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まちを変える、まちが変わる

東京で唯一の女性市長、まちを変え、働き方を変える

東京で唯一の女性市長、まちを変え、働き方を変える
撮影・朝日教之
東京都武蔵野市長/松下玲子

「住みたいまち」の上位にランクする東京・吉祥寺をかかえる武蔵野市。市長の松下玲子さんは、環境対策と緑の保全、そして子育て支援を重視してまちづくりに臨む。現在、都内では唯一の女性市長で、女性が活躍する社会になるためには、「男性の働き方の見直しが不可欠」が持論だ。松下さんに、ジェンダー平等への考え、まちづくりへの思いを聞いた。(聞き手 編集部・金本裕司)

森前会長発言、世界には通用しない

――東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」などと発言し、辞任に追い込まれました。どう受け止められましたか。

「非常に残念だなという気がしました。日本はジェンダーギャップ指数が低いといわれてきましたが、国際的なスポーツの祭典の責任者が発言をしたことで、それを改めて露呈してしまった。IOC(国際オリンピック委員会)はじめ世界の関係者、特に女性の方々に強い批判があったと思います。日本では、前会長世代の人たちのジェンダー意識の低さは、認めてはいないし、あきれてもいるのですが、なんとなく受け入れているみたいなところがあった。しかし、ひとたび国際社会に出てしまえば通用しない。私は多くの批判に、『本当にごめんなさい』という気持ちになりました」

――後任の会長に橋本聖子さんが選ばれました。

「参院議員を辞めずに会長を務めるというのは、中立性とともに、議員としての仕事との兼ね合いが疑問です。会長の決め方も、もっとオープンなほうがよかったのではないでしょうか」

「国民の8割がコロナを懸念しているのに、橋本さんはそれにはあまり向き合わない感じがします。開催ありきというのは残念です。コロナ対策は、国家的プロジェクトです。それと、国際的プロジェクトが同時にできるのかなと思います。選手のことを考えると、やらせてあげたい気持ちもありますが、国を挙げて国民の生命、健康を守るのが当然で、オリンピックの犠牲にしてはいけません」

女性活躍には、男性の働き方見直しが欠かせない

――女性が政治の世界、社会の中で活躍していくためには、何が必要でしょうか。

「企業や社会の中で、女性が役員や管理職に就きがんばっている人が増えています。しかし、政治の世界ではまだまだです。武蔵野市議会は定数26人中12人ですから多いほうですが、各地の議会ではやはり女性は少ない。首長でも、東京では、26市で女性は私一人。23区も足立区の近藤弥生さんだけです」

「意思決定の場に女性やLGBT、障害のある方が少なく、多様性に欠けています。本来、多様性は力なのに。男性の片働きという日本の高度経済成長を支えたモデルが、そのまま生きているという気がします」

「私には持論があります。女性が活躍するためには、男性の働き方、生活の仕方を見直す以外に道はありません。私は夫と子どもが1人いますが、指導的立場の女性が、妊娠、出産、子育て、介護そして仕事を全部やろうとするとスーパーウーマンでないとできません。どこにそんな人がいるの、という感じです。男女で分かち合える部分は分かち合わないととても無理です」

「私自身は、母が専業主婦で、父は通信社に勤め忙しく働いていました。高度経済成長期にはふさわしいモデルだったかもしれません。しかし、いまは働き手が足りない、海外からでも仕事に来てもらわないといけないような時代です。男性は仕事、女性は家庭というのは今の日本には合いません」

「私の夫は会社員でした。もともとは専業主婦と結婚したかったようですが、私と結婚した結果、意図せず育児に関わることになり、驚きと喜びを感じ、意識の変化があったようです。子どもの成長は著しいので、そこに関われるのは喜びだと言っています」

「私は都議時代に子どもを産んだのですが、現職の議員で子どもを産んだのは私が初めてでした。予定日より早く、議会中に急きょ入院して出産したので、産前休はありません。出産後も、制度がないので、事務局から病欠届を出すように言われました。『病気じゃないんだけど』と思いましたが、制度もない時代でした。出産から1カ月後には復帰しました。当事者としての思いもあり、子育て支援施策に力を入れていきたいです」

