少ない。MLBでは野球以外のスポーツに賭ける違法賭博の処分はコミッショナーの裁量に任されており、罰金程度で済んでいる。「仮に大谷選手が水原氏の借金を肩代わりしていても、前例通りなら出場停止処分は科されないだろう」(経済誌フォーブス)との見立てが一般的だ。
 (ロサンゼルス共同)

大谷の声明全文  大谷翔平選手の声明の全文は次の通り。
 僕も話したかったのでうれしく思っていますし、チーム関係者の皆さん、僕自身、ファンの皆さんも厳しい1週間だったと思う。メディアも含め、我慢とご理解をしていただいたのはすごくありがたいと思っています。
 僕自身も信頼していた方の過ちというのを悲しくというか、ショックですし、今はそういうふうに感じています。現在進行中の調査もありますので、今日話せることに限りがあるというのをご理解いただきたいと思います。詳細を分かりやすく伝えるためにまとめたメモがあるので、それに従って説明させていただきたいと思います。
 僕自身は何かに賭けたりとか、それを頼んだりということはありません。僕の口座からブックメーカーに対して送金を依頼したこともありません。本当に数日前まで、彼がそういうことをしていたというのも知りませんでした。結論から言うと、彼が僕の口座からお金を盗んで、みんなにうそをついていたということになります。
 韓国で僕の代理人に対し、メディアから僕が違法なブックメーカー、スポーツ賭博に関与しているのではないかという連絡がありました。
 一平さんはこういった取材があるということを僕には話していなかったし、某友人の借金の肩代わりとして支払ったとみんなには話していました。翌日の尋問で、一平さんは借金は自分がつくったものだと説明し、それを僕が肩代わりしたと代理人に話したそうです。これらは全てがうそだったということです。一平さんは取材依頼のことも僕には伝えていなかったし、代理人にも僕と既にコミュニケーションを取っていたとうそをついていました。
 僕がこのギャンブルの問題を初めて知ったのは、(20日の)韓国での第1戦後に行われたチームミーティングの時です。そのミーティングで彼は全て英語で話し、僕に通訳はついていなかったので完全には理解できておらず、何となくこういう内容だろうなとは理解できていたが、違和感は感じていました。彼は僕に対し、ホテルに帰った後で2人で詳しいことを話したいので今は待ってくれと言い、僕はホテルまで待つことにしました。
 僕は一平さんがギャンブル依存症だということを知らなかったですし、彼が借金をしていることも知りませんでした。僕は彼の借金返済にも同意していませんし、ブックメーカーに送金してくれと頼んだことも、許可したこともないです。
 ホテルに戻って一平さんと話をして、彼に巨額の借金があることを知りました。彼はその時、僕の口座に勝手にアクセスしてブックメーカーに送金していたと伝えました。僕はこれはおかしいと思い、代理人たちを呼んで話し合いました。その話を聞いて代理人も彼にうそをつかれていたことを初めて知り、すぐにドジャースと弁護士に連絡しました。弁護士は窃盗と詐欺なので、警察当局に引き渡すという報告をしました。
 僕はスポーツ賭博に関与していないですし、ブックメーカーに送金していたという事実はありません。ショックという言葉が正しいとは思わないですし、うーん、うまく言葉では表せないような感覚でこの1週間くらいは過ごしてきた。今はそれをうまく言葉にするのは難しいなと思っています。
 ただシーズンも本格的にスタートするので、ここからは弁護士にお任せしますし、僕自身も警察当局に全面的に協力したいと思っています。気持ちを切り替えるのは難しいですけど、今日お話しできて良かったなと思っています。
 (共同)

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