カネなし、コネなし、地盤なし。それでも上位で初当選 地下アイドル兼職、内定辞退…何が出馬に駆り立てた?「なり手不足」の地方議員に名乗り上げた3人の25歳

 4月の統一地方選では各地の市町村議会議員を選ぶ選挙も行われ、多くの新人議員が誕生した。中には当選に不可欠な3要素とされる「地盤、看板、かばん(資金)」を持たず、リスクを承知で挑んだ若手もいる。地下アイドルとの「兼職」や、就職の内定を辞退しての立候補…25歳で初当選した3人の思いに同年代の記者が迫り、「なり手不足」の世界を覗いてみた。(共同通信=牧野直翔、浦郷遼太郎、折原恵理)

4月の統一地方選で初当選した(左から)前川さん、寺田さん、淀さん
4月の統一地方選で初当選した(左から)前川さん、寺田さん、淀さん
「どんな政治家になりたいか」のメッセージボードを掲げる、香川県東かがわ市議の淀紀清さん=2月、高松市
「どんな政治家になりたいか」のメッセージボードを掲げる、香川県東かがわ市議の淀紀清さん=2月、高松市
淀さんがメンバーのアイドルグループ「MEiSM(メイズム)」のライブ風景=2022年12月、高松市
淀さんがメンバーのアイドルグループ「MEiSM(メイズム)」のライブ風景=2022年12月、高松市
なりたい政治家のイメージを掲げる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
なりたい政治家のイメージを掲げる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
インタビューに応じる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
インタビューに応じる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
「どういう政治家になりたいか」を手にする、京都府八幡市議の寺田圭佑さん=3月、京都市
「どういう政治家になりたいか」を手にする、京都府八幡市議の寺田圭佑さん=3月、京都市
街頭演説する寺田圭佑さん=4月、京都府八幡市
街頭演説する寺田圭佑さん=4月、京都府八幡市
4月の統一地方選で初当選した(左から)前川さん、寺田さん、淀さん
「どんな政治家になりたいか」のメッセージボードを掲げる、香川県東かがわ市議の淀紀清さん=2月、高松市
淀さんがメンバーのアイドルグループ「MEiSM(メイズム)」のライブ風景=2022年12月、高松市
なりたい政治家のイメージを掲げる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
インタビューに応じる、高松市議の前川幸輝さん=2月、高松市
「どういう政治家になりたいか」を手にする、京都府八幡市議の寺田圭佑さん=3月、京都市
街頭演説する寺田圭佑さん=4月、京都府八幡市

 ▽香川県東かがわ市議選で当選した淀紀清(よど・きすず)さん(25)
 淀さんは主に香川県で活動する地下アイドルグループ「MEiSM(メイズム)」のメンバー兼プロデューサーで、これまで政治には全く関心がなかったという。ステージだけではなく街頭にも立つと決めたのは、アイドル活動に通じる「地元を盛り上げたい」という思いからだった。
 ▽塾の先生から突然の誘い
 ―立候補する前は何をしていましたか。
 アイドルです。高校3年の時に友人に誘われて高松市にアイドルのライブを見に行き、感動してその友人とアイドルユニットを結成したのが最初です。2022年にメイズムを発足させました。現在は私自身もパフォーマンスをしながら、運営会社の社長としてプロデュースもしています。
 ―何で政治家になろうと思ったのでしょうか。
 中学生の時に通っていた学習塾の先生からある日急に電話が来て「紀清、選挙出ない?」と声がかかったんです。全く政治に関わりがなかったので「え、選挙?」と驚きました。聞くと、当時47歳で最年少だった東かがわ市議が「この歳で最年少は恥ずかしいんや」と若手を探していたそうです。
