「火中の栗」林氏、官房長官に 地元山口に期待と不安

青瀬健 大室一也 白石昌幸 山野拓郎
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 裏金をめぐる疑惑で辞任した内閣官房長官の後任に、前外相の林芳正氏=衆院山口3区=が就くことになった。県内の自民党関係者は活躍を期待する一方、政権に厳しい目が向けられている中での起用を危ぶむ。林氏の政治資金について林氏の事務所は「適正に処理している」と取材に答えた。

 「この時期に官房長官を受けるのは大変だが、総理大臣の資質と実績を備えるいい試練だと思う」

 県内で「山口9人目の首相」との期待もかかる林氏。下関地区後援会の岡本博之会長(80)は、官房長官の就任を前向きに受け止める。

 林氏はこれまで、政治献金をめぐる問題で辞めた農林水産相の後任を務めたり、加計学園の獣医学部新設認可の審査で焦点となった文部科学相に就いたりするなど「リリーフピッチャー」(県内首長)のようなタイミングでの起用が多く、「困ったときの林大臣」と評されるほど。

 「時の総理に信頼されて大臣を務めてしっかりと立て直し、外務大臣の重責も果たした」と岡本会長。ベテラン議員が固辞したとされる今回の官房長官人事にも「世間は『貧乏くじを引いた』とか言うが、政治は損得でする仕事ではない」と話す。

 自民党県連内でも「火中の栗」への見方は分かれる。ある県連幹部は「一生懸命やって国難とも言うべき政治の混乱を抑えられれば、高く評価されるのではないか」と期待する。

 別の幹部は、今回の内閣改造での林氏の要職就任に「反対」だった。岸田文雄首相が最近まで会長に就き、林氏が座長を務める岸田派宏池会)でもパーティー券収入の政治資金収支報告書への不記載があったとみられている。「これから岸田首相が標的になる。林氏も辞任に追い込まれるようなことになれば、総理・総裁候補として傷つくだけだ。今やってもどうしようもないのに」と首をひねった。

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 事実上更迭された閣僚ら多くの国会議員に裏金の疑惑が持たれ、「安倍派」は揺れている。

 派閥を長らく率いた安倍晋三元首相の若手支持者でつくる「晋緑会」のメンバーで、下関市内で会社を経営する40代の男性は「裏金のニュースで『安倍派が』と何度も取り上げられ、政局的に狙い撃ちにされている感じがする」と複雑な気持ちを抱えている。

 安倍氏を長年支持し、「桜を見る会」に出席した同市の80代の男性は、安倍派のパーティー券の問題について「何十年も続いていたことだと思う。いけないと分かっていても声を上げる人がいなかったのではないか」と見る。

 安倍氏の選挙区だった下関市に支援者が多く、安倍氏のライバルだった林氏が要職に就くことに、「悔しいというより、これだけのことが出てきたら仕方ない。いい人材だからきちんとやると思う」と話した。

 今回の問題を受けて、国政や県内での「安倍派」の存在感の低下、次期衆院選での県内の自民候補へのマイナスの影響を指摘する声が県議や首長らから聞かれた。

 立憲民主党県連の小田村克彦代表は「『政治とカネ』は自民党がなかなか離れられない課題なのだろう。次期衆院選でクリーンな政治の実現を目指して頑張っていく」と述べた。

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 政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、朝日新聞は自民党の山口関係の国会議員7氏に、パーティー券収入に絡むキックバック、キックバックされた額の収支報告書への不記載があったかどうか、などを事務所を通じて尋ねた。

 林氏の事務所は「報道によると政策集団(派閥)が刑事告発を受けているとのことで、回答は差し控えます。政治資金については法令にのっとり適正に処理しております」と答えた。

 「安倍派」に所属する県関係議員は5氏。参院議員(山口選挙区)の江島潔、北村経夫の2氏と県連所属の杉田水脈衆院議員(比例中国ブロック)の事務所からは、いずれも「刑事告発されており、慎重に事実関係を確認し、適切に対応する」との表現で回答があった。

 4月の衆院山口2区の補選で初当選した岸信千世氏の事務所は、県連の政治資金パーティーでキックバックを受けた事実はなく、派閥のパーティー券は「まだ販売したことがございません」と答えた。同じく衆院4区の補選で、安倍晋三元首相の後継として当選した吉田真次氏側からは14日夕の期限までに回答がなかった。

 衆院1区の高村正大氏の事務所からは「パーティー券の会費はすべて派閥に納められており、貢献度に応じて派閥から政治活動の寄付として振り込まれ、法令に従い適正に処理し、すべてを収支報告に記載しております」と回答があった。(青瀬健、大室一也、白石昌幸、山野拓郎)

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