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温室効果ガスとは? 種類や原因、環境への影響、減らす方法を解説

温室効果ガスとは? 種類や原因、環境への影響、減らす方法を解説
温室効果ガスの定義と種類(デザイン:吉田咲雪)
サステイナビリティー分野専門ライター/佐藤みず紀

環境問題や気候変動対策の話題で頻繁に耳にする温室効果ガス。しかし、温室効果ガスが具体的に指すものや環境への影響など、意外と多くのことが知られていません。この記事では、温室効果ガスについて詳しく解説し、削減のための取り組みや普段の生活・仕事のなかでできる削減方法もご紹介します。

著者_佐藤みず紀さん
佐藤みず紀(さとう・みずき)
大手自動車リース会社の法人営業、広報、CSR担当を経て、退職後サステイナビリティー分野を専門とするフリーランスライターに転身。現在はおもにESG/SDGsに特化した非財務データプラットフォームを提供するサステナブル・ラボのパートナーライターとして鋭意活動中。2019年からスペイン在住。

1.温室効果ガスとは

温室効果ガスとは、二酸化炭素やメタンなど、大気中の熱を吸収する性質のあるガスのことです。英語ではGHG(Greenhouse Gas)といいます。

地球の表面は大気を通過した太陽の光によって温まり、地表の熱は赤外線として宇宙空間に放出されます。温室効果ガスには赤外線を吸収・放出する性質があり、地表から出ていく熱を吸収して大気を温めます。この働きが温室効果です。大気中の温室効果ガスが増えると地表を温める働きが強くなって地表付近の温度が上昇します。

温室効果がなければ地球の平均温度はマイナス19度になるといわれており、温室効果ガスは、地球の温度を生き物が暮らしやすい状態に保つ役割を果たしています。

温室効果の模式図
温室効果の模式図(出典:気象庁「温室効果とは」)

一方で、増えすぎた温室効果ガスは地球温暖化の一因にもなります。そのため、温室効果ガスの削減は、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成のカギを握ります。また、温室効果ガスの多くは電気などのエネルギーを作るときに発生することから、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」にも関わります。

SDGs目標13と目標7のアイコン

2.温室効果ガスの種類

温室効果ガスには、次のような種類があります。

温室効果ガスの種類 概要 発生源
二酸化炭素(CO2) 地球温暖化におよぼす影響がもっとも大きい温室効果ガス。温室効果を示す地球温暖化係数は1 ・石炭・石油の消費
・セメントの生産など
メタン(CH4) 二酸化炭素に次いで地球温暖化におよぼす影響が大きい温室効果ガス。常温で気体。よく燃える。地球温暖化係数は25 ・湿地や池、水田で枯れた植物の分解時
・家畜のげっぷ
・天然ガスの採掘など
一酸化二窒素(N2O) 数ある窒素酸化物のなかで最も安定した物質。他の窒素酸化物(例えば二酸化窒素)などのような害はない。地球温暖化係数は298 ・燃料の燃焼
・工業プロセス
・農業での窒素肥料使用
・家畜からの堆肥(たいひ)製造など
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) 塩素がなく、オゾン層を破壊しないフロン。強力な温室効果ガス。地球温暖化係数は種類によって異なる(HFC-134a《1,1,1,2-テトラフルオロエタン》の場合は1430) ・スプレー類
・エアコンや冷蔵庫の冷却
・化学物質の製造プロセスなど
パーフルオロカーボン類(PFCs) 炭素とフッ素だけからなるフロン。強力な温室効果ガス。地球温暖化係数は種類によって異なる(PFC-14《パーフルオロメタン》は7390) ・半導体の製造プロセスなど
六ふっ化硫黄(SF6) 硫黄の六フッ化化物。強力な温室効果ガス。地球温暖化係数は2万2800 ・電力供給関連装置の絶縁体など
三ふっ化窒素(NF3) 窒素とフッ素からなる無機化合物。強力な温室効果ガス。地球温暖化係数は1万7200 ・半導体の製造プロセスなど

全国地球温暖化防止活動推進センター「温室効果ガスの特徴」などをもとに作成

温室効果の大きさはそれぞれの気体によって異なります。例えばメタンは二酸化炭素と比べて25倍、一酸化二窒素は298倍の温室効果があるといわれています。

日本で排出される温室効果ガスのうち、もっとも割合が多いのは二酸化炭素で90.8%、次いでハイドロフルオロカーボン類4.5%、メタン2.5%、一酸化二窒素1.7%、パーフルオロカーボン類0.3%、六ふっ化硫黄0.2%、三ふっ化窒素0.03%となっています(参照:2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要丨環境省)。

