(社説)日比安保協力 地域の緊張高めぬよう

社説

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 日本とフィリピンが、中国を念頭に、「準同盟」級へと安全保障協力を強化することになった。

 中国の強引な海洋進出に直面する両国が、力による一方的な現状変更に反対し、連携して対処することには意味がある。ただ、地域の平和と安定に資することが前提だ。中国との対話を含めた、バランスの取れた外交努力が求められる。

 岸田首相が連休中、フィリピンを訪問した。マルコス大統領との会談では、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練をする際の入国手続きなどを簡略化する「円滑化協定」の交渉入りで合意した。日本が「準同盟国」と位置づける豪州、英国に続く締結をめざす。

 日本が「同志国」の軍隊に防衛装備品などを無償で提供する新制度「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の適用第1号もフィリピンに決まった。6億円相当の沿岸監視レーダーを供与する。

 今年2月、マルコス氏が来日し、首脳会談で安保協力の強化を確認して以来、9カ月たらずで、いずれも具体化が進んだ。

 両国は、東・南シナ海での中国の活動への「深刻な懸念」を共有しており、中国が威圧を強める台湾とも近い。フィリピンにとって、中国は最大の貿易相手国ではあるが、南沙諸島スプラトリー諸島)で先月、中国船がフィリピン船と立て続けに衝突する事案が発生するなど、中国への警戒感を強めている。

 フィリピンは日本の重要な海上交通路(シーレーン)に位置してもいる。安保上の共通課題に、足並みをそろえて取り組むことが大切だとしても、軍事偏重に陥れば、かえって地域の緊張を高めかねないことに留意すべきだ。

 首相は日本の首相として初めて、フィリピン議会で演説し、中国を念頭に、「同盟国・同志国の重層的な協力が重要だ」として、米国を加えた3カ国の安保協力の意義を訴えた。

 すでに、米比の合同訓練に自衛隊が参加したり、3カ国の海上保安機関が初めて合同訓練をしたりするなどの実績が積み重ねられている。

 中国と覇権を競う米国は、一国だけで対抗するのは困難とみて、豪州、韓国、インドなども視野に、地域の同盟国や友好国をつなぐ「ネットワーク化」を進めている。

 地域の安定を損なうような、敵対的な包囲網とはせず、中国も包摂した国際秩序につなげる。中国と歴史的にも経済的にも結びつきの深い日比両国は、そうした役割を担うべきだ。

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