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SUPER DRY 生ジョッキ缶 開発ストーリー 研究開発編

常識を打ち破れ、先入観を壊せ。
かつてないミッションに
挑んだ
開発者たち。

アサヒグループ研究開発センター
生ジョッキ缶開発チーム
古原 徹/森田 碧/伊東 泰洋

お店の生ジョッキを家で飲みたい!この想いに、現場の開発者たちはどう応えたか。

従来の新商品では、中身の原料や製法のほうにスポットが当たりがちでした。しかし、「生ジョッキ缶」はスーパードライというブランドでの実施が決まり、中身ではなくパッケージの開発に焦点が絞られました。そのとき、現場では何が起こっていたのか。メーカーと一体となって難題に挑んだ開発チームのメンバーが、その背景を語ります。

01 “泡を出さない”から“泡を出す”へ。

アサヒビールには、パッケージング技術研究所という部署があります。今回の「生ジョッキ缶」の核となるアイデアはここで生まれました。
ジョッキで飲む生ビールをうまいと感じる理由はいくつかありますが、私たちはまず「香り」と「流入感」に着目しました。そこで試しに、缶の上面が全開する「フルオープンエンド」と呼ばれる容器にビールを詰めてみたのです。
そうしたら、これがまったくおいしそうに見えない(笑)。お店の生ジョッキでも、時間が経つと泡がだんだん消えてしまいますよね。その状態のビール、つまり金色の液体を上から覗き込んでいるだけなんです。この時点で、ポイントは「泡」にあると直感しました。

私たちの研究所では、開発アプローチのひとつとして“先入観を壊す”という考え方を取り入れています。当たり前だと思っている常識を、一度逆の発想にしてみるのです。
私たちの常識は、“缶に泡が立ってはいけない”。それを逆転すると、“缶に泡が立つのが良い”となるんですね。そこで、缶の内側から自然に発泡するような仕組みをつくれないかと考えました。

古原 徹

初期アイデアの段階から一貫して開発に携わる。
フルオープンのフタを含む資材開発を担当。

02 ヒントは
「陶器」と「シャンパングラス」。

アルミ製のビール缶は、内側に特殊な塗料を塗ることで腐食を防いでいます。その、本来はアルミの保護機能である塗料に何らかの工夫をほどこし、塗膜から泡を出すようなことができれば、生ジョッキのような泡の立つ缶が実現できると思いました。

ヒントになったのは、お店でも使われている陶製のビールグラスでした。素焼きの陶器は表面がざらざらしていますよね。そこにビールを注ぐと、すごくいい泡ができる。また、シャンパン用のフルートグラスも泡が出ますが、あれはグラスの底にごく小さなキズがあり、そこに炭酸ガスが当たることで自然に発泡しているんです。そこで、塗料を使って“缶の内側を荒らす”ことを考えました。
しかし、本来は泡が立つ=不良品ですので、塗料メーカーさんにはだいぶ渋い顔をされました。でも以前、不具合で泡立ってしまったことがあると聞いて、泡が立つことをマイナスからプラスの価値に変えましょうという話をしたら、とても面白がってくれて「ぜひやりましょう!」と言っていただけました。

森田 碧

開発の業務補助の傍ら、若手ならではの
柔軟な発想で量産展開時の課題解決に貢献。

03 メーカーと二人三脚で、
試作を繰り返す日々。

それから何十回と試作を繰り返し、さまざまなアプローチを検討しました。缶の内側にボコボコとした無数の突起をつくり、「これは絶対に泡立つぞ!」と期待したら全然ダメだったということも。
そこから、ただ盛り上がった山をつくるのではなく、盛り上がってからへこむという「クレーター構造」に行き着きました。フタを開けたときの気圧差による自然発泡が、この構造によって増幅されるという仕組みです。

泡ばかりに気を取られがちですが、この「生ジョッキ缶」はフタもかなり革新的です。缶のフチに直接口をつけて飲むため、口や手が切れない「ダブルセーフティ構造」を採用しています。実はこの構造を、飲料缶で採用したのは前例がないんですね。

伊東 泰洋

本社、研究所、工場をうまく結びつけ、
会社としてのビジョンを共有する旗振り役。

しかし、このフタを開発した製缶会社さんも、缶詰ならともかく缶ビールということで最初はあまり乗り気ではありませんでした。でも、「こうやって開けたら泡がワッと出てくるんです」と実際に体験してもらったら、なるほど面白いとメーカーさんの社内でも盛り上がって。そこからは本当に、同じ会社の仲間のような感覚で進めることができました。

