福岡県久留米市の県青少年科学館に人気アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するロボット4体の模型が立っている。ガンダムEz8、ザク、ゲルググ、ドム。段ボール製でいずれも3メートル超の大きさだ。東日本大震災の影響を受け、被災地・宮城からやってきた。
段ボールガンダムは、仙台市の北、太平洋に面する宮城県塩釜市の塩釜高校の文化祭の目玉として、2001年から毎年、生徒の有志が作ってきた作品の一部。プラモデルの写真を基にパソコンで図面を作り、拡大した図面に沿って数十枚の段ボールを切って、つなぎ合わせた力作だ。
昨年3月11日、地震と津波が町を襲った。中心部には水が押し寄せ、車がひっくり返った。ロボット作りを指導してきた理科教諭の小川進さん(58)は当時、高台にある高校にいた。高校に津波は来なかったが、港近くの元宿泊施設に保管してある歴代十数体のロボットのことが心配になった。「10年分の財産。そう簡単に作ることはできない」
翌日、小川さんは、なかばあきらめつつ、保管先を訪れた。だが、行ってみると、津波の跡は施設の直前で途絶え、被害はなかった。「奇跡だ」と思った。
だが、思わぬ形で震災の余波を受けた。10月、市有財産となっていたこの施設を、津波で工場が被災した複数の会社が使いたいと言っていたため、入札に。保管場所を失うこととなった。
「段ボール制作が文化として伝わっていくには、身近に先輩の作品があることが大事」と思って来た小川さん。手元から放すのは惜しかったが、やむを得ず、保管先を探した。同月、故郷・久留米市にあり09年に展示会を開いた福岡県青少年科学館に移すこととし、6体を塩釜から運んだ。
一方、毎年、制作期間に充てていた夏休みは、震災で減った授業時間を確保するため、例年より短縮。このため、昨年のロボット制作はあきらめた。震災前の10年は当時の2、3年生が制作。今の3年生が卒業すると経験者はいなくなる。「ゼロから教えることになるが、せめて来年再生させたい」
津波で自宅を失い、現在も仮設住宅で暮らす小川さん。「津波は(技術の伝承という)無形のものをも奪ってしまった」と悔しがる。
科学館に移したロボット6体のうち、展示しているのは4体。このうち3体は科学館が引き取り、今後も常設展示する。残る3体は科学館を通じて、引き取りに応じてきた長崎県の壱岐・対馬や福岡県内の団体などに譲る予定だ。(岡田将平)