このように温室効果ガスは多岐にわたり、さまざまな対策が求められています。

3.温室効果ガスの現状と環境への影響

2020年度の日本の温室効果ガス総排出量は11億5000万t(CO2換算)で、1990年度の総排出量から9.8%減少しています。一方、2021年の世界のエネルギー関連二酸化炭素排出量は、前年から6%増加し363億tとなり、過去最高を記録したとIEAのリポートで報告されています。

代表的な温室効果ガスである二酸化炭素は、おもに化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の燃焼で発生します。18世紀後半の産業革命以降、電気などのエネルギーは人間の生活に欠かせないものとなり、そのエネルギーを作るために多くの化石燃料が使用されるようになりました。化石燃料の使用が急増したことに伴い、大気中の二酸化炭素の濃度は産業革命以前と比較して約40%増加しています。

2021年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会による第6次報告書では、「人間の影響が気候システムを温暖化させてきたことは疑う余地がない」と、確定的な表現で見解が示されています。

また、大気中の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素は、過去80万年間で前例のない水準まで増加していることも報告されています。2019年の大気中の二酸化炭素濃度が工業化前より47%高くなっていることや、世界の平均気温(2011〜2020年)が約1.09度上昇していることなども明らかにされました。この観測値は過去10万年間でもっとも温暖だった数百年間の推定気温と比べても前例のないものといわれています。

それと同時に、世界中の大雨の頻度の高まりや、強い熱帯低気圧(台風)の発生割合の増加、北極の海氷の減少、平均海面水位の上昇なども事実として捉えられています。人間の活動の影響によって、熱波や干ばつの発生のほか、火災が発生しやすい高温、乾燥、強風などの気象条件、局所的な豪雨とそれに伴う河川氾濫(はんらん)や洪水などが起きる確率も高まっているとされています。

このまま化石燃料に依存した発展を続け、気候政策を導入しなかった場合の「最大排出量シナリオ(SSP5-8.5)」では、21世紀末時点で3.3~5.7度の気温上昇が予測されています。

4.温室効果ガスに対する世界・日本の取り組み

温室効果ガス排出量を削減するために、世界や日本で行われている取り組みを紹介します。

(1)世界の取り組み

2015年の国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP21)でパリ協定が採択され、2016年に発効しました。このパリ協定は、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みで、おもに以下の世界共通目標が掲げられています。

● 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすること

● そのため、できる限りはやく世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとること

世界のエネルギー起源二酸化炭素排出量(2019年)を見てみると、1位・中国(29.4%、98.8億t)、2位・アメリカ(14.1%、47.4億t)、3位・EU(欧州連合)28か国(8.9%、29.9億t)、4位・インド(6.9%、23.1億t)、5位・ロシア(4.9%、16.4億t)、6位・日本(3.1%、10.6億t)です。

一方、1人当たりエネルギー起源二酸化炭素排出量という角度から見ると、上位の国にはカタール、アラブ首長国連邦、カナダなどがあります。

EUは2030年の温室効果ガス削減目標を1990年比55%とし、この目標を達成するための政策として「Fit for 55」を発表しています。

おもな内容は、年間排出枠引き下げなどを提案するEU排出量取引制度(EU-ETS)の改正、排出量の多い輸入品に対する課金メカニズムの導入などを含む炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する規則案、2030年のEUエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を32%から40%に引き上げる再生可能エネルギー指令の改正などです。

最大の温室効果ガス排出国である中国は、2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせる方針を発表、またGDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比65%低下させることを行動目標に盛り込んでいます。

その目標を達成するために、新車販売に占める電気自動車の割合を40%にすることや、風力・太陽光発電の設備容量を計12億kW(キロワット)以上に引き上げることなどを計画しています。さらに、2060年までに排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成も目指すとしています。

その他の国の2030年排出量削減目標は、外務省のウェブサイトにまとめられています。

(2)日本の取り組み

日本の温室効果ガス排出量は、2013年度をピークに7年連続で減少しており、2020年度は排出量の算定をはじめた1990年度以降、もっとも少ない排出量となりました。分野ごとに排出量を見てみると、エネルギー分野(間接CO2を含まない)が86.5%、工業プロセスおよび製品の使用分野(同)が8.8%、農業分野2.8%、廃棄物分野1.8%などとなっています。