04 メンバー間での“認識のズレ”が
大きな壁に。

そうして開発も中盤となり、試作缶からモコモコとわいてくる泡を目の当たりにした商品企画スタッフは大喜びしていました(笑)。
ですが、研究所でつくる試作と同等のものを、各地の工場で確実に再現できるとは限りません。つまり、この段階で大量生産すると、どうしても品質に差が出てくることになります。
さらに、温度によっても泡の出方が変わり、温度が低いと弱く、高いと出やすくなります。工場でつくり、販売店の冷蔵庫を経て、お客様の家の冷蔵庫に入る。同じ冷蔵庫でも、ドアポケットと冷気口の前ではまったく冷え方が違います。このように異なる環境下でも、安定した泡が出るよう調整しないといけません。

ここで表面化してきたのが、商品企画サイドと私たちの認識にズレがあることでした。私たち開発サイドは、仮説と検証を積み重ね、段階を踏んで目標達成を目指すのがセオリーですが、商品企画サイドはそこを一足飛びにクリアするものと考えていたのです。私たちが工場での量産を見越したギリギリのラインで提案すると、商品企画サイドから「もっと泡を!」と要求されるという、延々この繰り返し。いつまでループするのだろうと頭を抱えたこともありました。

「生ジョッキ缶」は、これまでの缶ビールの常識とは正反対に位置する商品です。そのため、どのくらいの泡が出ればOKなのかという物差しがありません。そこで、メンバー間での共通認識を図るため、泡の出方の基準について話し合うことになりました。
おそらく開発中で一番ぶつかり合ったのは、このときではないかと思います。もう十分ではないかという者、いいやまだまだと譲らない者。
しかし、結果的にはやっぱり“お客様が驚くか、ワクワクするか”が決め手でした。自分たちで限界を設けてはいけない、お客様に喜んでいただくのが一番だと。目指すべきゴールが明確になると同時に、「生ジョッキ缶」開発メンバーの意識が統一された瞬間でした。

05 最後の最後に、
協力者が増えてきた。

開発も大詰めとなった昨秋。毎晩うちの部署だけ遅くまで明かりがついているのを見かねたのか(笑)、社内で協力者が現れるようになりました。
工場による品質差に悩んでいたときは、醸造の研究員たちが一緒にやろうと手を挙げてくれました。今では、むしろ私たちよりも前に出て進めてくれています。工場スタッフからも「こんなに品質が不安定なものを自分たちにつくらせるのか」と、厳しい言葉をかけられたこともありましたが、今では「これを安定して量産するのが自分たちの仕事だ、任せておけ」と言ってくれています。
メーカーさんにもずいぶんと助けていただきました。実際の製造ラインで生産試験を行う「実機テスト」の前日になって塗料の改善策を思いついたときは、直前の連絡にもかかわらず「できます」と引き受けていただけましたし、製缶会社さんも「なんとかします」とおっしゃってくれて。メーカーさんもどうにかこの商品を世に送り出したいと思ったからこそ、無理を押してくれたことがたくさんあるんです。

最初のうちは懐疑的に見られたこともありましたが、どんどん味方が増えてきて、気がつけばバックアップしてくれている大勢の人たちがいて。「生ジョッキ缶」の開発チームは私たちだけじゃないんだと感じました。周りにいるひとりひとりに、本当に支えられたと思っています。

06 自分好みの飲み方で楽しめる、
それが「生ジョッキ缶」。

森田:“家でお店の生ジョッキの気分が味わえる”というコンセプトの商品ではありますが、実はお店のビールサーバーでの泡付けと、この「生ジョッキ缶」が泡立つ原理はまったく異なるものです。「生ジョッキ缶」の泡は、うまく開栓できれば、もっちりとしたムース状の濃密な泡になります。お店の生ジョッキが大好きな方にも、今までに出合ったことのないようなおいしさを味わっていただけるはずです。

伊東:開発側から見た「生ジョッキ缶」の面白さは、“最後にお客様ご自身の手で完成させる”ことだと思います。通常の商品は、誰がいつ、どんな風に飲んでも同じ味わいが再現できて、それがこれまでの商品開発における正解だとされてきました。しかし、この商品は冷やす温度と冷やし方によって、泡の出方がまったく変わるんですね。

古原:例えば4℃、6℃、8℃の差でも泡立ちが違う。冷蔵庫の中のいろいろな場所に置いて、自分の好みの泡が立つのはどこかな、なんて探す楽しみもあると思います。ベストポジションを見つけてもらいたいですね(笑)。
別の言い方をすると、一回だけで満足するのはもったいない。いろんな顔を見せてくれる商品なので、ぜひ自分の好きな飲み方、楽しみ方を、探索していただきたいなと思ってます。そして、自分なりのベストな飲み方が見つかったら、私たちにも教えていただけると、すごくうれしいです。