 私の周囲はそもそも市議会の仕組みからよく分かっていなくて、私自身も定期的に実家に届く議会だよりを読むくらいでした。でも政治が好きな人や詳しい人だけではなく「いろいろなジャンルの人がいてもいいのかな」と思ったのが出馬を決めた理由です。
 ▽地元に残る選択肢がなくならないように
 ―女性として議員になることについてはどう思いますか。
 東かがわ市で育った友人たちは、結婚や就職と同時にみんな高松市に出て行ってしまいました。高松からはプチ旅行くらいの距離ですが、のどかでほどよく住みやすいのが東かがわの魅力。実家もあるし、私はここで子育てしたい。
 地元で育児などの困り事が相談できず、諦めにつながっている現状があります。身近に相談できる市議がいれば、東かがわに残るという選択肢が生まれるかもしれない。そういった存在に私はなりたいです。
 ―東かがわ市議選(定数16)で3位当選しました。
 選挙を手伝ってくれる仲間探しが大変で、これまでアイドル活動で知り合ったファンの方やグループのメンバーが助けてくれたのは幸いでした。人集めは同年代の候補者が一番苦労する点なんじゃないかと思います。
 選挙期間中は、一部の方から「若い子がはしゃぎよる」と言われ、若さや元気さをマイナスに受け取られてしまいました。当選後は交流サイト(SNS)で「しょせんは広告塔だ」と中傷され落ち込みました。年が若いことを肯定的に取られるか、否定的に取られるかは紙一重です。同年代の候補者は負けずに頑張ってほしいです。
 ―アイドルは続けますか。
 続ける予定です。実は、当選した翌週に早速メイズムでライブしました(笑)。議会は平日にあるので、週末のアイドル活動は続けられそうです。お祭りやイベントなどの「娯楽が身近な町」を目指しているので、経験を生かして大きなライブイベントを自分で企画したり、招致したりもしていきたいです。メイズムは「自分らしく」という意味。自分らしく、できることからコツコツと始めていきます。
 ▽高松市議選で当選した前川幸輝(まえかわ・こうき)さん(26)=当選時は25歳
 前川さんは告示前、今回の統一地方選を「待ちに待った機会」と熱く語っていた。高校時代から政治の世界に関心を持ち、大学時代は香川県議のインターン、卒業後は国民民主党の玉木雄一郎代表の私設秘書として勤務した経歴の持ち主。
 ▽政治と真摯に向き合う先輩の背中を追って
 ―立候補の経緯を教えてください。
 就職活動をしている時に、玉木代表の公設秘書から立候補の誘いを受けました。複数の企業から内定をもらっていましたが、政治の道を目指したいと思い、辞退しました。卒業後は玉木代表の私設秘書をしていました。
 ―なぜ政治の世界に関心を持つようになったのでしょうか。
 高校2年の時に生徒会長をしていました。生徒会では学校への要望や改善してほしい点を伝えることで、学校を動かすことを実感できました。生徒会と学校という関係性は、政治の世界での議会と行政の関係性とよく似ていると思います。引き続き人のためにと思い、政治に関心を持つようになりました。
 ―政治家への印象は変わりましたか。
 政治家と言えば、お金にまみれたちょっと悪い人たち。自分たちの利権のために物事を進めているイメージでした。インターンや秘書を経験し、地域を良くしようと政治に真摯(しんし)に向き合う先輩方の背中を追いたいと思うようになりました。
 ―高松市議の報酬はいくらでしょうか。報酬面で魅力的な職業と言えますか。
 月額で約60万円です。20代で60万円もらえるような仕事はなかなかありません。報酬面では恵まれているとは感じます。ただ、手元に残るのが実際いくらなのか、正直不安なところです。支出もその分多いだろうと考えています。
 ▽落選しても出戻りできる環境整備を
 ―議員のなり手不足が叫ばれて久しいです。障壁は何だと思いますか。
 勤務先を辞めて立候補した場合、仮に当選すれば生活面での心配は減りますが、落選した場合は突然無職になります。友人とも、20代でこれから結婚や出産でお金が必要な時に「それは無理だよね」と話します。
 ―兼業規制の緩和も進んでいますが、十分とは言えません。
 議員になりたい意思のある従業員を企業側が支援する態勢は若者に限らず、なり手不足解消のために重要だと思います。仮に落選しても無職にならないように、出戻りできるような環境を平等に与えられることも必要だと感じます。
