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ニューヨークからの御一行様(4)―チャレンジ

2009年1月29日

  • 筆者 兵藤ゆき

 私たち(前回参照)が行ったのは、地下1階、地上5階建ての大型スーパーマーケット。1階から上は衣料品、家庭用品、電化製品などのフロアーで、地下1階はレストラン街になっていた。

 レストラン街は地下1階のフロアーが体育館のようにワンフロアーになっていて、その周りに和食、洋食、中華などの店が並んでいた。

 各店に入って食事をすることもできるが、他にハンバーガー、クレープ、ラーメン、チャーハン、たこ焼き、お好み焼き、焼きそばなどを作る店も周りにあり、カウンターに行ってその中から好きなものを注文し、出来上がったものを自分で取りに行き、フロアーの真ん中の、テーブルや椅子がたくさん並べられた場所に持っていって食べられるようにもなっていた。

「わー、なんてこった!」

 アレックスが目を丸くして叫んだのは、フロアーの真ん中でラーメンを食べている親子を見たからだった。

 なにせアレックスはラーメンが大好き。

 私たちがニューヨーク(NY)にいる頃、アレックスはよく我が家に遊びにきた。

 おにぎりや唐揚げを出すとおいしい、おいしいと食べてくれたので、ラーメンはどうかなと作って出したことがあった。

 と、これもおいしい、おいしいと、ペロリと一人前を平らげてしまった。

 お母さんのジーンは、ラーメン好きになったアレックスのために、ラーメンの作り方を教えて欲しいと聞いてきた。

 NYには日系のスーパーマーケットが何軒かあるので、そこでインスタントのものから生麺までラーメンの材料をそろえることができることを伝え、どれがいいか一緒に買いに行った。

 日本人の経営するラーメン店もあるので、そこにもよく行った。

 そして、アレックスの家の食事のメニューにはラーメンが加わったし、ときどきラーメン店にも家族で行くようにもなったのである。

 アレックスは、今ではジーンお得意のイタリア料理よりラーメンの方が好きなようだと、ちょっとさみしそうな顔をしてジーンが言っていたこともあった。

 そんなアレックスが大好きなラーメンを食べている親子を目の前にしたからたまったものじゃない。

 「ゆき…」

 とアレックスが言った途端に私は察した。

 「ラーメンを食べたいんでしょ?」

 「そう、食べたい!」

 アレックスは手を胸の前に組んで、ウルウルした目でそう言った。

 「OK、OK、あの親子はカウンターのところに行って注文し、できたものを自分たちで持って来て、真ん中のテーブルで食べているんだけど、それでいい?」

 「そう、それでいいよ、さあ、早く注文に行こうよ」

 「じゃあ、ちょっと日本語で注文してみる? これは簡単だからアレックスならすぐにできると思うよ、『ラーメン、ください』、これでいいんだよ」

 せっかく日本に来たのだから、簡単な日本語でいいから少し話せるようになりたいと、アレックスもジーンもジョージも言っていたのだ。

 「OK、やってみる。ラーメン、く、だ、さ、い、これでいい?」

 「うん、いいよ、何ラーメンがいいかな?」

 「みそ」

 「じゃあ、みそラーメンください、だね」

 「OK、み、そ、ラーメン、く、だ、さ、い」

 いいねえ、よーし、じゃあ、やってみよう。

 お父さんのジョージもラーメン、ジーンはたこ焼き、というので、それぞれ日本語での注文をチャレンジすることにし、みんなでカウンターの前に並んだ。

 さあ、うまくいきますかどうか、私はそばで見守ることにしたのだった。

(次回に続く)

兵藤ゆき プロフィール

兵藤ゆき

兵藤ゆき(ひょうどう・ゆき)

名古屋市出身。血液型O型。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し、その後エッセー、脚本、作詞、歌手、小説等ジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークにで11年余り生活。2007年に日本に帰国。

主な著書に、「子どもがのびのび育つ理由」(2008年4月 マガジンハウス)(対談集)「頑張りのつぼ」(05年7月 角川書店)…ニューヨークで活躍する日本人8人の方との書き下ろし対談集(宮本亜門・千住博・宮本やこ・野村尚宏・平久保仲人・河崎克彦・高橋克明・小池良介)、(翻訳本)「こどもを守る101の方法」(06年7月 ビジネス社)などがある。公式ブログは、「子育ての話を聞かせてください―I‘m proud of you―」

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