わたしたちは災害が絶えない国に住んでいます。2011年3月に起きた東日本大震災を宮城県で経験した歌手さとう宗幸さんに、被災時の様子や災害への備えについてうかがいました。
突然の揺れ 命失うかもしれない
――さとうさんは東日本大震災を経験されました。当時の様子をお聞かせください。
さとう わたしは地元テレビ局の情報番組の総合司会を長く務めているんですが、あの日もテレビ局に向かって車を走らせていました。テレビ局の直前で、けたたましく緊急地震速報が聞こえたんです。こんなときは車を路肩に止めることを思い出し、そうしました。すると経験もしたことのない揺れが襲ってきました。長く、何度もです。
わたしの車の隣には大型のトラックが止まっていました。激しく揺れ、今にも横転しそうでした。トラックが倒れたら命を失うかもしれない、と思いました。
幸い、揺れが一段落し、テレビ局に行きました。報道特別番組のため、わたしの番組は中止となり、妻と二人で暮らす自宅に戻ることにしました。停電のために信号機は止まり、誘導の警察官もいませんでした。途中、次女の家で次女と孫をピックアップし、長女が避難する警察署で孫2人を乗せました。通常なら40分ぐらいの道のりですが、3時間もかかりました。
食器棚に突っ張り棒 皿一枚割れず
幸い、自宅の被害は軽微で、避難所に行かずにすみました。避難所で過ごすと言っていた長女夫妻も、あまりの混雑ぶりに、わたしの家に身を寄せました。
家具には転倒防止の突っ張り棒をしていたので、食器棚から食器一つ落ちることはありませんでした。日ごろの備えが役立ちました。
自宅は仙台市内の高台にあり、津波の被害はなく、幸い水も出ました。しかし、電気が開通するには約1週間、都市ガスは約1カ月もかかりました。
そんなとき、わたしたちを救ってくれたのは反射式の灯油ストーブと七輪でした。寒い時期だったので、灯油も2缶ほどありました。暖もとれるし、明かりにもなります。食事の準備もできました。初日はみんなでストーブを囲むようにして過ごしました。
もし石油ファンヒーターだったら、停電のために使えませんでした。一家に一台、昔ながらの石油ストーブと灯油を備えることをお薦めします。
震災後、台所と風呂を電化
――震災後、新たに備えたものはありますか。
さとう ガスを開通させるには、漏れがないように一軒一軒安全を確認しながらとなるため、とても時間がかかります。震災後、台所と風呂を電化しました。
水がないとトイレを流すこともできませんから、震災時、娘や知人も私の家に水をくみに来ていました。次回も水が出るとは限りません。今はポリタンク二つに水を入れ、必ず定期的に交換しています。
避難所ではなく自宅にいると、食事の配給がありません。3日分ぐらいは冷蔵庫の中の物などでどうにかなりますが、その後のために妻が缶詰やカップ麺などの非常食を用意しています。
寝室には懐中電灯とラジオ、足をけがしないためのスリッパを置いています。
避難生活支えるのは「地域力」
――これから備える人のためにアドバイスをお願いします。
さとう 家族と連絡をとるために携帯電話は欠かせません。そのためには、電気をどう確保するかが大切です。わたしの場合、手回しの発電機で携帯電話に充電していました。車からとる方法もありますね。
とりわけ、大切なのは地域力ではないでしょうか。被災者のなかには、家族を失ったり、家を失ったりした人もいます。東日本大震災のときも、いざこざが絶えない避難所があったと聞きます。日ごろから、助け合うことができるような近所づきあいが必要です。
東日本大震災は寒い季節だったので耐えられたと思います。しかし、夏だったら大変だったはずです。寒さはしのげても、暑さをしのぐことは難しい。それが課題だと妻と話しました。
日常を失うのは一瞬です。光のない夜は本当にこわくて、早く夜が明けてほしいと願っていました。想像力を働かせて、備えることが必要です。
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