ラッパー・DOTAMAさんインタビュー スーツにメガネ、異色のサラリーマンスタイル、社会人経験が今に生きる【増刊号】

 入れ墨をたくさん入れていたり、不良っぽいスタイルをしていたりが一般的なヒップホップのミュージシャンの中で、スーツにメガネのサラリーマンスタイルで異彩を放つラッパー、DOTAMAさん。10年間のサラリーマン生活を経験。年齢を重ね、ベテランの域に入った38歳の今も、日本のヒップホップシーンでトップを走り続けている。

DOTAMAさん
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 インタビューの(上)では、異色の経歴、音楽に向き合う姿勢を聞いた。異色ラッパーの神髄に迫った。
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 ▽生活のリアル
 -ステージ上では、スーツにメガネ、ネクタイを締めるまじめなサラリーマン風のスタイルを貫いています。「ワル」を売り物にするスタイルが一般的なヒップホップでは極めて珍しい存在に思えます。
 ヒップホップは1970年代に米国で生まれ、今年で誕生50周年を迎えました。とらえ方は人それぞれだとは思いますが、僕はヒップホップは、自分の生活のリアルを歌う音楽、表現するためのカルチャーだと思っています。本格的に楽曲制作を始めたのは高校を卒業後でした。故郷・栃木県のホームセンターに就職して、社会人になって、会社員としての生活がスタートしたときに音楽をやり出した。自分のリアルってなんだろうって考え出した頃に、この働いている姿が自分の生活のリアルだと思ったんです。脱サラしてもう10年たっちゃったんですけど、会社員時代の気持ちを忘れずに、という意思も込めて、このスタイルを守っています。キャラが立ちやすいっていう打算的なところも少しあるかもです。
 ―違和感を持つファンもいるのでは。
 そうですね。もしかしたら自分のスタイルはいわゆる、マジョリティーとされているヒップホップのスタイルと比較すると違和感があるかもしれません。ファッション一つとってみても。ただ、先ほどもお話した、アーティストしての「オリジナリティー」も大切だと思ってて。このスタイルを好んでやらせてもらっています。あと、お恥ずかしながら、自分が真面目というか、神経質だというのもあるかもしれません。作品やライブもそうですが、アート表現、クリエーティブな活動をする中で、なにかしら面白いもの、新しいもの、スリリングなものを残せるように、微力ながら精進させてもらってます。
 -ビートに乗って相手を罵倒したり、悪口を言って口げんかの勝敗をつける「フリースタイル」MCバトルでは、最近も大会で優勝したり、トップ・オブ・トップを走り続けています。
 ありがとうございます。ただ、一つ訂正させてください。MCバトルはあくまで、ラッパー同士が即興でラップのスキルを競い合うものです。そのスキルの延長にディス(否定、侮辱)があります。そのため、ラップバトルはすべてが攻撃的である必要はないと思っています。そもそも、ヒップホップは米国でギャングの抗争が激しくなった時代、DJプレイやブレイクダンスのバトルで抗争のケリをつけようというのが、そもそものヒップホップにおけるバトルの役割です。僕はその精神にのっとってMCバトルに出させてもらっています。MCバトルであれだけディスを放っているので矛盾しているように見えるかもしれないですけど(笑)、MCバトルはエンターテインメント。ラッパーはアーティストだし、クリエーターなので、自分の作品やライブで表現してこそだと思っています。自分を知ってもらうための売名作業だと認識した上で、バトルに参加させてもらっています。
 -ベテランになると、真剣勝負のバトルに出なくなるラッパーも多いですが。
 そうですね。だからある程度ベテランになって、名前を知ってもらえれば出なくて良いと自分も思います。たまに腕試しで出るくらいで。ただ、新しく入って来られるリスナーさんに知ってもらうためと技術的な楽しさ。音楽としての魅力を感じながら20年出させてもらっています。あと、若い子には自分よりはるかにラップがうまいMCがたくさんいます。そんなイケている若手の子と戦わせてもらって、感動したり、新しい技を見られたりするのがものすごく楽しいです。
 -DOTAMAさんがバトルで、相手がショックを受けるようなことを言ってダメージを与えて、本気で怒らせるような場面を見たことがあります。暴力ざたになるなんてことはないんでしょうか。