 ―定数40の高松市議選で4945票を獲得し、2位当選でした。結果をどう受け止めていますか。
 周りの方々が支えてくれたのが本当に大きかったです。実際のところ、自分で取れた票は多くなかったと思います。頂いた票は若い人への期待や、地元をもっと盛り上げてほしいという票だと思うので、未来につないでいけるような高松市にしていきたいと思います。
 ▽京都府八幡市議選で当選した寺田圭佑(てらだ・けいすけ)さん(25)
 寺田さんはサラリーマン家庭に育ち、大手企業から内定をもらい、4月からは東京で働いているはずだった。知り合いの選挙を手伝う中で若手議員の少なさに衝撃を受け、「閉塞感を打ち破ってほしい」という地域の期待を背に「新卒議員」に挑戦し、2位で当選を果たした。立候補のこと、ぎりぎりまでご両親に言えなかったのだとか。
 ▽「新卒ブランド」手放すことへのためらい
 ―立候補のきっかけは何だったのでしょうか。
 アルバイト先のご縁で、2019年の統一地方選や2021年の衆議院選挙を手伝ったことがきっかけです。2021年11月に正式なオファーを頂きました。在学中に大手の不動産会社から内定をもらって、春から東京に行こうと考えていました。僕にはキャリアがないし、新卒というブランドを手放してまで議員を目指して大丈夫なものか、とても迷いました。
 ―何が後押ししたのですか。
 選挙の応援でポスター貼りやビラ配りをしていると、住民の方が話しかけてくれるようになって、「あんたみたいな若いのが出ればいいのや!」というお声をたくさん頂きました。「閉塞感を打ち破ってほしい」という期待を寄せてくれるなら議員という選択肢も面白いのかもしれない、挑戦してみようと考えるようになりました。
 親の転勤で、幼い頃から北海道、福岡県、インド…、と転々としてきて、地元という感覚がよく分からないんです。地域の皆さんと話す機会が増えて、土地に愛着が湧いたのも大きいです。
 立候補すること、両親には言えていませんでした。最後に会った時には、会社の内定を断ったというのだけ伝えました。それだけでも「決める前に相談しろ」と怒られました。ところが、3月末に母から突然「あんた選挙出るらしいやん」とLINE(ライン)が来ました。父は反対すると思っていましたが、当選後「町のために、真面目に頑張れ」とメッセージをくれました。無事、就活に成功した気分です。
 ▽「会社員議員」が可能になれば、政治参加が見えてくる
 ―ちなみに議員報酬はいくらもらえますか。
 月47万円です。一般の企業に就職することを考えると、十二分だと思います。
 ―議員のなり手不足が課題になっています。
 夜間・休日議会を取り入れて、会社勤めの議員がもっと増えればいいなと思います。現状では定職を持ったままだと、会社の理解がないと立候補するのは難しいです。どこかの企業に就職して、他に生活基盤を持ちながら議員の活動もできるなら、政治家という選択肢が出てきやすくなるし、若い世代、幅広い職種の政治参加が見えてくると思います。副業が進んでいる時代ですしね。
 ―定数21の市議選で、得票は2番目でした。
 25歳の最年少候補というのは大きかったと思います。街頭では、見ず知らずの人からも「若い人に頑張ってほしい」「応援するで」「ずっと議員やってや」とたくさん応援していただきました。いわゆる「看板」というか、党への期待ももちろんあると思います(日本維新の会公認で立候補)。勉強して実力をつけたいです。地方議員がキャリアの選択肢になるのが理想ですね。
 【一口メモ:政治活動の現場】選挙に必要と言われる3要素が「地盤」「看板」「かばん」。それぞれ支持組織、知名度、資金を意味する。後ろ盾のない候補者は、選挙区内を歩き回って顔を売る「どぶ板選挙」が欠かせなかった。交流サイト(SNS)が普及し、ツイッターのフォロワーが数百万人という国会議員も現れた。活動の場はリアルに限らず、インターネット上にも広がる。

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