たった一つの理由は…好きだから 松村沙友理が挑んだ劇場版推し武道

有料記事アイドル道

阪本輝昭
[PR]

 自分の好きな芸能人やスポーツ選手、アニメキャラクターなどを熱心に応援し、日々の生活における活力や潤いを得る「推し活」。近年、新語・流行語大賞にノミネートされるなど、時代のキーワードとなりつつある。人はなぜ、誰かを推さずにはいられないのか。「推す」「推される」の関係性の中で生まれるものは何か――。5月12日から公開予定の映画が、そんなことを考えるヒントになるかも知れない。

 「劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ」(大谷健太郎監督、ポニーキャニオン配給)。平尾アウリさんの同名の漫画(通称「推し武道」)が原作だ。岡山県で活動するローカルアイドルグループ「ChamJam」(愛称ちゃむ)のメンバーである市井舞菜を「推す」ことに情熱を注ぐ破天荒な主人公「えりぴよ」を中心に、アイドルとファンたちの悲喜こもごもの物語が描かれている。漫画は9巻まで刊行され、2020年にはアニメ化、22年にはテレビドラマ化された。「劇場版」は、アイドルグループ「乃木坂46」元メンバーで、大阪府出身の俳優・松村沙友理さんが「えりぴよ」役を演じる。

 映画は、何者でもなかったフリーターの「えりぴよ」が市井舞菜と出会ったことで人生が変わり、その熱烈な応援ぶりによって伝説的なファンとなっていく様子を追いながら、推し活が人生にもたらす「力」を描き出している。

 主演の松村さんはこの映画について「舞菜は内気で遠慮がちなアイドルとして描かれており、飛び抜けて情熱的な『えりぴよ』との対比や、すれ違いから生まれるおかしみをまずは楽しんでもらえたら」と話す。

 一方で松村さんは、自らのアイドル時代を振り返り「アイドルの世界にも意外に舞菜タイプは多いというか、常に自信たっぷりという人は少ない。自信のなさや心細さを抱え、だからこそファンの応援や支えを必要としている」ともいう。

 舞菜とえりぴよは、ともに「ピュアな魂の持ち主」であり、その共通点が実は二人を結び付けているのではないか――と、原作漫画のファンでもある松村さんは見立てている。自らもアイドルとしてファンと接し、また相互の関係性を見つめてきた立場から、「どこか自分に似ている部分がある人を推す、というのはあると思う」と考察する。

 映画では、推す側・推される側が互いにパワーを受け取り、何かを補い合いながら前に進んでいくという双方向性も描かれており、「推し活」の世界を知る手掛かりともなっている。

 松村さんは「『推し』がいると人生は素敵になる。推しがいる人はもちろん、推しがいないという人にもぜひ見てほしい映画です」とアピールしている。

 上映館などの情報は映画の公式サイト(https://oshibudo-movie.com別ウインドウで開きます)で。

「舞菜には自分と似た部分も」 松村沙友理さんインタビュー

 松村沙友理さんはインタビューの中で、「えりぴよ」を演じるにあたっての思いなどを次のように語った。

 ――もともと原作漫画のファンだったと。 

 松村 はい。(2022年の)テレビドラマ化に際して「えりぴよ」役を演じたときにも、原作の魅力を損なわず、アニメ化作品のクオリティーにも負けず、原作ファンの方々にも受け入れてもらえる作品にしなければというプレッシャーがありましたが、映画作品はまた特別な緊張がありました。「推し武道」は、アイドル・ファンそれぞれの存在と、その関係性に対するリスペクト(敬意)がベースになっている作品です。どう演じるというよりも、まずはそのリスペクトを表現することを一番大切に考えました。

 ――えりぴよは、舞菜のどんな部分にひきつけられているのでしょうか。

 松村 理由は……えりぴよにもはっきりわかっていないのではないでしょうか。舞菜との出会いは全くの偶然。きっと恋に落ちる感覚に近かったのだと思います。

 ――偶然から始まったと。

 松村 アイドルとファンの最初の出会いって、ほとんどが偶然だと思います。テレビでたまたま見かけて目についた。どこかで見かけて気になった。自分のアイドル時代も、ファンが私を応援してくれるようになったきっかけはいろいろでしたが、そういうちょっとした偶然が多かったです。

アイドルは、コンプレックスも魅力になる

 ――舞菜はどんなアイドルですか。

 松村 アイドルとしてはちょっと不器用で内気、トークもそんなに得意じゃないということで、そんな自分にコンプレックスを持っています。でも、えりぴよは舞菜のそういう部分をこそ愛している。