日本では2030年度目標として、温室効果ガス排出量46%削減(2013年度比)を掲げるとともに、「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。

これをふまえて、2021年10月に日本政府は「地球温暖化対策計画」を改定しました。おもな具体的な対策として、地域再エネ拡大、住宅や建築物の省エネ基準適合義務づけ拡大、データセンターの30%以上省エネに向けた研究開発支援、2兆円基金による水素・蓄電池などの分野の研究開発・社会実装支援、脱炭素技術を活用した途上国などでの排出削減などが盛り込まれています。

5.温室効果ガスを減らすには? 私たちにできる削減方法

ここまで世界や日本における温室効果ガス削減の取り組みを見てきましたが、日常生活でできる温室効果ガス削減方法には、どんなことがあるのでしょうか? 家庭、街中、職場という三つの切り口からできることをご紹介します。

(1)家庭のなかでできること

東京都の「家庭の省エネハンドブック2022」によると、都における家庭部門のエネルギー消費量の用途別割合(2019年度)は、給湯用37.5%、暖房用18.1%、厨房(ちゅうぼう)用10.2%、冷房用1.7%、その他の動力が32.5%でした。また電気使用量の多い家電製品を見ると、照明器具18.2%、冷蔵庫17.4%、エアコン13.3%、テレビ11.3%で約6割を占めています。

家庭における電気やエネルギーの消費を抑えるためにできることとして、以下のような方法があります。

● テレビや照明の使用時間を1時間減らしてみる

● エアコンのフィルターをこまめに掃除する

● 冷蔵庫の無駄な開け閉めを減らす

● 衣類乾燥機は自然乾燥と併用して使用頻度を見直す

● 家電を買い替えるときや新築・リフォームを検討するときは省エネ機能や性能を採り入れる

● 太陽光や太陽熱を利用する(自治体によっては補助金制度あり)

(2)街のなかでできること

通勤、通学、買い物、旅行など、移動に伴って排出される温室効果ガスにも目を向けてみましょう。2020年度における日本の二酸化炭素排出量のうち、運輸部門からの排出量は17.7%で、運輸部門の排出量のうち自家用乗用車が45.7%を占めています。

排出量削減につながる移動手段の工夫として、以下のような方法があります。

● ちょっとした外出は徒歩や自転車で移動する

● 公共交通機関を利用する

● 自家用車を運転するときはエコドライブを心掛ける

● 車を買い替えるときはハイブリッドカーや電気自動車を検討する

● カーシェアリングサービスを利用して必要な時だけ車で移動する

● 旅行先でレンタカーではなくレンタル自転車を借りてみる

(3)企業としてできること

企業のなかには自社や自社グループの温室効果ガス排出量削減目標を策定し、削減に向けた取り組みをはじめているところもあります。今後、企業は温室効果ガス排出量の算定や情報開示を求められるケースもあるでしょう。

企業として排出量削減に向けてできる取り組みには、以下のようなものがあります。

● オフィスの改善(LED照明の導入、照明の間引き、パソコンの電源設定の見直し、空調設定の見直しなど)

● 工場の改善(燃焼設備、熱利用設備、電力応用設備などの運用改善や設備更新など)

● 物流の効率化(営業車や配送車をエコカーに入れ替える、効率的な輸配送オペレーションへ切り替える、など)

● 電力調達方法の再検討(外部からの再生可能エネルギー調達、太陽光など自家消費型電力への切り替えなど)

● 本業やビジネスモデルなど根本の見直し(サーキュラーエコノミーへの転換を視野に入れた商品開発など)

6.地道にできることから、温室効果ガス削減を

温室効果ガス排出量を削減するために、世界各国や日本が目標を定め具体的な行動をはじめています。しかしながら、温室効果ガスの削減は、政府や国際機関の活動だけでは解決できない地球全体の課題です。

温室効果ガスは目に見えませんが、その影響による気温上昇などの気候の変化は私たちの肌で感じることができます。私たち一人ひとりがそれぞれの立場や環境でできることを知り、取り組むことが大切なので、今日から少しだけ意識して、自分にできることからはじめてみましょう。

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