 もちろん、ありますよ。ただ、これは僕の考えですが、MCバトルって文系の文化だと思うんです。一見、言葉の暴力で戦っているから、拳を交わす暴力と同じように見られがちなんですけど、違う気がする。それは本来、ラッパーが歌詞を書くという作業が、内省的な作業だからだと。作家さんに近いのかもしれません。MCバトルもその延長にあると自分は思います。もちろん、責任を意識して言葉を選ばなければなりません。あくまで理性的に。
 -音楽シーンを見渡すと、ロックとかいろいろなジャンルがある中で、ヒップホップの人気の拡大に最も勢いがあるように感じます。
 そうですね。おこがましいのですが、そんな文化、ヒップホップシーンで活動させてもらえて感謝しかありません。また、これは勝手な分析で恐縮なんですが、ラップソングとSNSとの相性もあるのかもしれません。たとえば、同じ10秒間を切り取ってみても、他のジャンルより情報量があって、楽しかったり、分かりやすい。それとMCバトルも、主催者様たちのたゆまぬ努力があり、数年前から大きな会場で開催されるようになって。ありがたいことに自分も出場させてもらっています。お越しいただくお客さまに楽しんでいただけるよう、全力で精進していくつもりです。
 ▽進学せず
 -教育一家で育ったと聞いています。高校を卒業して進学しなかったことで、波乱はありませんでしたか。
 両親が教員、祖父、曽祖父も校長先生で、教員一家でした。今でこそ応援してくれていますが、大学に進学しないことを決めたときは、両親とはちょっと関係が悪化してしまったときもあります。就職した直後は会社を辞めて、もう一度受験をと勧められたりもしていました。
 -なぜ就職して音楽を続ける道を選んだのですか。
 意固地になっていましたね。親に頼らず音楽を続けたいと。ものを知らなかっただけなんですが。ですが、仕事をしている中で気付いたことや、そこでしか得られない人生経験もあり、(就職して音楽を続ける道を)選んで良かったと思います。
 -仕事と音楽の両立は楽ではなさそうです。どのような生活だったのでしょうか。
 ホームセンターで仕事をしているときの生活リズムは、朝7時半に起きて8時半過ぎに出社、お店の前の清掃とか開店業務を行って9時半に開店。夕方6時、7時ぐらいにお店が終わるんですが、翌日にセールがあったりすると、売り場のレイアウトの変更をしなくちゃならない。20時くらいにお店を出て、21時ぐらいに帰宅。ご飯を食べてそれから曲作りです。22時ぐらいから曲を作り始めて深夜2時くらいまでかかる。体力が続く限りやって、寝て。朝7時半にまた起きる、みたいな。体力任せの生活でしたね。10年くらいそんな生活を続けていました。深夜にステージに上がって、午前4時、5時に終わって、車で仮眠して、そのまま仕事に行く、みたいな。
 -10年間続けたサラリーマン生活をやめて上京したのはなぜですか。
 20代後半になって、もう一回、本気で音楽に打ち込んでみようと考えました。ありがたいことに、地方の企業で、健康な独身社員は、いろいろとお仕事を任されるようになる。役職も上がっていく。本当にありがたいお話ですが、管理職的なポジションにチャレンジできるようになっていく。おこがましいのですが、そういったルートが見えてきたときに、二足のわらじはさすがにきついんじゃないかと。当時、会社に申し訳ないと考えました。音楽をやりながら、それはできない。かといって音楽は捨てられない。しばらく考え、この機会に、もう少し音楽を頑張ってみたいと思い、脱サラを決意し、上京しました。
 -上京して、すぐに音楽一本でやっていけるようになりましたか。
 正直、ダメでしたね。上京して最初からうまくいくはずもなく。もちろん、肉体労働のバイトもしました。いろんな業種、ブラックな環境でのお仕事もやらせてもらって。もちろん、反社や闇バイトでは一切ありません(笑)。過酷でしたが良い経験ができたとたまに振り返らせてもらっています。大変でしたが良い思い出です。(文・美濃口正共同通信記者)
 (下)に続く。
 ☆DOTAMA 1984年生まれ、栃木県佐野市出身。高校卒業後10年間の社会人経験を持つラッパー。2017年に日本最大規模のフリースタイルバトル「アルティメットMCバトル(UMB)」で優勝し、日本一に輝く。これまでにアルバム12枚をリリース。代表曲は「謝罪会見」「働き方改革」「Do The Rhyme Thing」「KINGSMAN」「BURN」など。東京・渋谷にて音楽の社交の場をテーマに掲げたライブイベント「社交辞令」を定期開催中。ヒップホップ専門インターネットラジオ「WREP」の「ラッパーDOTAMAの栃木県をぶっ飛ばせ!」でパーソナリティーを務める。

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