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むさしのエコreゾート 撮影・金本裕司

ごみ焼却場を啓発施設に模様替え

――市はこれまでもごみ処理有料化や分別の徹底などを進め、新しいクリーンセンターも2017年に稼働しました。さらに昨年11月には、「むさしのエコre(リ)ゾート」がオープンしました。環境施策をどう進めていかれますか。

「武蔵野市は『エネルギー地産地消プロジェクト』と、この環境啓発施設『むさしのエコreゾート』の活用を積極的に推進しています。環境施策の原点にあるのは、市が自前のごみ焼却場を持っている点です。各家庭のごみを自前の焼却場に集めて燃やし、その熱でごみ発電をしています。その電力を市役所や近隣の公共施設の電気に活用しています。燃やすごみを焼却した後の焼却灰は、日の出町にある処分場に運び、エコセメントにしています」

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かつてのごみ投入口を残して展示の一部にしている 撮影・朝日教之

「環境問題というと、世界の気候変動問題や南極の氷が解けていることなどを大変だなと思っても、いま一つ身近ではありません。そこでこのエコreゾートで、私たちは何をしたらいいのかを考え、自分事として前に進んでほしいと思っています。日常生活の中で、マイバッグを使うとか、1回で使い切りではなく繰り返し使える『リターナブル』な瓶などを使うとか、小さな工夫に気づき、取り組んでほしいのです」

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撮影・朝日教之

「以前、ペットボトルの回収を毎週から隔週に変えました。不便だとおしかりも受けたのですが、ごみが発生するから不便を感じるのであって、ごみの発生が少なくなれば不便は感じない。まず、ごみを少なくすることを考えていただきたいのです」

2050年ゼロカーボンシティを宣言

――「ゼロカーボンシティ」を宣言されたのですね。

「2月24日に、市議会本会議の2021(令和3)年度施政方針演説で、『2050年ゼロカーボンシティ』を表明しました。来年度から、新しい市の環境基本計画や地球温暖化対策実行計画がスタートしますので、それらの計画に基づいて、2050年度までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指していきます」

――市は今年秋を目標に、「都市計画マスタープラン」を改定中です。どのようなまちを目指されますか。

「武蔵野市の市域は10.98平方kmで、人口は14万7000人です。全国でも特別区を除いて2番目の人口密度です。私たちが意識しているのは、緑の保全です。公園面積は市民一人あたり5㎡を目標にしています。現在は4.43㎡(※2020年4月)でちょっと達していませんが、民有地も含めて緑を守り育てることに取り組みたいと思います」

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撮影・朝日教之

子どもは未来の大人、社会全体で育てる

――SDGsは「誰ひとり取り残さない」という理想を掲げていますが、市長として施策を進める上で、すべての議員、住民を満足させることは簡単ではないと思います。民意をどういう形で集約していかれますか。

「今の市議会は、私のいわゆる与党は過半数に達していません。野党の方から厳しいご意見を受けることもあります。ただ、そこは国政と違って、二元代表制なので、みなさん是々非々で対応していただけると思っています。昨年の12月議会に、18歳までの医療費を無償化(医療費助成)する条例を提出し、15対10で可決されました。これまで15歳までだったのを引き上げます。是々非々で対応していただいた結果だと思います」

「誰かが特別待遇を受けるのではなく、公平で公共の福祉に資するかどうかを判断の基準にするよう心がけています。保育所建設などでも、総論では賛成だが、予定地の隣の方など、各論になると反対は出ます。説得し理解を得てやるしかありません。市は昨年4月に待機児童ゼロを達成し、この春も継続できる予定です。子どもは未来の大人です。社会全体で未来の大人を育てましょうと訴えています」

松下玲子(まつした・れいこ)
1970年、名古屋市生まれ。実践女子大卒業後、サッポロビールに勤務。早稲田大学大学院、松下政経塾を経て、民主党から都議選に立候補し、2期務めた。2017年10月から現職。現在、都内では唯一の女性市長で、武蔵野市では初めて。
Keywords
むさしのエコre(リ)ゾート

2020年11月、武蔵野市役所の隣にオープンした環境啓発のための施設。もともとクリーンセンター(ゴミ処理施設)があった場所で、同センターの老朽化に伴い2017年に隣接地に新設・移転。その跡地を利用した。旧施設の一部を残し、展示スペースや廃材を使ったものづくり体験コーナー、ミニキッチン、環境関係の資料・図書コーナーなどの機能がある。さまざまな環境に関する講座やイベントなども行う。

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