 誰しもがさまざまな形で抱えているコンプレックスも、他者との関係性のなかで魅力に転化することもある。そのことが本人の自己肯定や自信につながっていくこともある――。そんなことも教えてくれるアイドルです。

 ――舞菜のように、引っ込み思案なアイドルも存在しますか。

 松村 むしろ、私がこれまでに会ってきたアイドルたちには、常に自信満々という子はあまりいなかったですね。たくさんのメンバーたちの中で過ごしていると、周りの子がすごくキラキラして見える。そんななかで「私が一番」とは思えないというか……。私にも舞菜のようなマインドがどこかにあります。でも、だからこそアイドルはファンの応援を水や空気のように必要としているんだと思います。

舞菜とえりぴよの共通点…アイドルとファンは「似たもの同士」?

 ――舞菜とえりぴよに共通点はあるでしょうか。

 松村 どちらも、とてもピュアな魂の持ち主だと思います。舞菜はアイドルという仕事を純粋に愛しており、えりぴよは舞菜を推すことに何か具体的な見返りを求めているわけではない。二人を支えている気持ちはただ、「好きだから」です。二人はどこか似ているのかも知れません。私のアイドル時代を振り返っても、アイドルとそのファンというのは、互いにどこか共通点や似た部分をもった人が多いと思うんです。無意識のうちに、自分と似たものがある人を推してしまう、というのはあるかも知れませんね。

 ――この映画では、えりぴよの「間の悪さ」が発揮されたり、舞菜がアイドル活動への自信をなくしたり、といった場面も描かれます。

 松村 アイドルの活動というのは運やタイミングに左右される部分もあります。この映画でも、そういう部分に起因する舞菜とえりぴよの「すれ違い」もテーマになっています。でも、そのすれ違いが、最終的には二人の絆を深め、劇的なラストシーンにつながっていく伏線になっています。

 ――ラストシーンの撮影場所は、雨の影響で急きょ変更されたそうですね。

 松村 はい。その結果、えりぴよと舞菜は最初に出会った思い出の地で再び顔を合わせることになるのですが、いま思えばこれ以上のラストシーンはないというくらいの感動的な場面になっています。雨という「偶然」がもたらしたシーンでしたが、もしかしたら、この作品にとっては必然だったのかもと思うほどです。ぜひ、最後の最後で、このカタルシスを味わっていただけたらと思います。

松村さんのファン・NMB龍本弥生さんからの質問に…

 ――「推し武道」の愛読者で、松村さんのファンでもあるNMB48の龍本弥生さんから松村さんへの質問が届いています。

 松村 えっ、なんですか。うれしい。

 ――「ChamJamのメンバーの中で、舞菜ちゃん以外に松村さんが推すとしたら誰ですか」と。

 松村 これは難問ですね。私は心も身体も「えりぴよ」になりきっていたので、もう舞菜以外の推しは考えられない……。

 でも、アイドルとして私が「こうなりたい」と思うのは「ゆめ莉」ちゃんかな。ほんわかしたやわらかい雰囲気をまとっているけれど、実はとても芯が強い。外から見ているだけではわからない部分があるというのが素敵だなと思います。

 ――龍本さんからさらにもう一つ。「女優さんとして活躍されていますが、表現力を磨くために一番力を入れていることはなんでしょうか」。

 松村 表現力を磨くというのは、実は私にとっても大きな課題だったんです。アイドル時代、アニメなどの二次元作品はよく見ていたんですけれど、三次元の実写作品にはそんなに多く触れてはいなくて。

 なので、私がやったのは「人間観察」ですね。人がどういう動きをし、どんなリアクションをし、どんな表情で何をしゃべるのか。周りの身近な人を観察し、街に出ては行き交う人の様子をこっそり観察し……。そうやって、改めて人の動きを見てみると、けっこう発見や気付きが多かったです。そんなところから始めてみるといいかも知れませんよ。

 まつむら・さゆり  大阪府出身。2011年に「乃木坂46」のメンバーとしてデビュー。21年にグループを卒業したあと、「プロミス・シンデレラ」(TBS系)、「農家のミカタ」(テレビ東京系)、「愛しい噓~優しい闇~」(テレビ朝日系)、「花嫁未満エスケープ」(テレビ東京系)などテレビドラマのほか、配信ドラマ「結婚するって、本当ですか」などに出演。映画作品などにも出演し、活動を広げている。今年5月12日公開の「劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ」は、グループ卒業後の映画初主演作品。

■「劇場版 推しが武道館いっ…

この記事は有料記事です。残り388文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら